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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第六百三十九話・見学者の出発と揉め事


 モリヒトを護衛に付けたズラシアスの農作業希望者御一行が、サンテの案内で農場へ出発した。


僕とモリヒトの間では念話というものが使える。


他の眷属たちは何かが足りないのか、まだ使えないが。


「どう、混乱はない?」


僕は移動中のモリヒトに訊ねる。


『はい。 無事です』


淡々とした答えが返ってくる。


まあ、皆が無事ならそれでいい。




 魔獣の森で2泊したら、国境門に着く。


門を出ると、そこからは何も無い荒れ地が続くが、突然、モリヒトの見えない結界にぶち当たることになる。


先日、大量の農地をズラシアスから移動した結果、エテオールの国境門から、かなり近くなってしまった。


そのため、門の警備兵からは荒れ地にしか見えないように、モリヒトが結界の壁に荒れ地を映しているのである。


 ズラシアスとエテオールに隣接する空白地帯。


その昔、どの国も所有したがらなかった魔素の無い空白地帯を『大地の精霊』が農業試験場として開発した。


今回はズラシアスから農業指導者を連れて来て、ついでに農地も入れ替えている。


農業試験場と、そこから開発した農産物を作付けする大規模な農場になる予定だ。


モリヒトにとって理想的な大地になるだろう。


「農場は、王都の陛下やご老公には許可は取ったけど、長年国境を守っている兵士たちは魂消るだろうしな」


平和が一番。


まだしばらくは隠しておくさ。




 さて、明日はガビーが工房見学者を連れて、塔にあるドワーフ工房に行く日だ。


「えっと。 ズラシアスの技師さん2人と、ワルワさんとこにいる魔道具師の少年を連れて行くんですよね」


ガビーが出発の確認をしている。


「ああ。 ドワーフ地下街のほうも可能ならよろしく頼む」


「はーい」


ズラシアスからの土産の酒を持たせて、ついでにガビーの父親の工房の見学もお願いする。


 今日の夕方には、ジョンがウィウィを連れて来ることになっていた。


今夜は2人ともこちらに泊まり、見学者は翌日の早朝に出発予定だ。


 そういや、スーを本部で見かけないと思ったら、ドワーフ地下街の実家に帰ってるって話だったな。


ついでに、スーの様子も見て来てもらうように頼む。


また仕事を頼むことがありそうだからな。




 翌日、ドワーフ工房見学御一行が出発した後、町で働くドワーフのお婆様と食堂の老夫婦と養子の青年がバムくんの馬車で出掛けて行く。


残ったのは僕とキラン、ハナ、タカシとジョンだ。


 結局、タカシはどちらにも参加せず、なんだか知らんが、まだハナに付き纏っている。


仕事の邪魔になるとハナは困っているが、僕の客なので邪険に出来ないみたいだ。


「いや、全然やっつけちゃっていいよ」


とは言っておいたが、優しいハナには無理か。


「仕事以外の時間は僕の部屋で修行でもするか?」


僕の部屋は、今、眷属以外は入れないようにしてあるからな。


「ありがとうございます。 助かります」


ハナは笑顔で答える。


修行といっても眷属になりたてなので、何が出来るのか分からないが、ハナが使えるように書道と絵画の道具は準備しておくか。




 無属性魔法持ちの双子の兄サンテに比べて、妹のハナは教会での検査では才能が見つからなかった。


かといって、魔法属性は見つかりづらい。


「サンテも魔力異常だと分かっていただけで、才能自体は不明だったんだよな」


後になって珍しい無属性魔法持ちだと判明した。


僕は、今は見つからないハナにも何かあるのではないかと思っている。


そういう疑問が芽生えたのは、彼女の魔力が増え続けていることが分かったからだ。


 王都の貧困地区に居た双子。


サンテの魔力異常に巻き込まれて、幼い子供の魔力が暴走する危険があった。


あの時、サンテを保護しなかったら確実に被害者は出ていただろう。


「しかし、ハナはよく無事だったな」


双子の妹であり、サンテとずっと一緒だったハナは、病弱ではあったが暴走はしていなかった。




 商会では、昼食は各自で自由に取ることになっている。


頼んでおけば食堂の老夫婦はお弁当を用意してくれるし、自分で作りたければ食材と厨房は勝手に使っても良い。


タカシは、いつもバムくんと使用人食堂で弁当を食べているようだ。


 僕はハナと一緒に、部屋でキランが作ってくれた軽食を摂る。


キランはズラシアスで和食を習ってたから、商会本部に戻ってからもちょくちょく作ってくれる。


「アタト様、ちょっと来て」


バムくんが焦った声で呼びに来た。


「どうしたの?」


タカシの気配が無いのを確認し、部屋の扉を開く。


「あの、ジョンくんが、タカシだっけ、あの少年を」


ジョンとタカシが揉めているそうだ。




 ハナをキランに預け、僕は急いで現場に向かう。


2人は1階の使用人部屋が並ぶ廊下にいた。


「ジョン?」


ジョンはタカシを壁に押し付け、彼の首元を締めていた。


 ジョンとタカシのどちらを信用するかといえば、僕ならジョンだ。


「事情を話してくれないか」


ジョンに声を掛ける。


「グッ、離せ、このぉ」


タカシは長身のジョンに吊り上げられて、足をバタバタしていた。


「ジョンくん、ダメだよ。 死んじゃうから」


バムくんの説得で、ジョンが腕の力を緩めた。


だが、離したわけではない。


洋服は掴んだままである。




「ハナの部屋に入ろうとしていたから捕まえた」


は?。


ジョンはタカシがハナの部屋の前で何かをしているのを見つけたらしい。


「入ろうとしてたわけじゃない!」


まあ、入ろうとしても部屋の住人の許可がなければ入れない。


「じゃあ、コレで何をしていた」


ジョンが持っていたのは、鍵を解除する道具のようだ。


タカシは魔力が無いので魔道具ではないが。


「だから、ハナちゃんが部屋で具合が悪くて倒れてるのかと」


何度声を掛けても返事がないから、心配して開けようとしたと言う。


バカじゃないか。


「誰かに頼めばいいだけだろ。 女性の部屋に入ろうとすることはただの犯罪だ」


「俺はハナちゃんが、こんな奴らにこき使われてるのがかわいそうで!」


ほお?。


「だからって、君に何が出来るの?」


連れ出して、どうするの?。


「魔力もないのに?」



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