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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第六十八話・解熱用の薬草が必要


 それは解熱用の薬草だった。


「熱か……」


高熱は弱い者なら命に関わる。


僕は気合いを入れた。


「ガビー、この薬草を分布図で見ると、この辺りだ」


簡単な地図だが、いつも歩き回っている範囲に薬草の群生地がある。


「分かりました」


頷くガビーが頼もしい。


気配を消してはいるが足音を立てるのは拙いのでゆっくり、そーっと歩く。


「ありました!」


「シーッ」


「あ、すみません」


一度見つけた後は、タヌ子に採取した薬草を見せて匂いを覚えさせる。


ニャーン


タヌ子も探し始めた。




 採集は思ったより順調。


だけど、順調過ぎて怖いな。


天気が良くて、暗い森の中に木漏れ日が降る。


そんな場所に良く薬草が繁殖していた。


慎重に採取していると、ふと気配を感じる。


光の玉も忙しげに動く。


「ガビー、止まれ」


声をころして動きを止める。


ミューン


タヌ子が薬草に近寄ろうとした時、何かが飛んで来た。


「くっ。 タヌ子、こっちに来い!」


矢がタヌ子の側の木に突き刺さる。


タヌ子を引き寄せ、厳戒体勢をとって周りを見回す。


防御結界があるから身体的には大丈夫だとは言っても、明らかに狙われたことは心に傷が付く。


僕たちは思ったより森の奥まで来てしまったみたいだ。




 心臓がドクドクと痛いくらい煩くなる。


じっと身を縮めて気配を探るが、なかなか掴めない。


クソッ、モリヒトがいないだけでこんなに心細くなるのか。


ハッ、来る!。


弓から矢が放たれた気配を感じた。


その方向に向けて、僕は風を起こす。


僕が何度か使っている魔法は詠唱の必要はない。


魔法の詠唱が必要なのは習い始めだけで、慣れると必要がなくなるのだ。


 目標を逸れた矢が地面に落ちる。


『ほお、一瞬でウチの矢を叩き落とすとは、なかなかやるわね』


女性、というより女の子のような声がした。


見上げた木の上にボンヤリと光る三歳程度の子供の姿が見える。


「だ、誰だ」


すぐにその姿が消えた。




「あー、ごめんねー、アタト」


ガサガサと草をかき分ける音がして、エルフの女性が現れる。


「ネルさん?」


長老の友人で精霊魔法士のエルフ。


「ああ、久しぶりだな。 ほら、お前は謝れ」


その後ろにフワフワと浮いている子供がいる。


『えー。 むう、仕方ないなあ』


さっき、矢を射かけてきた奴だ。


「そ、そいつ」


「アタト、ごめんな。 あたしの眷属精霊だよ」


『ごめんなさーい』


テヘッ、と舌を出す。


精霊かあ。 じゃあ、仕方ない。


眷属になると少しは落ち着くらしいが、精霊は元来イタズラ好きなのだ。


僕はホッとすると同時に汗が吹き出すのを感じる。


「ここじゃ、なんだし。 少し移動しよう」


ネルさんがそう言うので、僕たちはついて行った。




 かなり歩いて森から出てしまった。


「あのー」


僕は採集の途中だったから戸惑う。


「薬草なら心配いらないよ。 あたしも採取してたからな」


え?。


モリヒトの分身がやたらとネルさんの眷属精霊に絡んでいる。


「分かった分かった。 アタト、眷属を止めろ。


そうだな、お前の住処にお邪魔していいか?」


「あ、はい、モチロンです。 モリヒト、やめて」


そこからは僕たちが先頭になり、塔へと向かった。




「ほお。 なかなか快適だな」


地下の部屋にネルさんを招いて、お茶にする。


「僕とモリヒトで作った薬草茶ですが、味は如何ですか?」


長老のお茶を知っている相手なので恐る恐る訊いてみる。


長老の味には敵わないけど、近くはなったと思う。


「うん、良いんじゃないかな」


良かった。


 ガビーが昼食の準備を始め、ネルさんの眷属精霊はタヌ子を構っている。


「ネルさんも薬草を集めていたんですね」


お茶を飲みながら話をする。


「ああ。 今日は森にエルフが少なかっただろ?。


実は今、森で病が流行っているんだ」


「え?」


まさか、人族の町と同じやつなのか?。


村の皆の顔が浮かんだが、僕が心配しても仕方がない。


どうせ村には戻れないんだから。




「長老はお元気なんでしょうか」


「あれは殺しても死なないよ。 まだ村にも戻っていないようだし」


それはそれで問題がありそうだ。


長老は村では医者のような立場だったみたいだから。


「まあ、そのバカの代わりにあたしがこうやって薬草を集めてやってるんだ。


お前は心配するな。


どうせ村に行ったところで、お前が病の原因だとか、お前の呪いのせいだとか言われるぞ」


うん。 僕もそんな気がする。


 そうか。 ネルさんが僕を森から離したのは、他のエルフにもそういった濡れ衣を着せられる可能性を考えてのことかな。


「アタトはいつもの採集にしては、森の奥まで来ていたな」


「はい、実は」


僕は人里でも厄介な病が流行っていて、薬草を頼まれていることを話した。


ネルさんはフムと考え込む。




 ガビーが葉野菜と一緒に、魔獣の肉を炙ったものや、魚の燻製の柔らかいものを挟んだパンを出す。


「おー、美味いな」


僕が燻製をタヌ子に与えていると、ネルさんの眷属精霊も手を伸ばしてくる。


ネルさんに確認してから渡してやると、最初は匂いが苦手そうだったが、タヌ子に釣られて口に入れた。


美味しかったらしく、目がキラキラ輝いている。


『ただいま戻りました』


光の玉がいないと思ったら、モリヒトが戻っていたのか。


『げっ』


ネルさんの眷属が慌てて姿を消す。


それを見た僕とネルさんは、顔を見合わせて苦笑した。


本当にモリヒトが苦手なんだな。




「お帰り、モリヒト。 町はどうだった?」


何だか疲れた顔をしている。


『とりあえず薬草茶は納めて来ました。 代金は後日になるそうです』


まあ、それは別に構わない。


『ヨシロー様が誰かの陰謀だと騒いでおりましたが』


モリヒトは大きく息を吐き、声を落とす。


『わたくしは町で不思議な気配を感じました』


僕は驚いてモリヒトを見る。


「あたしもだ。 山のほうから何かの気配がする」


ネルさんも頷いた。




 ネルさんが言う山とは、辺境の町と隣国の境界である険しい山脈のことである。


しかし、山には魔素は薄く、魔獣などは発生しにくいといわれていた。


「山に何かが?」


それが広範囲に影響を与えているのではないか。


エルフの森にも、人里にも。



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