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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第六十六話・甘いものの誘惑が


 翌日、トスを町に返すことになった。


持って来た荷物を纏めているところに、漁師のお爺さんから預かったコップを渡す。


「大事な物なんだろ?」


亡くなった両親の形見だと聞いた。


トスは嬉しそうに受け取って頷く。


「もう帰るってのにな。 でも、ありがとう」


大切そうに荷物に入れた。


 僕は少しトスが羨ましいと思う。


アタトは親を知らない。


僕自身も元の世界の親のことなど覚えていなかった。


優しい両親が亡くなったことを覚えているトスは、哀れなのか、幸せなのか。


僕には分からなかった。




 翌朝、トスには土産代わりに少量の干し魚を持たせ、モリヒトに頼んで送ってもらう。


僕は町へ行く気になれなかったので塔に残り、トスが出て行った後の部屋を片付ける。


モリヒトには一人で出歩かないように言われているので、ガビーと仕事の話をすることにした。


「ヨシローが銅板栞を気に入って、自分用が欲しいそうだ」


「はい、分かりました。 でも何の柄が良いでしょう?」


「そうだなー」


二人で考える。


「ガビー、似顔絵って描ける?」


色々な図案を描いた紙を見せてもらったことがある。


でも、人物を描いたものは無かったなあ。


「分かりませんけど、描いてみます」


僕は手持ちの紙に細長い人物の全身像をただの線で粗く描く。


これを一枚の栞にしたらどうかな?。


「顔を細かく描く必要はないし、服装とか、それらしく描けば良いと思うんだ」


「なるほど。 本人だけの1枚になりますね」


ガビーは頷いた。 




 姿絵というのは、この町ではあまり見かけない。


国王とか王族や、有名人の肖像画くらいありそうなものだけどな。


都会ならあるのかも知れない。


確か、ティモシーさんのお姉さんの恋物語の歌劇があるとか聞いたから、それなりの役者とかいそうだし。


「神様の像や絵画なら、町にもありましたよ」


あー、そうだった。


教会で神像を見た覚えがある。


「だけど、売ってるのは見ないな」


市場で絵や像を売ってる店を見た記憶が無かった。


何か規制があるのか、今度、ティモシーさんに訊いてみよう。




 ガビーが絵に集中し始めたので、僕は少し自分で出来ることを考える。


モリヒトやガビーに家事を任せっきりだったことに気付いて、何か申し訳ない気がした。


「僕って何が出来るんだろ」


改めて考えると、何も出来ないんじゃないかと思い始める。


「よし、お茶くらいは自分で淹れるぞ」


コーヒーはモリヒトが飲み過ぎないように管理しているが、薬草茶なら淹れられる。


魔法で囲炉裏に火をいれ、ケトル風の鍋を掛けた。


「おやつに煎餅とか欲しいよなあ」


米がない。


餅が食いたい。


贅沢な悩みだと分かってはいるが。




 この世界の甘味は小麦粉を使ったケーキや、焼き菓子だ。


「魚醤があるんだから、作れそうな気がする」


醤油味のおやつを。


煎餅、団子、餅、饅頭、つくづく米が恋しくなる。


「無い物はしょうがない!。 有る物でやるか」


薬草茶を飲みながら考える。




 エルフの森でおやつといえば果物だった。


今の季節は秋に入ったようなので、果実類は森でも採集出来ている。


甘い果実だけでなく、栗や胡桃のような硬い殻の木の実もあった。


どんぐりみたいな木の実を塩で炒ったツマミを長老がよく作って食べていたのを思い出す。


 僕は甘いのがいいな。


砂糖はある、蜂蜜もある。


ガビーが一時期お菓子作りに凝っていたせいで、色々と調理用品も揃っていた。


「魚醤は塩味が強いから少し塩分を減らしてみるか」


よくモリヒトが簡単そうにやっている分解を見よう見まねでやってみる。


魔法は魔力さえあれば大抵のことは出来るはず。


しっかり魔力を制御して、必要な現象を指定する。


今回は魚醤から魔法で塩分を少しだけ取り除く。


やり過ぎるとせっかくのしょっぱさが失くなるので注意だ。




 目を閉じて集中。


モリヒトなら簡単な作業でも、修行中の僕はまだまだ制御は難しい。


味を思い出して、それに近くなるように塩分を調整。


魚醤は量が少ないから失敗出来ないんだよな。


「よし、こんなもんか」


少し塩分濃度が減った魚醤と塩に分けた。


味はまあ、こんなもんか。

 

砂糖と水に蜂蜜を少し加え煮詰め、その中に分離した魚醤を少量垂らしてトロッとしたところで火から下ろす。


醤油味の水飴の完成。


 これを冷ましてから、いくつかに小瓶に詰めておく。


後で生姜入りとか、木の実入りとか作っても良いな。


「あー、これに薬草茶を混ぜたら、子供用の薬になるんじゃないか?」


町ではあまり子供用のお菓子は売っていない。


それぞれの家庭で自作して与えるものだからだ。


ヨシローの店のケーキは客向けなので、例外。


 この飴は、冬になったら売れそうな気がするから、モリヒトに相談してみよう。


問題は、売り物にするにはキレイな均一の大きさにしなきゃならんし、砂糖も魚醤も高価だということだ。


まあ、当分は僕のおやつだな。




「あ、アタト様、お茶にしますか」


ふいにガビーが顔を上げた。


「もう飲んでるよ。 ガビーも薬草茶でいいか?」


ガビー用のコップを出して、お湯を温める。


「ありがとうございます。 あの、それ、良い匂いがしますけど」


ガビーは、興味津々で水飴の瓶を指差す。


「おやつに小さくて丸っこいケーキを作ってよ。 そしたら教えるから」


ボールドーナツでいいよ。


「はい!」


ガビーは一息でお茶を飲み干すと、小さな丸いドーナツみたいなものを作ってくれた。


皿に盛られたお菓子に、僕は醤油味の水飴を少し掛ける。


出来立ての甘い菓子に醤油の匂いが絡まって、美味しそう。


「アタト様、これは?」


「いつも干し魚に掛けてる魚醤から作った水飴」


戸惑うガビーの目の前で一つ摘んで、口に放り込む。


うん、甘じょっぱくて美味い。


「食べても大丈夫です?」


失礼なヤツだな、良いに決まってるだろ。




 一口食べたガビーの目が丸くなる。


「おいひー」


ちゃんと食べてから喋れ。


モグモグ。


「ふあっ、あっさりしてて、甘いけど甘過ぎないです。 どれだけでも食べられますー」


もうやらん。


ギャアギャア騒いでいたら、モリヒトが戻っていた。



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