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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第六百三十六話・本部の受け入れの注意


 さて。


「帰ろう」


「はい。 アタト様」


キランが広場に馬車を回す。


アタト食堂にも寄りたかったけど、今回はお客様がいるからやめておいた。


 すっかり口数が減ったティファニー嬢とタカシ。


馬車はガラガラと音を立てて石畳を走る。


馬を教会に返したティモシーさんも、今日は馬車に同乗してアタト商会に泊まる予定だ。


ティファニー嬢の護衛及び監視は継続である。




 やがて町を外れ、森に入った。


「モリヒト、魔獣の様子は?」


以前、僕たちが辺境地を離れていた間に魔獣が増えてしまったことがある。


強者であるモリヒトの気配がないせいで、他所から魔獣が集まって来てしまったのだ。


『前回ほど増えてはおりません。 海岸沿いは魔魚の産卵で賑わっておりますが』


そか、ならいい。


漁港が賑わうのは助かる。


魚醤の生産が増えてくれるからな。




 商会本部の隠蔽と防御の結界に入った。


懐かしい。


冬の間、留守をしてしまった我が家だ。


「お帰りなさいませ」


サンテとハナ、バムくんが迎えに出て来た。


「長い間、ご苦労様」


「アタト様もお疲れ様でした」


ハナの笑顔に何故かホッとする。




 広い玄関内に入り、ティファニー嬢とタカシを2階の客用の部屋に案内を頼む。


モリヒトが荷物を出し、サンテが運んでいく。


「預かったズラシアスの皆さんは?」


「地下の広間に入っていただいています」


馬車をバムくんに預けたキランが答える。


ああ、ドワーフたちがいつも宴会に使ってる広間な。


辺境伯から借りた護衛と馬車は引き上げて行ったそうだ。


「僕は夕食まで部屋にいるから」


「承知いたしました。 夕食は全員、1階の使用人用食堂でよろしいですか?」


執事服のサンテが訊いてくる。


食堂としては、あそこが一番広い。


「そうだな、任せるよ」


僕は地下の自室に向かった。




 モリヒトが部屋の結界を解き、空気を入れ替える。


『入浴の準備をしておきます』


うん、よろしく。


着替えて畳にゴロンと寝転ぶ。


コタツもあるけど、今、入ると熟睡してモリヒトに怒られる。


『お風呂にどうぞ』


「うーん」


ダラダラしていたら裸に剥かれて放り込まれた。


『お手伝いいたしましょうか?』


「いらんよ」


怪我なんかで動けないならいざ知らず。


自分で髪も洗い、じっくりと浸かって疲れを癒した。




「アタト様」


風呂上がりに冷茶を飲んでいたら、キランが入って来た。


ついでにガビーも。


「ガビー、塔の工房は順調か?」


「アタト様、お帰りなさい!」


いや、工房のことを訊いてるんだが。


「大丈夫、皆、がんばってくれてまーす」


ふむ。 まあ何もないならいいか。




 しばらくしてサンテもやって来た。


夕食の前に話がある、と3人を呼んでおいたのだ。


「今日、ズラシアスから来た者たちを預かってきた」


ティファニー嬢と世話係りの侍女が2名。


こちらは2階の貴族用客室を使ってもらう。


護衛用の部屋にはティモシーさんが入る。


「注意点は、ティファニー嬢に関してはティモシーさんに任せることだ」


ふたりの邪魔はしないように。


「はい!」


ガビーがニヤニヤしている。




 ズラシアスの『異世界関係者』については、まだ検討中だ。


「工芸師というより工作機械の技術者が2名いるけど、どうすればいいと思う?」


ガビーに訊いてみる。


「ドワーフ工房に受け入れるか、ということですか?」


ガビーは、ふむと腕を組んだ。


「見学は構わないと思いますけど、仕事に関しては何を作りたいか、によりますよ」


先日、ガビー工房で受け入れた工芸師志望の女性ドワーフとは方向性が合わず、独立してもらった。


「そうだな。 一度、塔の鍛治工房を見てもらおう」


その時はウィウィも一緒に連れて行くか。




 農作業希望者については、すでに決まっている。


「ウスラート氏の様子はどうだ?」


サンテに話を振る。


「はい。 特に問題はありません。 時々、泊まっていけと煩いですけど」


「あはは。 あんな場所にひとりだからな。 明日にはズラシアスの希望者を連れて行こう」


寝具やその他の必要な備品を揃えて運ばないとな。


「それはもう運んであります」


サンテは、必要な備品を少しずつ運び込んでいたらしい。


「後は大きなものだけですので、モリヒトさんにお願いしようと思って倉庫にまとめてあります」


モリヒトも頷いている。


「分かった。 では、そちらは任せよう」


「はい、承知いたしました」


サンテは、以前とは見違えるような綺麗な礼を取るようになった。


パーメラシア王女の影響だろうな。




 それから、重要な話をする。


「『異世界人』タカシについてだが」


基本的な扱いはティファニー嬢と変わらない。


これは貴族などの身分に対する区別ではなく、犯罪者の監視のためである。


「バムくんに護衛と監視を頼むつもりだが、彼も忙しい」


なるべく目を離さず、ひとりにならないように注意してもらう。


「それと、もう一つ」


僕は顔を引き締める。




「絶対にこの部屋に入れるな」


『異世界』のものがいっぱいあるから、ぜーったい見られたくない。


「ここには一応、入れないようにはするが、タカシが欲しがるようなものがたくさんある」


「そんなヤバい奴なんですか?」


ガビーが首を傾げている。


「ズラシアスでは罪人扱いだからな」


「あー」と、皆が納得する。


タカシの事情を知っているキランとサンテは静かに僕を見ていた。


「彼に何かやりたいことが見つかれば、早めにそっちに行ってもらうつもりだ」


ヨシローのように貴族家に預かってもらうのは無理だろう。


商店か、職人の工房辺りに落ち着いてくれればいいけど。




 サンテが提案する。


「ズラシアスの仲間たちと一緒に農場に行ってもらえばよいのでは?。 父、ウスラートなら喜んで引き受けてくれると思うんですが」


僕がタカシを嫌がっていると感じたのか。


「それは本人次第だ」


タカシが行きたいと言えば、それが一番良い。


だけど、彼はあまり自分の置かれた状況を理解していない気がする。


「しばらくは様子見だ」


「はい。 承知いたしました」


キランとサンテは夕食の準備に出て行ったが、ガビーは残っていた。


ん?、なんか用か?。



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