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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第六十四話・契約の反故の意味


 老店主が帰った後、夕食は静かなものだった。


時々、ヨシローが魔道具店の息子のことで文句を言っていたが、今の僕たちにはどうしようもない。


本店から押し付けられたものを購入し続けたら、息子店主はさらに増長するだろうし。


現状維持しかない。


ということで、気になることはいっぱいあるけど、夕食後に僕たちは森へと出発した。




 夜明け前に塔に帰着。


無言で早足だったせいか、いつもより早く着いた。


いつもならすぐに部屋に戻って寝たいのに眠気がこない。


仕方なく、僕は一階広間の干し魚の取り込み作業をする。


「あれっ、アタト?」


空が明るくなってからトスが顔を見せた。


「あ、本当だ。 早かったんですね」


すっかり取り込まれて保存箱に入れるだけになった干し魚を見てガビーが驚く。


「うん。 ちょっとねー」


後をガビーたちに頼んで、僕は地下に降りた。


ベッドを見てもちっとも寝転びたいとか思わないんだよな。


「モリヒト、風呂は入れるか?」


『はい、アタト様。 すぐに準備いたします』


僕は頷いて廊下に出て、モリヒトの後ろを廊下の奥へと歩いて行く。




ザブンッ


「ふう」


今日の風呂場は外が見えない状態にしてもらっている。


色々と考え事をするときは狭い空間がいい。


 今回の町への遠出は、最初からたくさん問題を抱えていた。


分かっていたはずだ。


これは僕の力ではどうにもならないって。


僕の体は小さいし、頭の中は老人で、経験も、見て来た景色も、ほとんどが異世界のモノ。


そんな僕が、この世界で正しい答えなど出せるはずがない。


それでも、自分が関わっている人たちの手助けぐらいはしたかった。


だから僕は町に向かったのに。


「やはり、何も出来なかったな」


ポツリと声が零れる。




 風呂場の出入り口に立っていたモリヒトがクスリと笑った。


「むっ、そんなに可笑しいか?」


僕は頬を膨らませる。


どうせ身体は子供だ。 不貞腐れた仕草も許されるだろう。


『ええ、可笑しいですね。 アタト様はあんなに皆のお役に立っているのに、あまりにもご自分を卑下されておられる』


僕は眉を寄せてモリヒトを睨む。


「どういうことだ」


『アタト様はガビーを助け、トスを預り、ワルワさんに素材を届け、ヨシローさんと友になり、ティモシーさんの心を開いた。


王子殿下はあなたを認め、漁師さんたちは魚釣りを覚え、魔道具店を救った。


何も出来てないとは言わせませんよ』


「そ、それは」


僕はお湯のせいではなく、顔が熱くなるのを感じる。




『役に立つ、ということは微妙ですよね。 誰かの役に立っても、自分自身では分からないのでしょう?』


「いや、回りまわって自分の役に立つことだってあるとは思うが」


こんな話、人間ではないモリヒトに分かるのかな。


『我々眷属は無条件で主人のお役に立つようになっておりますので』


ああ、そうか。


モリヒトが一番良く分かってるんじゃないか。




 そうだとしても疑問が残る。


「その眷属自身が望んでいなくても、か?」


エルフが産まれてすぐ契約する眷属。


成長したら嫌なヤツになったってこともあるだろうに。


『はい。 しかし、眷属契約とはそういうものですので』


最初から主人となる相手のために働くことを決めた契約。


「じゃ、契約を反故にしたらどうなるの?」


『お互いに納得すれば解消は可能ですが、まず主人のほうから解約を申し渡されることはないですね』


そりゃそうか。 便利な家来をわざわざ手放すことはしないだろう。


『その代わり、と言いますか。


違う眷属が欲しくなったため、解放ではなく、消滅させようとした例はあります』


新しい主人に自分のことを話されるのを嫌ったらしい。


「うわっ、なんだそれは」


僕は背筋が寒くなる。


嫌なら契約解消の条件にしておけばよかったのに、存在を消失、つまり死を望むなんて。




『そうですね。 例えば、アタト様がわたくしを解放したいとお考えでも、精霊王から直接命令されているわたくしは離れるわけには参りません。


そうなると、アタト様はわたくしを消滅させるしか解放する方法はございませんよ』


ナニソレコワイ。


モリヒトの暗い目を見ていると、僕には方法がもう一つ思い浮かぶ。


「他に眷属を解放する方法としては……主人のほうを消す、とか」


どちらかが執着して契約を解消出来ないなら、その片方の相手をこの世から消せばいいだけだ。


精霊なら消滅、エルフなら命を奪えば良い。


「その場合、眷属では主人を殺せないから、誰かに頼むしかないな」


頷くモリヒトは、そういう例があったと言う。


実際には成功しなかったようだがな。


 どんなことがあったのか。


知りたいような、聞きたくないような。


いや、やっぱり止めておこう。


だけど、精霊を消滅させる方法なんてあるのか?。


かなり難しい気がするけどな。




 結局、眠気は来ないまま部屋に戻り、薬草茶を飲む。


ガビーとモリヒトが荷物を片付けているのをぼんやりと眺める。


タヌ子はとっくに寝床で丸くなって眠っていたはずだが、僕が部屋に戻って来ると、何故か起き上がって体を擦り寄せて来た。


おいおい、もうデカいんだから止めろ。


タヌ子は僕の体にのし掛かり、重みで倒れ込む。


うげっ。


床に落ちた僕の上にタヌ子が丸くなる。


「おい、やめっ、タヌ子ぉー」


ジタバタしてもタヌ子は動かない。


「も、もりひとー、た、たす、ぐえっ」


タヌ子の温もり、柔らかい感触、重いけど。


やっと何だか眠気が襲って、きた……な……。


モリヒトが助けてくれなかったので寝てしまった。



 ◇ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◇



「ねえ、ガビー師匠」


「えっ!、トスくん、な、なに突然」


「オラ、ガビーさんの弟子になりたいんや」


「いやいやいや、私はまだ弟子なんて取れるほどの腕じゃありませんよ」


「そんなことねえよ!。 オラ、ガビーさんの作るもんが好きだ」


「そ、そうですか、それは嬉しいです」


「だから弟子にしてや」


「それはー。 アタト様とモリヒトさんが帰って来てから聞いてみましょう」


「うん、分かった。 オラ、弟子にしてもらえるよう、がんばる」


「は、はあ」



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