表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

647/667

第六百四十七話・花嫁の悩みと願い


 その翌日、アタト商会本部を拠点に魔獣狩りが行われた。


脳筋たちが暴れている間に、女性陣の準備は着々と進む。


お蔭様で「この日なら大丈夫」と、式の日取りが確定する。


「ヨシローさん、ケイトリン様。 わざわざ揃ってお知らせに来て頂き、ありがとうございます」


商談用の応接室で2人を迎える。


すまんね。


他の部屋は準備のため、ほぼ埋まってるんだ。


「ようやく決まってホッとしてるよ」


ヨシローが深く息を吐く。


キランが疲れた顔の2人の前に薬草茶を置いた。


モリヒトは魔獣狩りの監視のため森に出ている。




 領主館も無事に準備が終わったようで、ヨシローたちの結婚式は2日後に決まった。


「明日は夕方から前夜祭。 明後日の朝から教会で貴族管理部の役人と神官長の前で宣誓して、婚姻の書類に署名だ」


ヨシローが流れを説明する。


「その後、教会から我が館まで歩くという、住民へのお披露目があります。 館に着いたら、私たちは夜まで招待客の相手で、広場では一晩中、お祭り騒ぎになりますわ」


と、ケイトリン嬢が続けた。


なるほど、楽しみだな。


「うちの商会では皆、仕事は休みにして祭りに参加させていただく予定です」


当日は弁当も売らない。


屋台も出さない。


皆に心から祝ってもらいたいからね。


忙しい思いなどさせないよ。




 領主家へは、アタト商会から定番の銀食器一式をお祝いに贈り、それとは別に式当日には希少魔獣肉の提供を申し出た。


辺境地らしいご馳走になるだろう。


「アタトくん。 キミまで広場で楽しむ気じゃないよね?」


ん?。 ヨシロー、なんの話だ。


「ちゃんと宴の招待客に入っていますのよ、アタト様は」


ケイトリン嬢に「忘れてませんよね?」と、優しく睨まれる。


確かに招待状を見た覚えが。


まあ、商会代表として顔は出すつもりだった。


領主家御用達の商会になる予定だしね!。


「あはは。 勿論、喜んで出席いたしますよ」


うん、忘れてたわけではない。


祭りの方が楽しそうだなーと、思ってただけで。




「それで、あの、お願いがあるのですが」


ケイトリン嬢が顔を赤くしてモジモジし始めた。


「アタト様は神の御遣い様なのでしょう?。 当日はぜひ、そのお姿を拝見したいのです!」


は?。


「王都に行かれた方々から聞きましたの。 それはそれは大変に神々しいお姿だったとか」


誰だ、チクッたのは。


「わたくし、叙爵が決まってからずっと悩んでいました」


ケイトリン嬢は自身が中位貴族になることで、この辺境地やヨシローが、他の貴族から守られることは理解している。


それでも、まだ若い自分が領主としてやっていく自信がない。


「お父様も傍にいると分かっていても、仕事は引退されてしまうし」


ケイトリン嬢は肩を窄める。


「それで、アタト様には御遣いとしての姿で、わたくしたちの門出を祝っていただけたら、と」


自分にも、周りにも、神に祝福されたと言える。




「つまり周りが納得するのですね」


普段は辺境地など興味がない親戚連中が祝いにやって来る。


最近、アタト商会やらヨシローのお蔭で裕福な領地にあやかろうと、無能な身内を雇うようにと押し付けてくるらしい。


ケイトリン嬢の母親が亡くなった時、仕事が出来ない文官を大量に雇わされたのと同じように。


断る口実に神の意思を使いたい。


「わたくしの我が儘だと分かっていますが」


ケイトリン嬢は必死だ。


不安な気持ちをなんとか抑え込もうとしている。




 お世話になっている領主家の娘。


『異世界人』のヨシローを婿にもらってくれる優しいお嬢さん。


「分かりました。 ケイトリン様のお役に立てるなら」


但し、僕が神の御遣いの姿になるのは、縁戚関係者が参列している教会の中でだけ。


2人の宣誓と署名を見守ったら、すぐ元に戻る。


あまり辺境地の住民には見られたくないからな。


「それでよろしければ」


「勿論です。 ありがとうございます!」


ケイトリン嬢は立ち上がって礼を取る。


花嫁が喜んでくれるなら、まあいいか。


ヨシローたちは辺境伯夫人に挨拶をして、早めに帰って行った。




 その日、朝から本部内がソワソワとした空気に包まれていた。


「結婚式は明日だし、前夜祭は夕方からだぞ」


皆、気が早過ぎないか?。


辺境伯家の使用人たちや、エンディ領から来た護衛たちがバタバタする中、僕は自室に篭っていた。


僕の出番は明日だからな。


山積みの手紙の束を片付けていると、


「アタト様」


と、ハナの声がしたので許可する。


「失礼いたします。 仕立師のお爺さんから荷物が届きました」


あー、なんか新しい正装を勝手に作ったみたいだな。


「そこに置いといてくれ」


僕は相変わらず長文のイブさんの手紙を読んでいた。


もう少し簡潔にならんかなあ。




「あの」


荷物を置いたハナが、じっと僕を見ていた。


「どうした?、ハナ」


「あの、お礼を言いたくて」


「お礼?」


「はい。 とても素敵な衣装をありがとうございます」


ああ。


僕は本部の使用人たちに王都からドレスや正装を取り寄せた。


ヨシローたちの式は春だということは決まっていたからね。


どうせ必要なものだ。


衣装代は僕の懐から出し、しっかりとした服を全員分、作らせたのである。




 皆の採寸は仕立師の爺さんがやってくれたし、王都の服飾の商会を紹介してもらった。


なんでも爺さん、国でも有名な職人だったらしい。


その爺さんの元々所属していた商会だそうで、腕は確かだと聞いて任せたのだ。


 僕がズラシアスに行ってる間に、既に完成し、届いていた。


「気に入ってくれたなら嬉しいよ。 明日は楽しんでおいで」


「はい!」


扉まで戻ったハナが振り向く。


「私たち、明日は広場にいますから、アタト様も必ず来てくださいね」


意味あり気に微笑んで、ハナは扉を閉めた。


うん?、なんだったんだ、あれは。


やけに色っぽくなかったか?。


子供でも女は怖いな、ブルブル。




 エンディは、まだ僕のベッドを占領している。


大部屋の使用人や護衛たちは、毎晩、ドワーフたちの宴会に付き合わされていた。


そして目覚めると、僕は神社に参拝する。


今日は何事もなく終わりますように。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ