第六百五十八話・衝撃波の報告をする
闇の道を通り、途中からドワーフの地下道に入って本部の地下へ。
「アタト様!」
扉を開けて廊下に出た途端にサンテの声がした。
何故か、僕の部屋の前に人が集まっている。
「何してるの?」
僕は首を傾げて声を掛けた。
よく見ると、僕と眷属契約してる者とティモシーさんだ。
「何って」
ガビーが泣きそうな顔で笑う。
「皆、心配して帰りを待ってたんですよ?」
ハナは少々おかんむりである。
「どうでしたか?、調査のほうは」
キランは呆れ顔だ。
ああ、そうだったな、すまん。
廊下で話すわけにはいかないので、僕の部屋に入ってもらう。
「キラン。 領主館に使いを出してくれ。 調査結果は『異常なし』だ」
明日の午後からでも詳しい報告に伺うと伝えてもらう。
「はい、すぐに」
キランが出て行くと、モリヒトに着替えを手伝ってもらって普段着に着替える。
今日はずっと正装だったから疲れた。
「お食事はどうされますか?」
お茶を淹れながらハナが訊ねる。
「ああ、食べてきた」
「どちらで?」
ハナは素早く突っ込んでくる。
落ち着け。
「本当に何もなかったの?、アタトくん」
ティモシーさんは笑顔で問い詰めてくる。
「あー、まー」
正直、皆にどこまで話そうか迷った。
だけど、心配してくれる皆を安心させたいのも本心なんだよな。
ハナが淹れてくれたお茶を飲みながら考えていると、キランが戻って来た。
「領主館には、バムさんに馬で行ってもらいました。 ついでにこの館の皆さんにもアタト様が無事に戻られたことをお伝えしておきましたので」
「助かる」
エンディは自領に帰ったけど、辺境伯夫妻やティファニー嬢はいるからな。
まあ、結果から言うとー。
「衝撃波という魔法攻撃だったけど、相手はちょっと驚かせる程度のつもりだった」
という話をする。
嘘ではないしな。
「私の感覚では、あれは農場の方角からだったと思うのだが。 違うかい?」
あー、ティモシーさんは誤魔化せないかあ。
「でも、その時間に父は農場にいたようですが魔獣は見てないと言ってましたよ」
うん。 サンテの言う通りなんだけど。
「魔獣じゃなくて、精霊だったんです」
「あー」
皆が納得する。
精霊は気まぐれで、イタズラ好き。
なんの意味もなく魔法をぶっ放す、こともある。
基本的には人間とはあまり接触したがらないし、直接危害を加えるようなこともない。
よほど精霊にとって都合の悪いことをしなければ、だが。
「では、農場の近くに精霊がいたのか?」
ティモシーさん、鋭い、その通りだ。
「隠れて住んでいたらしいんです。 モリヒトよりも上位の精霊なので、僕たちでは結界も見破れませんでした」
モリヒトの実験場だった間は誰も住んでいなかった。
しかし、ズラシアスからの農作業者が常駐するようになり、僕が闇の通路を繋いだりしたので無視出来ないようになったらしい。
「様子を見に来て、自分がここに居ることを知らせるために軽く衝撃波を放ったと言ってました」
誰かを傷付けるつもりはなかったのは分かっている。
ティモシーさんは真剣に訊いてくる。
「その精霊は危険ではないのか?」
農場はティモシーさんが守っている場所だ。
気になるのは分かる。
ティファニー嬢が気に入って住んでいるからな。
「その点は大丈夫です。 二度とやらないでくれと、お願いしてきました」
「そうか、良かった」
ティモシーさんはホッと息を吐く。
ああ、そういえば、農場に教会を設置して警備隊を呼ぶ話があったな。
モリヒトの結界があるから必要ないと思っていたが、その信頼が崩れたことになる。
ティモシーさんの安心のために、やはり教会は必要だろう。
「モリヒト。 農場に教会を設置したい。 出来るか?」
『分かりました。 小さくてよろしいのですね』
農場は町ではないし、人も少ない。
あの土地には農地以外を作る余裕はそんなにないのだ。
僕は頷く。
「参拝するための礼拝堂があればいいだろう」
そう話していたら、
「警備隊の控え室もお願いします」
と、ティモシーさんが希望を付け加えた。
「そうなると、常駐しなくても神官さんの部屋も必要になるのでは?」
と、キランも口を出してきた。
おいおい、あんまりデカくするなよ。
とりあえず『問題ナシ』として、その日は解散。
ダークエルフについては、まだ話す気はない。
僕はまだツゥライトを信用してないからだ。
「なんで恋人の話をしたのか」
似てる?、僕が?。
「だからなんだっていうんだ」
あの女性は白いエルフだった。
同じエルフでも僕の容姿はダークエルフ寄りである。
ダークエルフの闇属性を持っているのは確かだけど、エルフとしては魔力が少なく、敏捷性に欠ける。
似てるとは思えない。
「長老なら何か知ってるのかもな」
まだ戻って来ない育ての親は、僕の家族を探しているはずだ。
もう皆、部屋に戻ったはずなに、廊下から声がした。
「アタト様。 いいですか?」
ん?、まだ何か言いたいことがあったのか、ハナが戻って来た。
扉を開ける。
「どうした、ハナ」
「さっき誤魔化しましたよね、お食事のことです」
あー。
「精霊は食事をしません。 正直に言ってください。 どこで、誰と、夕飯を食べたのですか?」
美少女に睨まれる。
どうするよ、これ。
モリヒトを見たら、我関せずと顔を逸らされた。
とにかく部屋に入れる。
もう深夜なので、男女2人っきりは拙いかも知れないけど、まあ相手は子供だしね。
「ハナ。 僕にだって話せないことはあるよ。 いずれ、その時が来たら話すから待ってほしい」
じっと僕の顔を見るハナ。
「分かりました」
ハナは顔を顰めて鼻息を吐く。
「でも、なんでそこまで気にするんだ?」
「アタト様は異世界味の料理がお好きで、滅多に他で食事を摂りません」
う、うん。 まあな。
「それなのに、嘘を吐いてまで他所で食べたのは、特別な何か理由があると」
あー、そーねー。
ハナがグイッと顔を寄せてくる。
「ヒッ」
「アタト様、別の女に浮気したんじゃないでしょうね?」
はあ、浮気って?。
「ハナを一生、守ってくれるんですよね!」
僕は求婚したらしい。




