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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第六百五十七話・精霊の付き合い方


 農場は、なんの起伏もない平地である。


周囲は石塀に囲まれ、モリヒトの結界で外部からは荒れ地にしか見えないようになっていた。


時間はすっかり夜。


「こっちだ。 着いて来な」


僕はモリヒトと共にツゥライトの後を追う。




 農場の中を歩いているうちに、いつの間にか、どこかの町中に居た。


「えっ?」


つい立ち止まり、周りを見回してしまう。


いつ結界を抜けたのか、全然気付かなかった。


モリヒトも同じように感じたらしく顔を顰めている。


「ああ、心配するな。 『大地の精霊』さんが悪いわけじゃない。 こっちの眷属精霊がちょっとばかり上回っていただけさ」


何もない空間に「おーい」と呼びかける。


姿を隠していたツゥライトの眷属精霊が現れた。


墨のように真っ黒な肌のエルフ。


女性なのはツゥライトの好みなのか、服も布の少ない妖艶な姿をしている。




『闇の精霊様、お久しぶりでございます』


珍しくモリヒトが礼を取った。


それだけで、モリヒトより上位の精霊だと分かる。


『闇の精霊』か。


ダークエルフには最適な相棒だな。


『ウフフ、久しぶりだね。 大地の』


若い女性エルフに見えるが相当古い精霊なのだろう。


それに、きっとツゥライトとの付き合いも長そうだ。


まだ少年のアタトが気軽に話せる相手ではない。


「お目にかかれて光栄です」


僕も深く頭を下げた。


「先に飯にしよう。 オレは腹ペコだ」


ツゥライトの案内で1軒の食堂に入る。


町中も、店の中もそれなりに混んでいた。


どこを見てもダークエルフと、その眷属らしい精霊しかいない。


ドワーフや他の種族の姿はなかった。




 僕たちは店員に奥の個室へと招かれる。


店内にいた人たちにジロジロと見られていた気がしたけど、まあいい。


結界の外から来る者が珍しいんだろう。


 食事をしながら話をする。


パンに魔獣肉の煮込み料理、野菜の炒め物。


この世界のごく一般的な料理が出てきた。


精霊たちは相変わらず酒のみである。


モリヒトが高い酒を注いでいた。


ああ、そういえば今日も披露宴でいくつか頂いていたな。


最近では辺境地のみならず、皆、モリヒトが酒好きだって知ってるから、やたらと勧めてくるんだよね。




『しかし、よくあのような魔力の無い土地を開拓する気になったものだね』


闇の精霊がモリヒトに話し掛ける。


『誰も使わない土地ならば、我々が使っても良いのではないですか』


『それはそうだが。 そなたも長い間、放置していたであろう?』


モリヒトはため息を吐く。


『私も忙しいので、気まぐれに土地の開発などいたしません。 今回は主の依頼で、やっとあの土地に手を出せたのですよ』


うん、まあ、色々と事情がありまして。


『あなた方がいると知っていたら、手は出しませんでしたよ』


モリヒトは少し嫌そうな顔をしている。




「もうそれくらいにしておけ」


ツゥライトが自分の眷属精霊を嗜めた。


「そろそろ行こうか、少年」


「アタトです、おじさん」


「そうだったな」


苦笑したツゥライトが支払いを済ませ、店を出る。


「ご馳走様でした」


僕が店を出る時に店員に声を掛けると、かなり驚いた顔をされる。


なんだろう、この違和感。


苦笑いするツゥライト。


「その服装じゃあな」


あ。


そういえば、結婚式だったから派手な正装だったのを忘れてた。


恥ずかしいけど、もういいかー。




 連れて行かれたのは一軒の家。


通りに面した、洋風のかなり立派な二階建ての建物である。


「オレの家だ。 誰もいないから遠慮なく入れ」


暗い家の中に明かりが点く。


本当に使用人さえもいないようだ。


居間のような部屋に入る。


「適当に座っててくれ」


そう言うとツゥライトが部屋を出て行った。


 眷属精霊のお蔭だろうか、掃除は行き届いている。


モリヒトが僕にだけお茶を淹れてくれた。


ツゥライトが戻って来て、「これを見てくれ」と、本くらいの大きさの絵画を渡してきた。




 女性の肖像画である。


「オレの恋人だ」


見せたいというから、なんだろうと思ったけど、惚気?。


綺麗な女性だが、白いエルフでダークエルフではない。


「10年前に姿を消した」


そして、じっと僕を見た。


「お前に似ていると思わないか?」


「はあ」


そんなの自分では分からんよ。




 モリヒトを見上げるが、首を傾げている。


まあ、コイツらは容姿より魔力で人を判別しているらしいからな。


『私は魔力も似ていると思ったよ』


ツゥライトの眷属精霊が妖艶に微笑む。


なんだか背中がゾワッとする。


「それがどうかしたんですか?」


「お前、親はどうしてる」


「いませんけど」


だから言ったでしょ、捨てられたって。




「それだ。 何故、そういうことになる?」


顔を顰めるツゥライトに、僕は事情を話す。


「2歳くらいの時に森で倒れていたところを拾われたらしいです」


育ててくれたエルフの長老は色々と手を尽くして探してくれたが、結局、親は分からなかった。


事故か誘拐なら誰かが探していたはずだ。


「ふむ。 だから捨てられたと?」


僕はゆっくりとお茶を飲む。


ここからは憶測でしかない。




「僕は今までダークエルフに会ったことがありませんでした。 それで、人族の友人が昔の文献や資料を調べてくれて」


僕はダークエルフらしくないのだと、教えてくれた。


「もしかしたら違う種族なのかも知れません」


純粋なダークエルフではないということになれば、それは。


「異種族の間に生まれる子供は『奇跡の子』として大切にされるか、『異端の子』として放り出されるかのどちらかだと聞きました」


僕は間違いなく後者である。


ツゥライトは顔を歪めて黙り込んだ。




「すみません。 用事がそれだけなら、もう帰ってもいいですか?」


僕は立ち上がる。


もう夜も遅いし、商会の皆も心配しているだろう。


「あ、ああ」


ツゥライトは、それ以上は何も言わずに立ちすくんでいた。


『分かった。 また来てくれるか』


闇の精霊が、僕たちを結界の外の農場まで送ってくれた。


『私に用事がある時は、ここで呼ぶといい。 夜ならば応えてあげる』


あ、一つだけお願いがある。


「もう衝撃波で町を驚かせないでくださいね」


『アハハハ』



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