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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第六百五十二話・教会の見送りと広場


 教会の出入り口の扉が開き、階段の下には押し寄せた住民たちが見える。


すぐに教会警備隊、領兵、町の警備兵がやって来て道を作る。


ティモシーさんと警備隊の若者が先に立ち、その後に新郎新婦、そして僕とモリヒトが教会の出入り口から姿を見せた。




 ここから新しい夫婦は領主館まで歩いて行くのだ。


僕はこの場所で2人を見送るので、立ち止まる。


階段を降りて行くヨシローとケイトリン夫妻の後ろ姿。


色々と押し付けた身としては感慨深いものがある。


広場に降りた2人が振り向き、礼を取った。


僕はそれに笑って頷く。




 警備する兵士たちの作った道を、新しい夫婦が歩いて行く。


その後ろから参列者が続いて出るため、僕は出入り口から外れて、道を開ける。


ティモシーさんたち教会関係者が、参列者を急き立てて追い出しにかかった。


僕に話し掛けようとする者が立ち止まって渋滞を引き起こしそうになっていたからだ。


 全て居なくなると、出入り口前の階段に教会関係者と共に並び、遠くなった後ろ姿を眺めた。


「良いお式でした」


僕は花嫁の父領主に向かって微笑む。


「御遣い様のお蔭でございます」


深く礼を取られた。


「いえいえ」


それはない。


だが、それに続くように、グレイソン神官や貴族管理部の文官も低く礼を取った。


ヤメテ。


「皆様、館の方へ移動してください。 お話は改めて宴席でどうぞ」


ティモシーさんが彼らを連れて行ってくれた。


捕まると長いんだ、助かるよ。




 領主館に向かう列が終わると、何故か、次々と階段下に民衆が集まり、祈りを捧げ始めた。


教会警備隊が彼らを並ばせようとする。


待て待て。


そんなことしたら、いつ終わるのよ?。


「すいません。 並ばなくていいので、その場で祈るように言ってください」


僕は神官長代理に伝える。


「あー、そうですね」


ゼイフル神官長代理の説得で兵士たちは止まり、住民たちがその場で祈り始めた。




 あれ?、なんだこれ。


体に心地良い何かが溜まる感じがした。


僕は戸惑い、モリヒトを見上げる。


モリヒトは何も言わないがニヤニヤと口元が歪んでいる。


お前はー。


全部終わったら問い詰めてやるからな!。


「この地に精霊の加護がありますように」


僕は小さな声で祈る。


一人一人には無理でも、この土地に関係することならモリヒトがなんとかするだろう。


『神の御遣い様より賜りました。 大地の精霊の名において、ここを豊かな地にいたしましょう』


おー、大盤振る舞いだな。


モリヒトの声は大きくはないが、魔法で拡散しているのだろう。


民衆が陶酔した目で見ている。


っていうか、実際にはもうずっと前から、この辺境地はモリヒトの管轄内なんだよな。


だから、今さらって気がするけど。




 モリヒトが何かを唱えると、僕の中に溜まっていた何かがスルリと抜けて霧散していった。


「おや、これはー」


住民たちの祈りを僕が媒体として集めたものを、精霊が使ったのか。


精霊魔法って、本当はこういう使い方をするものだったのかも知れないね。


人間もエルフも、神にすれば自然の中に生きるものの一部。


お互いに助け合って生きていたって不思議ではない。


「解散しなさい」


ゼイフル神官長代理が集まっていた民衆に告げ、僕たちも教会内に戻る。


「さて、着替えよう」


次は宴席かー。




 館に戻った新郎新婦や参列者は、着替えや休憩を挟み、その後に広間での立食の宴会となる。


田舎なので早めにお開きになり、主役は解放。


辺境伯夫妻も早めに商会本部に戻り、明日の帰還に備えるそうだ。


まだ飲み足りない者は町の広場に繰り出して行く。


警備兵たちは昼と夜の2交替らしいが、まだ気が抜けない夜は続く。


 エンディは先ほど馬車で走り去るのを目撃した。


忙しいヤツだ。


 


 控え室で着替え、軽い飲み物を頂く。


『宴席ではいくら祝い酒でもお酒はほどほどに』


と、注意された。


「そっちもな」


その言葉、そっくり返すよ、モリヒト。


また給仕や家令を捕まえて酒の銘柄を訊ねまくるなよ。




 ハナと約束したし、少し広場も見て行くか。


ローブをいつものヤツに交換。


下に着込んだ正装は見えないようにし、足元は普段用のブーツにする。


そして、人間の少年に擬態し直す。


「あっ、アタト様ー」


ガビーは背が高いからすぐに見つかる。


「楽しんでるか?」


「はい!」


周りを見るとドワーフが何人かいる。




「ロタさんは来てないのか?」


こういう祭りには敏感な行商人が、珍しく姿を見せない。


「なんか、今は弟子の育成に力を入れてるって言ってましたー」


ああ、クンとかいう、あの少年ドワーフか。


「ズラシアスのドワーフたちと連絡取ろうとしてるみたいよ」


「へっ?」


スー、いたのか。


小さいから気が付かなかったよ。


口にしなかったのに睨まれた。


 そっか。 ロタ氏もズラシアスを狙ってるのか。


そのうち連絡が来るだろう。




 しかし、ハナはどこだ?。


来いって言ったのは彼女なんだが。


「双子はあちらですね」


いつの間にかジョンが隣りにいた。


僕がキョロキョロしてただけで気付いたのか。


「連れて来ましょうか?」


仕事仕様のジョンは口調も滑らかで、目も鋭い。


「いいよ。 楽しんでるなら」


僕がそう言うと、ジョンは首を横に振る。


「やたらと少年たちに誘われているだけですよ」


はい?。


広場に謎の人だかりがあり、その中心に双子がいるそうだ。


僕がそこに向かって歩き出すと、人混みが自然に分かれる。




 見慣れた金色の髪が見えた。


「ハナ、何してるんだ」


僕が声を掛けると少女の周りにいた少年たちが後ずさる。


「アタト様!」


ハナの傍にはサンテやタカシもいた。


それなのに、なんだこのザマは。


「ハナ、おいで」


「はい!」


華やかな少女らしいドレスを着たハナが駆け寄って来る。


「すみません。 なかなか離してもらえなくて」


はあ、なんだってー?。


ハナの肩を抱き、僕は周りにいた少年たちにガンを飛ばす。


「うちのハナに手を出すなよ、お前ら。 どうなっても知らねえぞ」


「ヒッ」


これだけ威嚇しとけば大丈夫だろ。


「ありがとうございます、アタト様」


手こずっていたサンテが苦笑する。



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