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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第六百五十五話・衝撃の正体と初対面


 地震なのか?。


体が揺れた感覚はあるが、建物や家具などは揺れていない。


客たちはキョロキョロと辺りを見回して「今のはなに?」と、囁き合う。


これはいったいなんだ?。


『魔力攻撃です』


モリヒトが僕にだけ聞こえるように囁く。


魔力があるものに対する攻撃。


『衝撃波というものに近いようです』


はあ、魔力だけを揺らす攻撃だと?。


「どこからだ?」


顔を顰めたモリヒトが答える。


『農場の辺りかと』


心配していたことが起こったのかも知れない。


僕は内心ドキドキしながら黙って頷いた。




 立ち上がり、騒つく会場内に響くように声を張る。


「皆様、お忘れですか?。 ここは辺境地ですよ」


周りを見回し、安心させるようにニコリと笑う。


こんなことは日常茶飯事。


騒ぐようなことではないというように。


「魔獣の森の一番近くに住む私が様子を見て参ります」


僕は領主と次の領主となる新郎新婦に告げ、出入り口に向かう。


「アタトくん!」


ティモシーさんや警備の兵士たちがやって来た。


彼らが口を開く前にお願いをする。


「すみませんが、広場や町中の皆さんを退避させておいてください」


万が一ということもあるからな。




 魔獣警報が出た場合は速やかに避難することが出来ように、この町の殆どの家には地下室がある。


地下室が無い場合は、教会や領主館に避難することが決まっていた。


ただ、港にある漁師たちの家では丈夫な蔵が避難場所になっている。


 領兵や教会警備隊には、その後は森の入り口付近での待機をお願いした。


今回は森ではないようなので、猟師や傭兵、腕に覚えのある辺境地の住民たちが勝手に森に入らないように注意してもらう。


「よろしくお願いします」


今日は礼装の領兵長らしき中年男性が声を発した。


「分かりました。 お任せください」


兵士らしい礼を取る。


「行くぞ、お前ら!」


「はい!」


周りにいた警備兵たちは頷き、準備に動き出した。




 外に出ると広場には混乱はなく、静かに何かを待っている。


よく訓練されているな。


普段の戦闘用装備に着替えた領兵たちが姿を見せ始めた。


 しばらくして領主の姿が広場に現れる。


「詳しいことは調査中だが、念のため避難を。 被害があればすぐに報告してほしい」


そして人々は動き出す。




 広場では片付けが始まる。


誰かが屋台が閉まる前に売れ残りを買い込んでいるのが見えた。


ああ、あれはサンテとバムくんか。


ちゃっかりしてるというか、あまり買い過ぎるなよ。


「皆さーん、お家に行く前にこちらをどうぞー」


ハナが叫んだ。


サンテたちが買い込んだ料理を、住民たちに無料で配っているようだ。


「これを食べて、しばらく我慢してくださいね」


今夜は広場で過ごす予定だった者たちは、家では夕食を用意していない。


これから用意していては地下室に篭れなくなる。


だから配っている。




「ありがとう、おねえちゃん」


「助かるよ」


親子連れに礼を言われてハナが照れる。


「新しい領主様のお祝いですから!」


せっかくの慶事を嫌な思い出にしたくない、という思いからの発想か。


誰の発案か分からんが、偉いぞ。




 キランが領主館のすぐ近くで待っていたようで、駆け寄って来た。


「どこへ向かいますか?、アタト様」


馬車をこちらに回すかと訊ねられた。


「いや、僕とモリヒトは魔法で飛ぶ。 キランは皆を回収して本部地下へ。 辺境伯夫妻がいるはずだから、護衛たちが余計なことをしないように閉じ込めておいてほしい」


「承知いたしました」


キランは頷き、サンテたちの元へ走って行った。




 僕はモリヒトと2人で広場の裏路地へ行き、人目がないことを確認して、農場へと飛んだ。


本部から農場へと続く闇の出入り口になっている倉庫に出る。


しばらくは誰も通れないように、闇の道は封鎖しておく。


「農場には誰もいないな?」


と、確認する。


今日は休日にして、農場で働く皆にも町の祭りに参加させていたはずだった。


『その予定でしたが』


「誰かいるのか?」


『はい。 どうやらウスラート氏のようです』


あの農業好きめ、戻って来ていたのか。




 倉庫から出ると、すぐ隣りの農地管理者用の建物の前にウスラート氏がいた。


野外用のテーブルと椅子で寛いでいる。


酒やツマミを置き、ひとりで酒盛りをしていたらしい。


「あれ?。 アタト様、どうしたんですか?」


と、呑気に訊いてくる。


こっちが聞きたいよ。


「ウスラートさん、先ほど何かありませんでしたか?」


誰か来た、とか、異様な音や衝撃を感じた、とか。


「いいえ、何もー」


マジか。




 この人が鈍いのか。


それとも、台風のように中心だけは静かだったのか。


「モリヒト、彼を本部へ避難させろ」


『承知いたしました』


「えっ、避難って。 町で何かあったんですか?。 サンテやハナは無事なんですか!」


そんなに心配なら、今日くらい一緒に居てやればよかったのに。


ウスラート氏が俯く。


「だって、娘がアタト様のために着飾ってるのを見ていたら、その、なんとなく寂しくなりまして」


僕といるなら自分といるより安心だと思っていたらしい。


「何年も傍にいてやれなかった、不甲斐ない父親ですから」


ウザッ、酔っ払いか。


今は愚痴を聞いてる暇はないんだよ。


サッサと連れて行けとモリヒトに合図を送る。




 モリヒトとウスラート氏の姿が消え、僕は周りを見回す。


なんだろう、違和感がある。


何かが違う。


「ほう?。 お前が大地の精霊の主人か」


ビクッと心臓が跳ねた。


背後から突然、気配が現れたと同時に声が聞こえたのだ。


 魔力の気配が濃い。


というか、何故か、剣呑な気配を漂わせている。


ゆっくりと振り向く。


先ほどまでウスラート氏が座っていた椅子に誰かが座っていた。


「え……」


僕は目を疑ってしまった。




 そこにいたのは、特徴的な耳をした白髪のエルフの男性がひとり。


まさか。


暗褐色の肌、暗い赤に近い黒色の目。


「ダークエルフ?」


「ああ。 お前と同じダークエルフだ」


僕はゴクリと唾を飲み込んだ。


自分以外のダークエルフを、僕は初めて見る。


「な、なぜ、ここに」


言葉が自然と口から溢れた。


そして涙も、零れ落ちた。



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