第六百五十九話・魔道具師の作品の行末
その後、ハナを宥めるのに苦労した。
子供の可愛らしい嫉妬だろうが、必死過ぎて、なんだか怖い。
求婚は否定しない方が良さげだったので誤魔化し通す。
僕がハナを守りたいという気持ちは変わらないし、将来なんてどうなるか分からない。
特に寿命が違う異種族の間では、恋愛や結婚はマジで難しいらしいので、ハナもそのうち目が覚めるだろう。
それまでは傍にいてやるさ。
後日、商会の皆に「婚約したんですって?」言われたのは閉口したが、ハナの笑顔には負けた。
はあ。
翌日は朝から辺境伯夫妻の出発のお手伝い。
モリヒトに頼んで、途中から参加した使用人たちや荷物を先に領都の本邸に送り届けた。
その後、一行の馬車をお見送りする。
「また遊びにいらしてね」
「アタト様、王都には決して館を買いませんように。 いつでも我が館をご利用ください」
帰り際にしっかり約束させられた。
「ありがとうございます」
確かに、またお世話になることもあるだろう。
だがしかし、相変わらず、この夫妻は僕には甘過ぎる。
午後からは、僕はキランと2人で領主館に報告に出掛けた。
モリヒトは別行動で、ウスラート氏やズラシアスの農作業員と共に農場に向かう。
『それでは私は農地で教会を設置してまいります』
「ああ、頼む」
午前中に、ティモシーさんと一緒に大まかな設計と打ち合わせは済ませている。
「楽しみですわ」
僕はティファニー嬢の言葉に若干の不安を覚える。
あんまり派手なヤツはやめてねー。
闇の精霊を刺激したくない。
領主には、先の件は精霊のイタズラだったと説明する。
住民への発表はお任せした。
「皆様お疲れでしょうから、今日はこの辺で」
早々に引き上げる。
「申し訳ない」と領主も苦笑した。
ヨシロー夫妻は、まだ部屋から出て来ていない。
ウンウン、新婚さんだしな。
家令に見送られて外に出る。
町の祝賀熱も昨日の衝撃波のお蔭ですっかり冷めたようだ。
偶然、広場で会ったジョンも暇そうである。
彼が暇なのは良いことなんだけどね。
「アタト、キラン、どこ行く、の?」
僕が魔道具店に行くと言うと着いてきた。
「お久しぶりですな、アタト様」
店に入ると、老店主が自ら出て来た。
「最近忙しくて、商会の者に任せっきりですみません」
「いえいえ、忙しいのは結構なことでございますよ」
奥の商談用の部屋へ通される。
「今日はこれを見ていただきたくて」
ウィウィの魔道具である。
扉の傍に、護衛代わりに立っていたジョンがピクリとした。
「新しく面倒をみることになった魔道具職人なんですが、細かい作業が得意でして」
試しに色々作ってもらった。
装飾品や文房具。
何を作らせても何かを仕込んで暗器にしてしまうのは、ちょっと困っている。
だが使い道はある。
特別に作らせたのは「ビックリ箱」だ。
開くと音とオモチャの顔が飛び出すアレ。
「なるほど、素晴らしいですな」
子供には需要があるかも知れないと、老店主は興味を示した。
「預からせて頂いても?」
「勿論です」
店の外に出るとジョンが話し掛けてきた。
「アレ、売るの?」
魔道具店から広場を通り、町外れにあるワルワ邸へと歩く。
「ウィウィの魔道具か。 勿論だ。 売るために作ってるからな」
ジョンが顔を顰める。
実はウィウィが最初に作った仕掛けは、箱から飛び出す針だった。
「アレは、俺の」
お気に入りだもんな。
でもウィウィにはウィウィの生活がある。
売れなければ職人として生きていけない。
「ジョンが一生、ウィウィの面倒をみるわけにはいかないだろ」
「うっ」
ジョンは返答に詰まる。
なんせ、彼は基本的には無職で、町や教会の警備隊に依頼された時だけ働いて日銭を稼いでいる身だ。
つまり収入は不安定。
最低限の衣食住はワルワさんが面倒を見てくれているので心配はない。
僕としてはジョンは用心棒にもなるし、お互いに助け合う関係だと思っている。
ウィウィはアタト商会の協力者。
スーと同じ外部の職人だが、作品はアタト商会が買い取っている。
これから販路を広げて、色々なところに売り込んでいくつもりだ。
「俺が、買う」
「ジョン。 それには金が必要なんだけど、どうやって稼ぐの?」
「仕事、探す」
うん、そうだね。
「何が出来るのかと、何をしたいのかは違うよ?」
ウィウィのように作りたい物が商売に結び付く者のほうが少ない。
「アタト、雇って。 それしか、ない」
おう。 そう来たか。
ジョンの才能は、珍しい『ニンジャ』である。
元の世界の『忍者』と同じかどうかは分からない。
だけど、そのジョンの能力から見るに間違いはないと思う。
しかし、それ故にジョンは危うい。
『忠誠心』がヤバいほど高いのだ。
善悪に関わらず、主とした相手に対し忠誠を尽くす。
眷属なんて生易しいものではない。
盲目という表現が近いような気がする。
さらにいうと、下手をすると狂犬になってしまう部類の忍犬だ。
だから、モリヒトには反対された。
『友人は構いませんが、部下にすることはおやめください』
分かってる。
僕にはジョンを制御する力がないってことくらい。
どうすればジョンを抑えられるのかを考えてみる。
ウゴウゴを付けて、言うことを聞かない時は魔力を奪う、とかどうだろう。
いや。
元々、ジョンの魔力量はさほど多くないし、魔法も使えない。
彼の身体能力は魔力に依存していない『才能』なのだ。
じゃあ、魔法契約で命令に従うよう、ガッチリ縛るか。
だが、それだと咄嗟の事故や想定外の事件に対応出来ない。
やっぱり無理だな。
ふいにジョンが地面に片膝を付く。
「アタトは、俺に、真っ当に生きる、意味をくれ、た」
「ジョン、やめろ」
こんな町外れの路上で何をする気だ。
「この町で、受け入れて、もらえた、のも」
親代わりのワルワさんも、可愛い教会の子供たちも、気の合う友人も。
「全て、アタトの、お蔭」
ニコリと笑って見上げてくる。
そうか。
そんな風に笑えるようになったんだな。
「どうせ迷惑かけるなら、アタトがいい」
モリヒト、もう遅かったみたいだ。
「どうか、俺の主になってくれ」




