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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第六百四十一話・結婚式の準備が始まる


 その日、真夜中にモリヒトが帰って来た。


「早いね」


『アタト様はまだ起きていらしたのですか』


うん、ちょっとな。


モリヒトはサンテに頼まれたものを取りに来ただけらしい。


向こうがバタバタやってる間、こっちはこっちでガサゴソやってるから気にしないでくれ。


『何をなさっているのですか?』


自分の用事が済んだらしく、モリヒトが僕の手元を覗き込む。


「まあ、色々と、な」


やらなきゃならんこと、考えなきゃいけないことが多過ぎる。


『私が戻ったらお手伝いしますので、本日はもうお休みください』


あ、やめっー。


……気が付いたらベッドの中で朝を迎えていた。


くそぉ、またモリヒトにやられたー。




「おはようございます」


「おはよう、ハナ、キラン」


モリヒトがいない間、神社は部屋に出しっぱなしになっていた。


一緒に参拝を済ませる。


3人で朝食を済ませた頃に、移動結界でモリヒトだけが戻ってきた。


「お帰りなさい、モリヒトさん」


キランやハナは嬉しそうだが、僕としてはよろしくない。


「護衛はどうした」


仕事を放棄して、先に帰って来たのか?。


『いえ。 あちらはしばらく向こうに滞在することになりましたので』


サンテが補助に付き、春の農作業予定を前倒しで開始したらしい。


『それで、私が昨夜必要なものを引き取りに来ました。 農場の倉庫は食料品で満杯なので、当分心配ないかと』


本部にあった保存用食糧を移したそうだ。


「あのな。 モリヒトには護衛を頼んだはずだが」


アタト商会は人手不足なので、精霊でもこき使う。


『はい。 そこは私も心配いたしましたが、結界で十分だと判断いたしました』


周りには魔素がない。


つまり魔獣は存在しない、ということだ。


『農場の結界からは出られないし、外からも入れません』


まあ、そうだろうが。


『分身を置いて来ましたので、何かあればサンテが連絡してきます』


んー、いいのか、それで。




『それに、ヨシローさんとケイトリン嬢の結婚式が近いですから』


うむ、そうなんだよ。


お蔭で最近、町の住民は浮き足し立っている。


「招待客や商人も続々と入って来ていますからね」


キランによると、辺境伯家から領兵や使用人たちが大勢、応援に来ているそうだ。


「貴族のほとんどが領主館に泊まりますから」


小さな町なので貴族が泊まれるような宿はない。


そのため、領主は招待客を最小限にして領主館に泊めている。


「貴賓客なんて辺境伯夫妻とエンディくらいじゃないの?」


僕の言葉をモリヒトが否定する。


『辺境とはいえ領主ですし、縁戚者もいらっしゃいまよ。 それにヨシローさんの結婚式ですから、王宮の貴族管理部からも監視役が来るようです』


あー、そうか。


『異世界人』と現地貴族家の婚姻である。


王都の教会本部から高位神官も来るかも知れん。


ま、その場合は教会に泊まるだろうが。




「ティファニー様も参列を楽しみにされていますよ」


明るい声でハナも会話に加わる。


田舎とはいえ、町をあげてのお祭り騒ぎだ。


町の子供たちも楽しみにしているのだろう。


「はい!」


ハナも、だね。


顔が赤いよ。


「スーリナーさんが色々と作ってくださってるので楽しみなんです」


どうやら実家に戻っているスーは、結婚式に参列する女性たちの装飾品や小物を作っているらしい。




 一生に何度もない、領主家の祝い事である。


この機会に住民の男性は一張羅の正装を、女性は花嫁にあやかって薄い色のドレスを仕立てるらしい。

 

そのために領主からは準備金が配られたくらいだ。


「そういえば、仕立師のお爺さんからアタト様の服は任せろ、と伝言がきていましたよ」


ハナ、それは聞かなかったことにしようか。


「忙しいのに、僕なんかにわざわざ作ってもらうのは申し訳ないしねー」


「いえ、それを聞いたのは婚約が決まってすぐらしいですよ」


早過ぎないか、爺さん。


いつも僕の服を勝手に作ってくる。


ありがたいけど派手なんだよ!。


正直、少し恥ずかしいよ!。




 庭に出て久しぶりにタヌ子と遊んでいたら、いつの間にかジョンが来ていた。


「昨日はありがとう」


あれからタカシがハナに謝っていたと伝えると、ジョンも少しホッとした顔になる。


「よかった」


その柔らかい雰囲気は元暗殺者とは思えない。


「あっ」と背後で声がして、振り向くとタカシがいた。


逃げ腰だが、逃げられないと分かっているようで、なんとか踏ん張っている。


「おはようございます。 何か御用ですか?」


僕は笑顔で話し掛ける。


「あ、あの、昨日の話だけど」


タカシは司書に会ってみたいと言う。


僕は頷き、ジョンに都合を訊く。


「いつでも」


助かる。


「今は、ヨシローさんとご領主の一人娘であるケイトリン嬢の結婚式が近いので、町に人が溢れています。 ジョンが同行してくれるそうなので逸れないように気を付けてください」


「わ、分かりました」


タカシはジョンにビビりながら頷いた。




 僕はキランを呼んで馬車を出させ、2人を教会に送るように頼む。


「昼はアタト食堂で食べてね。 夕方、バムくんの送迎用馬車に乗せてくれればいいから」


馬車に乗り込むジョンに、護衛は夕方まででいいと伝えた。


 ジョンは、『ニンジャ』の才能持ちである。


護衛といってもピッタリと張り付くようなことはしない。


近くにはいないのに、何かあれば、いつの間にか傍に現れるのはさすがだ。


いつもさりげなく、町の見回りをしているジョンに、彼も守る対象に入れてもらう。


ジョンも、タカシが『異世界人』であることは承知しているので頷いてくれた。


タカシも、どこでジョンが見ているか分からないほうが緊張感があって下手なことはしないだろう。




 さて、2人がキランの馬車で町へ向かった後、僕はまた部屋に引き篭もることにする。


「あー、ヨシローたちの結婚式っていつだっけ」


『辺境伯がおいでになったらと聞いています』


辺境伯夫妻は王都での冬の社交を終えて、領地への帰還途中である。


辺境伯は領主の上司であり、主賓だ。


主賓がいないと始まらないのは分かるが。


「それって実質、未定じゃないか」


なんだそりゃ。



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