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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第六百四十二話・式の準備を急ぐ


 僕はすぐに領主館に向かう。


闇魔法は使わないが、モリヒトの移動結界で領主家の庭に飛ぶ。


ちゃんとハナには出掛けると言ってきた。


町中は思ったより人が多い。


こんな状態が長く続くのは、いくら慶事でも町にとってはよろしくない。


町の経済も人々も疲弊してしまう。


こういうところが、違う常識を持つ世界なんだと感じる。




 使用人を捕まえて家令を呼んでもらう。 


「失礼します。 領主様にお会いしたいのですが」


「は、はい。 しばらくお待ちください」


すぐに戻って来た高齢の家令に、領主の執務室へ案内される。


「アタトくん、久しぶり」


あの肉体派辺境伯の部下にしては体の線が細い方だ。


しかも、今はかなりお疲れのようである。


準備期間は長いとはいえ、今回は特別な婚姻。


しかも、この方は娘の結婚を機に領主を引退することが決まっている。


その準備もあって普通の倍以上に忙しいはずだ。




 僕が初めて辺境伯領にお邪魔した時、まだ王子だったエンディからケイトリン嬢の叙爵が伝えられた。


すぐにではなく、下位貴族である父親が引退した後、領地を継承するケイトリン嬢を中位貴族にするという決定だった。


王宮の貴族管理部では、『異世界人』とエルフなど異種族を抱える辺境地を管理する者が下位貴族では拙いらしい。


しかし、現在の領主を昇格すると『異世界の記憶を持つ者』の過剰な保護に繋がる。


そのため、次代の継承者であるケイトリン嬢の叙爵とした。

 

父親である現領主は引退しても下位貴族のままで、娘は婚姻を機に新たな中位貴族家となる。


ヨシローとの婚姻は、領主の引退の良いきっかけになった。




「突然の訪問をお許しください」


僕は軽く挨拶をして、すぐに本題に入る。


「結婚式の日程について伺いたいのですが」


やはり、はっきりとした日時は辺境伯夫妻の到着を待ってからになっていた。


「それでは町の住民やお客様が疲れてしまうのではないでしょうか」


「いやまあ、でも仕方のないことだからねぇ」


本来なら辺境伯夫妻も、もっと早く帰って来ていたはずだった。


僕の件で出発が遅れたのだ。


しかも夫人の実家である大旦那の領地の闘技場のことも丸投げしてしまったし。


うーむ、やはり僕がなんとかしなければ。


「なんとか、なるのか?。 なるのだろうな、きっと」


領主が「エルフ殿だからなあ」と頷く。


「なんとか、してしまってもよろしいでしょうか」


「うむ。 私としても助かるよ」


領主は大きく肩を落として、息を吐いた。


「では日程を決めましょう」


ケイトリン嬢を呼んでもらい、改めて予定を詰めていった。




 昼を過ぎてひと段落。


今日はここまで、というか、僕が口を出せる範囲は終わった。


後は領主家の問題である。


「では」と立ち上がり、僕はふと気になって訊ねた。


「領主様は引退後はどちらに?」


まさか、若い者に任せて領地を出るなんて言わないよね。


「あはは。 そこまで娘たちには任せられないだろうね」


ただ、引き継ぎが終われば相談役に徹するつもりだと言う。


「それに、良い話を頂いたのだ」


と、声を潜めた。


「まだ未発表だが、ゼイフル司書殿が、この町の神官長に昇格されるそうでな。 そのため、私に司書をやらないかと話をもらっている」


貴族学校では、将来、領主になる者たちには特別な授業があり、その中には神職に関するものもある。


つまり、ほとんどの領主は神職の資格を持っているのだ。


「それは大変、嬉しいお話です。 その時はまたよろしくお願い申し上げます」


僕は深く礼を取った。




 領主館を出て、アタト食堂に向かう。


「空いてます?」


どう見ても混雑している。


「あ、アタト様。 先客がいますけど、2階へどうぞ」


見習い料理人の青年に言われて階段を上がる。


「よ」


「やあ、ジョン。 タカシもご苦労様」


「アタト様もこれから昼食ですか」


タカシたちも今来たところらしい。


 食堂は日替わり定食のみ。


調理が早くて、市場での仕入れが安くて新鮮なものでまとまるので利益が出易い。




 すぐに料理が運ばれてくる。


「どうだった?」


今日のお薦めの魚料理をつつきながら訊ねる。


「雰囲気は良かったです。 子供たちも皆、元気で」


タカシはゼイフル司書に教会内を案内してもらったそうだ。


「しばらくは通うつもりです」


嬉しそうなので、ひとまず安心した。


「午後からはジョンさんが町中を案内してくれるそうで」


へ、へえ。


僕の笑顔は若干引き攣ったかも知れない。


ジョンにすれば、護衛対象が近くにいたほうが楽なんだろう。


ついでに散歩と称した町の見廻りも出来る。


「楽しんでね」


「はい!」


僕は早めに食事を済ませて、下に降りた。




 昼食時間も過ぎたし、1階は落ち着いたみたいだな。


「ご馳走様でした」


「お、もういいのか。 久しぶりだろう、ゆっくりしていきな」


元辺境伯領兵の旦那は、相変わらず料理人らしくない。


「忙しいのにすみません」


「なに、こっちは大丈夫じゃ。 それより、式の当日、店はどうする?」


それなんだよなあ。


「人が多過ぎて町も混雑するし、店は閉めたほうがいいと思います」


前後の数日は食堂を閉め、その代わりに弁当を数量限定で販売するのはどうかな。


「わしもそのほうがいいと思う」


太い腕を組んで旦那さんが頷く。


日程が決まり次第、店に告知の張り紙を出すことにした。




「その代わりと言ってはなんですが」


少し落ち着いたら、ヨシローとケイトリン嬢を招待して、本部で小さなお祝いをしたいと提案した。


「おう、それはいいな。 こいつにも腕試しさせてやれる」


そう言って、養子に迎えた青年の肩を叩いた。


「お手柔らかに頼みますよ、師匠」


「ガハハハ」


明るい笑い声が響いた。




 ここまで来ると港にも寄らなければならん。


「こんにちは」


「おー、エルフの坊ちゃん。 トスなら庭で魚醤作りを手伝ってるよ」


「分かりました。 それより、魚醤の生産は増やせそうですか?」


たぶん正式な依頼は後から来ると思うが、一応、他の領地での販売が本格的に始まる。


「ああ、大丈夫だ。 ご覧の通り大漁だからな」


魚醤の蔵をまた増やすそうだ。



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