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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第六百五十一話・式の当日の御遣い


 町の中は混むだろから、歩いて教会に向かった。


そろそろ広場に人が集まり始めている。


「おはようございます、アタトくん」


「おはようございます」


昨夜から教会にいるティモシーさんに出迎えられ、教会の通用口から入った。


辺境伯夫妻とエンディは同じ馬車で、もうすぐ着く。


護衛たちがガッチリ周りを固めて、ゆっくりの移動になっていた。




 教会の中も参列者が集まり、主役の到着を待っている。


着替えるために控え室に入ると、花嫁の父親である領主がいた。


「アタト様、本日はよろしくお願いします」


いや、僕はなんにもしないよ?。


客だからね。


「本日はおめでとうございます。 良き日にご縁を結ばれる皆様に幸多きことを祈ります」


ご挨拶をして、準備にかかる。


 ……こりゃあ、仕立師の爺さん、またやってくれたな。


光沢のある、真っ白な神職用のフード付きローブである。


子供用にしては派手過ぎないか?。


まるで本当の神職みたいだ。


「ほお、最高級品の絹ですな。 もしかしたら魔獣素材ですか?」


すっかり準備が終わったゼイフル司書から声を掛けられた。




 今日のゼイフル司書は神官長代理のため、借り物の神官長服だ。


「来客が多いので失敗出来ないと、神官長様がいきなり引退を宣言なさいまして」


教会本部からはゼイフル司書の昇格は通達されていたが、引き継ぎが終わり次第ということで、日程は明確に決まっていなかった。


「それでいきなり昨日から神官長代理ですよ」


ゼイフル司書は頭を掻く。


正式な引き継ぎが必要なので、いきなりやれと言われても代理という立場になる。


「一通りは危なげなく行えるようになりましたので、そこはご心配なく」


愚痴を溢していたゼイフル司書は、領主がいることを思い出して慌てた。


信者を不安にさせてはいけない。


「分かっておりますよ、ゼイフル様。 引き受けて頂き、ありがとうございます」


今の神官長はかなりの高齢である。


この辺境地の教会には、他に役職に就けるような高位神官がいない。


そこへ王都から戻って来たゼイフル司書に頼み込んで、高位神官に昇格、神官長代理就任とした。


裁量は地方の教会ごとにあり、本部には事後承諾。


田舎はこういうところが楽だ。


まあたまにイブさんのようなトンデモ人事もやらかすが。




「本部から来た神官様も納得されましたから」


ほう、誰が来たのかな。


「グレイソン神官です」


ブッ!。


ちょっと待て、彼は司祭付きの高位神官だろ。


「若いですが体もしっかりと鍛えていらして、馬を飛ばして少人数の護衛と共に駆け付けてくださいましてね」


あー、そーなんだー。


ゼイフル司書とも王都本部で仲良くなったみたいだしな。




 僕は身だしなみを整え、仕立師の爺さんが用意してくれた神職っぽい衣装を着る。


白い豪華なローブの下は、宴席用の正装になっていた。


教会での御遣いの見守りが終われば、すぐに館の宴に行ける。


ただ、これもまた派手な気がするよ。


黒を基調にした上品な上下に、銀の縁取りの刺繍が鮮やかな模様で、これまた高級品だと一目で分かる。


「代金、いくらなのかなー」


これ、素材だけでも超がつく大金だろうなー。


サッサとローブを羽織って隠す。




『アタト様、そろそろ到着されます』


「うん」


広場の喧騒が聞こえてくる。


辺境伯夫妻やエンディたちが到着した時とは違う歓声。


領主館と教会はそんなに離れていないが、まずは馬車で教会の正面に到着し、そこから2人で入って来る。


「では、我々はお先に」


領主とゼイフル神官長代理が先に祭壇に向かう。


参列者はすでに席につき、本日の主役が入って来るのを待っていた。


招待客は主賓以外は領主の縁戚に当たる地方の貴族たちだ。


辺境伯夫妻と元王族のエンディの雰囲気に圧倒されている。


王都の高位神官と、貴族管理部の役人もいるしな。


そのまま、おとなしくしていてくれよ。




 僕は宣誓の直前に中に入り、貴族管理部の届けに署名するまでを見届けるだけだ。


式自体はそんなに時間は掛からない。


僕はフードを深く被り、足元まで引き摺るほど長い裾を捌いて歩き出す


後ろに着くモリヒトはそこまで派手ではなく、裾も靴が見えている。


そっちが良かったな。



「我は神の慈悲に乞い願う、力を納め我を解放せよ」


耳元でシャランと耳飾りが揺れた。



 ザワリと空気が変わり、控え室から祭壇のある広間の扉が開く。


教会警備隊の礼装を着たティモシーさんと若者が扉の横にいた。


「御遣い様のご入場です」と声を発する。


は?、そういうのは頼んでいないが。


息を呑む音が聞こえてきそうなほど、参列者にガン見されている。


グレイソン神官、そんなに目を潤ませるな。


おや、隣りは公爵家の後継、クロレンシア嬢の兄じゃないか。


そうか。


貴族管理部の文官だったな。


「御遣い様、どうぞ、こちらに」


ティモシーさんが僕をどこかに案内するようだ。


そんなの打ち合わせしたっけ。


いやしかし、これだけ注目されてると断れない。




 裾に注意しながら祭壇に進む。


一足ごとにカツンカツンと音がする、なんだこの靴。


底に鋲でも打ち込んであるのか。


 祭壇中央に立つゼイフル神官長代理の、そのまた一段上の神像寄りに椅子が置かれている。


あれに座れということらしい。


そこまで歩き、椅子の前に立って教会内を見渡す。


なんか、場違いじゃない?。 大丈夫?。


『アタト様、顔』と、モリヒトが注意する。


ハイハイ、分かってますよ。




 隣に立つモリヒトが僕のフードを下ろす。


僕は真正面に向き直って椅子に腰を下ろした。


ザワザワとする参列者にゼイフル神官長代理が「静粛に」と声を掛ける。


「本日は神の御遣い様が、この辺境地の新たなる領主と、新しい夫婦の門出を祝うために顕現なさいました」


あー、そういう筋書きなのね。


「それでは、宣誓を行います」


後は順当に進み、署名を見届けた後、僕はゆっくりと椅子から離れる。


「こちらに」


ティモシーさんに案内され、今度は新郎新婦の前に立つ。


軽く会釈し、2人の緊張を解す。


「この地と、この新しい夫婦に祝福を」


もう少しだ。



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