第六百六十七話・未来への種のために
最終話なので長めです
『よろしかったのですか?、あんな約束をされて』
いつの間にか、モリヒトが戻って来ていた。
「ハナがそれでいいなら構わんよ」
今は若いから周りがあまり見えていないのだろう。
近くにいる僕が便利なだけさ。
「そのうち、別れたいって言い出すかもな」
苦笑しながら階段を下りて、地下の自室に戻った。
翌朝、少し遅めに起きる。
『先ほど眷属の皆さんは参拝を済ませて、仕事に戻られました』
「そか、分かった」
大きく背伸びをして目を覚ます。
神社に参拝した後、地下にある訓練所に行って体を解し、一通りの動きを確認する。
10年前にダークエルフの戦士たちに出会ってから、しばらくの間、僕は農場で彼らに鍛えてもらった。
ダークエルフ族ほど筋肉は付かなかったが、動きはかなり洗練されてきたと思う。
ツゥライトも教えると言い出したが、それは却下した。
今さら親子ごっこはキツい。
訓練所を出るとキランが待っていた。
「お式はいつになさいますか?。 まさか、本気で届け出だけで済ますおつもりですか」
あー、ハナとの婚姻の話か。
もうすでに噂は本部内に広がっているようだ。
「近いうちに2人だけでやるつもりだ」
毎朝参拝している神社の前で神に報告するだけでいいだろ。
そう言ったら、キランは顔を顰めた。
僕は派手にやる気はない。
偽装婚約から白い結婚である。
知らない者が多い方が良い。
「参列したい者は普段着で来いって言っとけ」
「はあ」とキランの気乗りしない声がした。
部屋に戻ると、ハナが朝食の準備をしている。
「おはようございます、アタト様」
「おはよう、ハナ」
ハナはいつも通りだ。
指輪は僕が用意してある。
夫婦で揃いの指輪をするのは王族や貴族だけの慣例だが、それだけは贈りたいと思っていた。
「指輪を準備していたのですか?」
キランが不思議そうに訊ねる。
「ああ、ガビーの親父さんに頼んであったんだ」
誰でも使えるよう、指のサイズが自動で変わる魔道具の指輪があると聞いた。
親方に希少鉱石を入手したら、指輪にしておいて欲しいと頼んでいたのだ。
先日、完成したとガビーが届けてくれたのでちょうど良い。
それを使おう。
数日後の早朝。
「なんだ、これは」
今日、僕はハナと神前婚をする予定だったのだが、部屋の前には人集り。
「ずるいです!、アタト様」
ガビーに泣かれる。
「2人だけで挙式なんて、ハナちゃんがかわいそうよ」
何故、ここにケイトリン夫人がいるのか。
「事情は聞いたけど、やっぱり皆、アタトくんを祝いたいんだよ」
ヨシローがタカシを連れてやって来た。
タカシはゼイフル神官長の元でこの世界について学び、数年前から領主館でヨシローの秘書をしている。
子供扱いしてくれるヨシローの傍で、タカシはだいぶ大人になった。
「分かった。 分かったから、ちょっと待て」
と、言って扉を閉める。
はあ、どうするかな。
『諦めてください。 庭でやりましょう』
えええーーっ。
珍しくモリヒトが先頭に立って、皆を庭へと連れて行く。
僕とハナは身支度してから向かうことになった。
「行こうか」「はい」
白い礼装の僕と白いドレスのハナ。
庭の一角に神社を出現させ、その前まで歩く。
和洋折衷どころじゃない。
世界もごちゃ混ぜだけど、気にしない!。
ここは『異世界』だしな。
「こんなものまで作ったの?。 アタトくん、『異世界』好き過ぎるだろ」
呆れた声はヨシローか。
エルフのじっちゃんが僕の親として、ウスラート氏が花嫁の父として最前列にいた。
ツゥライトは闇の精霊と共に参列者の中に混ざっている。
ゼイフル神官長が神社に驚きながらも、僕たちを祝福の祝詞を唱える。
僕は揃いの指輪の片方をハナに渡し、お互いの指に嵌めた。
その時、バサリッと羽ばたきが聞こえ、神社の屋根に黒い鳥が止まる。
見た目はカラスに似ているが、それより大きな体をした魔鳥。
ゲッ、迷宮で会った神だ。
僕はハナを引っ張り、膝を地面につけて2人で礼を取る。
「お久しぶりでございます」
『ふむ。 覚えておったか』
「勿論でございます、この世界の神よ」
なんで来たんだと嫌味を込め、微笑んで見上げる。
「神様?」と、恐る恐る僕を見るハナに頷く。
「正確には、神が下々の者たちの前に現れるための御姿の一つだ」
「へっ」「マジか」
参列者も一斉に礼を取り、頭を下げる。
『よい。 頭をあげよ。 今はただ御遣いたる者を祝いに来ただけだ』
「勿体のうございます」
『クククッ』と黒い魔鳥が笑う。
『では、祝いを授けなければな』
何かくれるらしい。
『大地の精霊に、この地に迷宮を造ることを許そう』
「え?」
僕はモリヒトを見る。
『我が主に、何を祝いに贈るのが良いかと訊ねられたので、商売の種になるものではと』
夜中に不在になっていたのは、新たな迷宮の下調べをしていたせいだそうだ。
「この辺境地に迷宮が?」
思わず声を上げたのは領主のケイトリンとヨシローの夫婦である。
「どこに造るつもりなんだ?」
僕はモリヒトに訊ねる。
『祝いを贈られるのはアタト様です。 ご希望はございますか?』
逆に訊かれた。
ふむ。
「じゃあ。 この森の外、エルフの森との間にある草原の真ん中に迷宮の入り口となる建物を作らせてください」
そして周りには、迷宮探索に必要なものを売る店や、宿を作って町にする。
近くには人間の住む辺境の町、そしてドワーフの地下街。
さらにエルフの森、ダークエルフの隠れ里。
興味がある者たちは皆、やって来るだろう。
そうしたら、彼らが出会って仲間になれる酒場も必要だな。
「良かったら、タカシ、迷宮を設計してみないか?」
「えっ、俺が?」
僕は頷く。
勿論、モリヒトの補佐付きである。
「『異世界』の知識で、この世界に新しい迷宮を造ってほしい」
誰でも純粋に楽しめるゲームのような、そんな遊園地みたいな迷宮。
「ここには『異世界の記憶を持つ者』が多い。 皆で知識を集めて『異世界』の迷宮を造ろう!」
これから先の未来に訪れるかも知れない『異世界人』や『異世界の記憶を持つ者』たちも楽しめるような。
「いいの?」と、タカシの目が輝く。
「『異世界好き』の僕に最高の贈り物だと思わないか?」
ーーーー異世界を信じる皆様へーーーー
あなたは、どんな『異世界』がお好みですか?。
常識が通用しない世界で何が出来るだろう。
魔法も剣も使えないのに、と心配になりますよね。
でも、この辺境地なら大丈夫!。
異世界料理も色々とご用意しています。
護衛付きで魔獣狩り、魔魚釣りも出来ます。
精霊や様々な種族にも出会えます。
アトラクションとして楽しめる迷宮もありますよ!。
さあ、いらっしゃいませ。
あなたの好きな『異世界』へ。
『異世界』好きなダークエルフより
長い間、お付き合い頂き、ありがとうございました




