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第七話・迷子の幼獣を拾う


「あ?」


僕は落ちてきたそれを無意識に受け止める。


すると崖の上からバラバラっと石の破片が落ちて来た。


ガルルルル


「へ?、ありゃバケモンか」


崖の上から大きな猪のような獣が真っ赤な目をしてこっちを睨んでいる。


たまにエルフの村で獲れる獲物より何倍も大きい。


『この辺りに棲んでいる魔獣の一種ですね』


モリヒトの冷静な声に、僕も落ち着いて自分の腕の中を見る。


「犬……?」


コロコロとした小型犬ぐらいの大きさの灰色の獣。


しばらく暴れていたが、じきにクタッとして動かなくなった。




 僕は崖の上を見上げて、


「モリヒト、あれは食えるか?」


と、訊ねる。


『ええ。 この辺りの住民は食べますが、ご入り用ですか?』


何を言ってるのやら。 僕らは食料の調達に来たんだぞ。


それに僕は斜め上から睨んでいる魔獣に怒りを感じていた。


あいつはこの腕の中の毛玉を、たぶん追いかけて来たんだよな。


「ご入り用だ。 狩って来い」


偉そうにしてすまん、と心の中で謝りながら命令っぽく頼む。


『承知いたしました』


ふいにモリヒトの姿が消えて、間もなく魔獣の叫び声がした。


おーおー、なんかやってるな。


「もう大丈夫だぞ」


僕は毛玉の背をそっと撫でる。


 その後、モリヒトが魔獣の巨体を浮かべて運んで来たが、海水で洗うのも拙い気がしたので一旦、塔に戻ることにした。




 塔からはそれほど離れていない。


しかし、中に収まるのか?、この巨体。


『どうせ壁は崩れていますから、この際、中を改装してしまいましょう』


は?。


「そんなこと出来るのか?」


『出来ますよ』


塔の外に獲物を降ろすと、モリヒトはまるで簡単なことのように言う。


『昨日は他のエルフに見つからないように出来るだけ外観はこのままにしておくつもりでしたが、アタト様さえよろしければ地下の部屋同様に出来ますよ』


そりゃそうか。 地下の部屋があの有様だしな。


 建物内の瓦礫を全て撤去。


その瓦礫を使って崩れた外壁部分を修復。


『ここにある材料だけで作りますので、建物内は空になりますが』


外観は古い石材のままで広い出入り口を作り、内部の壁と床を地下同様ツルピカにするそうだ。


まあ、何でもいいや。


「じゃあモリヒト。 改装と魔獣の解体処理をやってくれ。 ん?、やれ、のほうがいいか?」


モリヒトは笑いながら了承してくれた。




 それより、灰色毛玉が心配だった。


「僕は部屋でこいつをみてるよ」


『はい。 では、わたくしは作業を開始いたします』


僕は頷き、後はモリヒトに任せて地下へ下りる。


「ヨシヨシ、怖くないからな」


僕は自分の寝床から毛布代わりの布を持って来て、それで毛玉を包み込んだ。


ただ疲れて眠っているだけで命に別状はないらしい。


 よく見ると、どうも顔はタヌキっぽい。


この世界は獣でも多少の魔力は持っているので、こいつも魔獣には違いないだろう。


ただ、産まれて間もないのか小さい。


「何、食べるんだろう。 んー、とりあえず魔獣なら魔力は必要かな」


僕は覚えたての魔力を体内から外に出す。


薄い金色の靄が漏れ出すと、僕は懸命にこの毛玉を包むように念じる。


最初は霧散していた魔力は拙いながらも、だんだんと毛玉に絡まるようになってきた。




 キュ……


「お、目が覚めたか」


布に包まれたタヌキっぽい魔獣の子。


濃い灰色のフワフワした毛は手足や尻尾、耳や鼻先などの端へいくほど黒っぽくなっていく。


真っ黒でクリクリした丸い目で僕を見ている。


「何か食うか?。 いや、水分が必要かな」


僕はあたふたと皿を用意し、ケトルから冷めた白湯を注ぐ。


「飲めるか?」


必死に話し掛けるが毛玉はじっと僕を見ているだけだ。


「はあ、そうだよなあ。 言葉も分からんだろうし」


僕は布の側に皿を置いた。


 そろそろ昼飯時。 僕はリンゴを取り出してシャクッとかじる。


さて、これからどうしよう。


自分の生活もどうなるか分からないのに、こんな小さい命に関わるなんて。


ビチャビチャと音がして、毛玉が皿を舐めていた。


僕はその姿に目を細める。


「ほれ、これも食うか?」


目の前にリンゴの欠片を出してやるとスンスンと匂いを嗅ぐ。


皿の横に置くと両手に持って食べ始める。


僕は自分の食べかけもそこに置いた。




『アタト様、終わりました』


「おう、お疲れ」


一時間くらい掛かっただろうか。


モリヒトがようやく戻って来た。


『獣は解体して肉とそれ以外に分けました。 これはとりあえずアタト様の試食用です』


そう言ってモリヒトは切り取って来た肉の一部を火で炙り始めた。


『本来なら数日間は熟成したほうが美味しいそうですが、その辺りは魔法で食べ頃にいたしましたので』


ジュージューと肉の焼ける良い匂いがしてきた。


「すまん、ありがたい」


久しぶりの肉だ。




 モリヒトは布に包まって眠る毛玉を観察する。


「そいつに水と果物を与えておいた。 ちゃんと食べてから寝たぞ」


『そうですか』


モリヒトは興味なさそうに返事をしたが、眉間にシワを寄せている。


『面倒ですね』


「ん?、何がだ?。 ああ、こいつの世話も増えたからか」


『いえ。 アタト様、この魔獣は野生ではないようですので飼い主に返さなければなりません』


え、これは野良じゃないんか。


『毛並みを見れば分かります。 野生ならこんなに綺麗な体をしていませんよ』


そうなのか……、何となく残念。


まあ、ここの常識も分かってない僕が傍に置いておけるわけもない。


 肩を落とした僕にモリヒトが焼けた肉を乗せた皿を渡してくれる。


「うまいな」


『魔力が豊富な魔獣ですから』


この世界は魔力が高いほうが人だろうが獣だろうが上位とされている。


味も良いらしい。




 そうか。 飼い主というか、家族がいるなら返してやらなければいけない。


「じゃ、探しに行くか」


まだ幼獣だ。 早く帰りたいだろう。


モリヒトがマジかっていう顔をした。 


『……人族の町に行くつもりですか?』


「毛玉の飼い主が人間ならそうするしかないだろう」


モリヒトは考え込んだ。


『ではついでに解体した不要なものを売れるか聞いてみましょう』


お、金が手に入るのか。


少し楽しみになってきた。



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― 新着の感想 ―
『……人族の町に行くつもりですか?』「毛玉の飼い主が人間ならそうするしかないだろう」 70歳まで生きた経験があるのに、人族の町に行く危険性を全く考慮しないのは、愚かのように思えます。
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