第六百六十話・夜の農場に集う
申し訳ありません、書き直しました
その場でジョンへの返答は避けた。
絶対モリヒトに呆れられるからな。
「夜に一度、本部に来てくれ」
「うん、分かった」
少し不満気ではあったが、ジョンは素直に頷き、そのままワルワ邸に入って行く。
たまには、僕ものんびりと歩いて帰るか。
「よく我慢しましたね」
キランが話し掛けてきた。
ん?、ジョンを眷属にしなかったことか。
「アタト様は、ちゃんとモリヒトさんの意見を聞くんですね」
当たり前だ。 精霊は怖いんだぞ。
「精霊でも眷属なんですから、アタト様には従うんじゃないですか?」
キラン、それは違う。
「精霊は嘘は吐けないから、その分、嫌になったらすぐにいなくなるぞ」
自分の気持ちを曲げてまで付き合うことはしない。
たとえ眷属でも、主にそれだけの価値や執着がなければ切り替えも早い。
精霊とはそういうものだ。
「そんなものですか」
「そんなもんさ」
しかも、モリヒトの場合は精霊王の命令だから仕方なく傍にいるだけ。
だから、異世界の常識を知らない僕には、特に厳しいのである。
農場の教会はモリヒトの自信作らしい。
近くに闇の精霊がいるから下手なものは作れなかったんだろうな。
夕方から商会の皆で新しい教会を見に行くことにした。
ついでに、広場でのヨシローたちのお祝いが中途半端になってしまったから、その分も含めた完成祝いの夕食会にしようと思う。
「アタト様のお好きな料理も作りましたぞ」
「お酒もたっぷりございましてよ」
食堂の老夫婦とドワーフのお婆様も参加するための準備を楽しんでいた。
女の子たちは着飾り、男たちはまた宴会が出来ると楽しみにしている。
「そろそろ行こうか」
「はーい」「おうっ」
本部にいる皆で、闇の道を抜けて農場に向かう。
ジョンは本部にはひとりで来た。
「ウィウィは連れて来なかったのか?」
一緒に農場を歩きながら訊ねる。
「今日は、創作に、夢中になってた、から」
そっとしておいたと言う。
ジョンにとってウィウィは自分の好きなものを創り出してくれる魔道具師。
守りたい、大切な『推し』だ。
「アイツの作品を買うために、俺も金がいる」
ジョンは、僕の後ろを歩いていたモリヒトに訴えた。
「アタトに雇ってもらいたい。 きっと役に立ってみせる」
相変わらず仕事仕様のジョンは滑らかに話す。
モリヒトは、目だけがチラリとジョンを見た。
『雇用関係だけでよいのなら構いませんよ』
商会の使用人のひとりとして雇うのは良いらしい。
「それ、以外に、あるの?」
眷属契約など知らないジョンは首を傾げた。
うん、そうなんだよ。
ジョンを眷属にする必要はないんだ。
「良かったな、ジョン。 後で契約書を作ってやる」
雇う名目は「雑用係り」でいいな。
ジョンは執事から用心棒まで、なんでも熟す。
見た目が強そうじゃないからこそ、何かあった時には影に隠れて力を発揮出来る。
便利な奴だ。
「うん、ありがとう」
ジョンは笑って頷いた。
農場の中、少し奥まった位置に教会は建っている。
僕の感覚では闇の精霊の結界に近い気がした。
「大丈夫なのか?」
コソッとモリヒトに訊ねる。
『問題ありません』
後から文句を言われるのはご免だぞ。
モリヒトが光魔法を飛ばして教会全体を淡く照らし出す。
「おー」と、自然に感嘆の声が漏れる。
白い大理石のようなピカピカの石で出来ていた。
柱や壁には模様が彫られ、派手に見えるが上品な感じになっている。
「わたくしがモリヒト様にお願いいたしましたの」
ティファニー嬢の希望だったようだ。
「素敵です」
とりあえず褒めておいた。
教会前は広場になっており、宴会用のテーブルや椅子が石で作ってある。
皆で次々に料理や飲み物を並べていく。
ドワーフたちは傍に屋外用の竈門を作り、肉を焼き始める。
誰かが楽器を持ち込み、陽気な音楽を奏で始めた。
ジョンも隅っこで執事仲間のサンテとおしゃべりをしながら手伝っている。
雇われたことを報告しているのだろう。
サンテ、頼むから余計なことは言うなよ?。
離れた場所から睨んでおく。
皆が準備をしている間、僕は教会の中を見て回ることにした。
天井の高い礼拝堂。
柱の模様、壁には彫刻、窓には色ガラス。
ズラシアスの芸術的な教会様式に近い。
エテオールは本当に質素だからな。
正面の壁の中央に神像が設置されている。
なんとなく、どこかで見たような。
「その像はオレが頼んだ」
ツゥライトの声がして、見回す。
「こんばんは。 賑やかだな」
得意の擬態で人族の男性の姿をしたダークエルフがいた。
何歳かは分からないが、美青年の姿になっている。
2人で像を見上げた。
あー。
「これは女神ですか」
「ああ」
少し目を細めて見る。
そうか。
ツゥライトの恋人だという、あの絵の女性エルフに似ているんだ。
「お前にも似ているから問題はないだろ?」
僕は首を横に振る。
「性別を変えた覚えはありませんよ」
「アハハハ」
笑われた。
「それより、そこの騎士に聞いたんだが」
ツゥライトはティモシーさんを指差す。
モリヒトが作業している時に顔を出して、ティモシーさんとも顔見知りになったらしい。
「教会には警備隊が必要なんだってな」
「ええ」
「しかも人手不足なんだろ?」
「はあ」
それがどうした。
「うちの町からも兵士を出そう」
「えっ?」
僕が驚いているうちに、警備隊の控え室から数名の男性が出て来た。
ツゥライトの仲間のダークエルフだろう。
全員が人族の若者の姿に擬態していた。
僕はティモシーさんを見る。
「いいんですか?。 彼らは信者ではありませんけど」
「これから学んでもらえばいいさ」
ティモシーさんは擬態したダークエルフたちを連れて広場に向かう。
彼らを新しい教会警備隊隊員として、皆に紹介している。
まあ、教会側が良いなら構わないけど。
話があるというので、神官の控え室に移動する。
ツゥライトと闇の精霊からは、この農場とダークエルフの町を繋ぎたいと、提案された。
「それは構いませんがー」
そもそも、あんたたちは隠れて生活してたんじゃないのか?。
「隠れるのもそろそろ飽きてきてたんだ」




