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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第六百六十三話・戦闘の仕方を考察


 愛用の双剣を取り出す。


「へえ」


ツゥライトの声に、向かい側に立つ彼を見る。


「えっ」


彼も双剣を手にしていた。


僕のは体格に合わせた長さなので短いが、ツゥライトのは大人用の長剣である。


こちらの分が悪いかな。




 お互いに模擬刀ではなく真剣なのは、本気でやり合う気がないから。


戦闘のやり方を見てもらうだけのつもりだ。


怪我ぐらいなら、お互いの眷属精霊がすぐに治せるしな。


『死なせない程度にお願いします』


モリヒトが闇の精霊を見て言った。


『そっちもな』


あー、精霊同士の争いは困るな。




 ダークエルフ族の町に眷属精霊が多くいるのは、エルフの村と同じである。


ほとんどが軽い指示と、能力向上しか出来ない弱い精霊の玉だ。


戦闘民族であるダークエルフは、相手に眷属精霊の存在を知られると戦闘に影響が出る。


そのためダークエルフの眷属精霊は普段は姿を消しているそうだ。


 しかし、強大な力を持つ精霊がごく一部いる。


その精霊を眷属としている者が代表者として、他の精霊を抑えていた。


それがツゥライトであり、エルフの村の長老だった。


まあ、長老が居なくなった村がどうなったかは知らないけどな。




「行くぞ」


ニヤニヤと嬉しそうな顔でツゥライトが突っ込んで来る。


片手で弾くが、やはり子供の力では軽過ぎるな。


もう片方が来るのは承知の上。


飛び上がって避けると、もう片方で彼の腕を狙う。


ツゥライトの口元が笑っている。


「チッ」


彼の服自体が鎧のようで、刃が通らない。


「やはり身が軽いな」


同じ高さでツゥライトの声を聞く。


「グッ」


クソッたれ!。




 今までの相手には身の軽さ、手数の多さで優位に戦ってきた。


同じ戦闘スタイルなツゥライトとでは、体格や経験は向こうがかなり上だ。


それに闇魔法も相手の方が強いだろうしな。


 刃物が通らないなら仕方ない。


だから僕は違う魔法を使う。


「豪炎」


ドワーフのガビーから習った炎系魔法で、ツゥライトの機動力の足を狙う。


「なんだとっ!」


落下したツゥライトが片足で着地したところを土魔法で泥沼にする。


「うへぇ」


バランスを失った相手の顔を目掛けてナイフを投げる。


「必中」


キランが遠距離攻撃が得意で良かったよ。


一緒に練習していたら、いつの間にか風魔法を習得していた。


『そこまでにしな』


ナイフが空中で止まって、落ちた。


闇の精霊の声に、僕たちは戦闘を止める。




「ありがとうございました」


僕は軽く感謝の礼を取る。


「いやいや、負けたよ」


ツゥライトは闇の精霊に治療されながら、そう言った。


「いいえ。 だいぶ手加減されていました。 僕ではまだまだ敵いません」


他のダークエルフたちも頷いている。


おそらく、ツゥライトはダークエルフの中でも強い。


僕が子供だから手加減したというか、ただ力を測りたかっただけだろう。


彼からは戦闘の意思は感じなかったからな。




 ハナが僕の顔の汗を拭う。


「ありがとう。 自分でやるよ」


「はい」


タオルを受け取り、汗を拭いて着替える。


半裸を何故かダークエルフたちに見られていた。


「何か?」


「いや、なんでもない」


僕は首を傾げる。


「アハハハハ」


ツゥライトが笑う。


「アタトが可愛いから女の子だと思ってたんじゃないか?」


は?、まさか。


 元々エルフは中性的だと言われるが、僕はそんなに女顔なのかな。


「そういえば、彼らはアタトくんが女神像に似てると言ってましたよ」


ティモシーさんが教えてくれる。


なるほど。


ダークエルフ族の神は女性で、女性でも戦うのが普通ということだ。


「ツゥライトさん。 女性兵士の方々もよろしくお願いしますね」


「お、おう」


女性兵士は貴重なので助かる。




 しかし、問題はダークエルフ族の存在だ。


改めて皆と食事をしながら話をする。


「里のことは知られないほうが良いでしょう」


里、つまりダークエルフ族の町。


それを隠すために、大国ズラシアスの辺境地から来た、ということにした。


 ズラシアスは国土自体があまりにも広いので、元王族のティファニー嬢でも知らない場所がある。


辺境地となれば、ズラシアスに属しているかどうかも怪しいらしい。


「では、ズラシアスの役人も知らない可能性がありますね」


僕はティファニー嬢に確認する。


「そう思いますわ」


ダークエルフたちも顔を見合わせて頷いた。


これから農場や商会、人族と付き合っていく上で必要な設定ということを理解してくれたようだ。




 日頃は擬態していても、サンテや教会の神眼にはお見通しである。


サンテは僕がダークエルフだと知っているので、ツゥライトや仲間たちをすんなりと受け入れた。


だが、教会を誤魔化すことは難しい。


どうするかな。




 色々と課題が見えて来た。


「これからよろしくお願いします」


あちこちで握手し、挨拶を交わしている。


その晩から、ダークエルフ族の教会警備隊は農場に常駐し始めることになった。


「じゃあな」


ツゥライトも町へ戻るため、片手を挙げる。


僕はその姿に向かって声を上げる。


「ツゥライトさーん。 契約書を作りますから、なるべく早く来てくださいねー。 お部屋も用意しておきますから!」


「お?」


ツゥライトが目を丸くして驚いていた。


 僕は最初から彼には本部に部屋を用意するつもりだった。


新しい取引先だからね。


これから、またドワーフのお婆様に苦労かけることになる。


一緒に怒られてくれ。


「分かったー」


ツゥライトは何度も振り向きながら、嬉しそうに帰って行った。


 


「じいちゃん、大丈夫?」


本部に戻った僕たちは、長老を僕の部屋の和室に運んだ。


小さな妖精姿の精霊もヒラヒラと着いて来る。


「ああ。 すまんな、迷惑を掛けた」


「ううん。 無事で良かった!」


その日は一緒に横になって話し続けた。


 しかし、翌朝、目覚めると長老の姿がない。


『すまんな、アタト。 ワシは村に帰るよ』


長老は自分の村が気になり、一度戻ることにした、と手紙を残していた。


自分の役目は終わったと言わんばかりに。


『大丈夫だ、今度はいつでも会えるから』


じっちゃんは照れ屋だからなあ。


僕は目から溢れた水を拭って笑う。



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