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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第六百六十五話・思い出の中の真実


 闘技場は静まり返り、その後、大歓声に沸いた。


「私は驚き過ぎて言葉が出なかったよ」


エンディは呆れたと笑う。


今では笑い話だが、10年前は大騒動になった。


「良い機会だと思ったんです」


僕は目を閉じる。


 


 ダークエルフの隠れ里は、当時、すでに人口の減少が進んでいた。


このままでは緩やかに衰退していく。


本当に種族ごと消えてしまう。


危機感を抱えていたツゥライトは、アタトたちとの接触を機会に町の活性化を望んだ。


「特に若い者たちに刺激を与えたい」


将来に希望が持てなくなっていたせいで、子供が産まれなくなっていたのである。


 だから僕は無理矢理、剣術大会に女性の戦士を送り込んだ。


戦闘民族が将来の光を見出みいだすなら、戦いの場だろう。


ダークエルフの戦士は見事に優勝し、褒賞として希望を訊かれた。


『私の望みは一族のことを世界に知ってもらうことです』


闇魔法を使うから『悪魔』だとか、『教会に反発している』と誤解されている。


それを払拭し、ただ普通に生活したいだけだと訴えた。




「あの後、お前が王宮に呼び出されて、ダークエルフの代表を連れて来ることになっただろ」


何故か、エンディも王宮に呼ばれていた。


「合同とはいえ主催者のひとりだったから、お前とグルだと思われて迷惑したんだぞ」


「うん、それは申し訳なかった」


本当はエンディの日頃の行いのせいだと思うがな。




 ダークエルフ代表は勿論、ツゥライトである。


長く商人として働いている彼は弁が立つ。


しかも闇の眷属精霊持ち。


誰も怖くて触れやしなかった。


 ダークエルフ族の主張は通り、国と教会から正式な公布が行われた。


「お蔭で傭兵派遣部門には問い合わせが殺到したよ」


そこからダークエルフたちは傭兵として広く活躍していった。


今では国内、国外問わず引っ張りだこである。


「だな。 うちの領地でも重宝してるよ」


と、エンディは苦笑する。


ダークエルフは馬鹿力のドワーフさえも抑えるからな。




 エンディはキランと遊ぶ愛娘を見る。


「アタト。 お前、あのダークエルフの息子なんだって?」


「誰のことでしょう」


「王宮に来た商人だ。 ツゥライトとかいったな」


チッ、覚えてやがる。


「そういう事実はありません」


何故か、エンディはため息を吐く。


「自分を捨てた親が現れて腹が立つ気持ちも分かるが、20年も前の話だろう。 もう許してやったらどうだ」


「許すも許さないも、あの男は父親ではありませんから」


状況証拠だけでは確定しないよ。




 エンディは、わざわざ娘のために辺境地まで飛んでくるほどの子煩悩だ。


父親として扱われないツゥライトに同情しているのだろう。


「しかしなあ……」


「母親が出て来て、あの男が父親だと断言したら認めますよ」


それでなければ認める必要もない。


母親を追い出したのは彼の眷属精霊であり、彼女を探さなかったのは彼自身だ。


アタトの命はそこで途切れ、今の僕には関係がない。


傍で成長を見守るくらいはさせてやる代わりに、便利に使っている。


「厳しいな」


「そうですか」


ふん、勝手に言ってろ。




「母親は見つからないのか?」


長命種族であるエルフ族は、体のほとんどが魔力で動いている。


その魔力が枯渇すると体は急激に衰え、存在自体出来なくなるという。


「見つからないということは、そういうことです」


これが精霊なら周りの魔素を吸収して再生可能だが、エルフの場合はその力自体が魔力で動く。


魔力が失くなれば、当然その力も失うのである。


「しかし、遺体も見つかっていないのだろう?」


「20年前ですからね」


僕には分からないよ。




 その夜、昼間、エンディとそんな話をしたせいか、少し気になって眠れなかった。


最近のモリヒトは、たまに夜中は出掛けて不在になることがある。


おそらく、もうひとりの主のところだろうと推測。


僕は上着を羽織り、地下からあがって庭に出た。


 先の冬に僕は20歳になった。


朧な春の月を見上げながら、元の世界の母親を思う。


成人になった息子を見て喜んだだろうか。


この世界の親も同じだろうか。


 10歳の時、ダークエルフ族に出会った。


やっと同族に出会えたというのに、そこにはアタトの母親はいなかった。


「じっちゃんが戻って来てくれたのは嬉しかったけど」


あれから、長老はフラフラとエルフの森の中を徘徊しているらしい。


何やってるんだか。




「様子を見て来るか」


闇で出入り口を作り、エルフの村の近くに出る。


高い木の枝に腰掛けて辺りを伺う。


子供の時に追い出されたっきり、ここには来ていない。


懐かしいという思いと、嫌な記憶が混ざり合う。


「アタトか?」


いきなり下から声を掛けられてビクッと体が跳ねて落ちそうになり、木にしがみ付く。


「ネ、ネルさん」


じっちゃんの友人の女性エルフだ。


「よぉ」と、片手を上げて挨拶してくる。


「どうしたんですか?、こんな時間に」


彼女はこの村の者ではない。


「それはこっちが聞きたいが、まあいい。 丁度いいから一緒に来い」


僕は木から降り、彼女の後を着いて行く。




 エルフの森を流れる小川の一つ。


「ここはー」


「幼いお前が倒れていた場所だ」


川沿いに進むと、誰かの話し声が聞こえて来る。


じっちゃんと、もう1人は知らない声。


「それは間違いないか?」


「もう止めてくれ!、おれは本当に何もしていないんだ!」


威厳のある長老の顔をしたじっちゃんが、小太りのエルフの男性を問い詰めている。


「20年前、ここで女性を見たんだな」


「ああ。 だけど、子供がいたなんて知らなかったんだ」


ピクリと足が止まる。


足音をさせてネルさんが近付いて行く。


「子供を連れた女を、アンタはどうした?」


「ヒィィ」


ネルさんの殺気に男性は震え上がる。


僕は木の陰で固まったまま、動けずにいた。




「魔力を使い果たして弱っていたんだ。 どうせ放っておいてもすぐに命が尽きるのは目に見えていたよ」


だから?。


「消えるのをただ待っていただけだ」


エルフが亡くなると体だけが消え、服や装備品は残る。


それら金目のものを盗むために見張っていた。


「そしたら女性の下に子供がいたんだ。 でも、死にかけてたんだよ」



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