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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第六百三十三話・帰りの道中での事


 ふう、もういいかな。


教会については、後の作業はエンディたちに任せる。


この領地のことだし、僕は勝手にやったけど了承してもらえたはずだし。


キランに任せた魚醤販売店についても目星がついたので、交渉もひと段落。


後は行商人のロタ氏に配送を任せる。


「そろそろ辺境の町に帰ります」


たぶん、お婆様が手ぐすね引いて待ってるだろう。


「ああ、そうしろ」


エンディが疲れた顔で言う。


「母上が会いたがっていたから、また連絡する」


「承知いたしました」




 宿に戻り、ゼイフル司書と話す。


「私はアタト様と帰りますが、警備隊の彼らはここに残してもよろしいでしょうか」


一度に教会が増えたので、本部との連絡や見物人の整理で人が足りない。


「僕は構いません」


護衛はモリヒトがいるし、キランもそれなりに育っている。


「ありがとうございます」「お世話になりました」


4人の教会警備隊の若者とは、ここで別れることになった。


なんかさー、領主館の侍女さんの影響もありそうなんだよなあ。


まあ、本人たちが幸せなら、それでいいけど。




 キランの馬車に僕とゼイフル司書、モリヒトも御者の交代要員として一緒に乗り、辺境伯領に向かって出発した。


隣りの領地だが、辺境伯領は広いので領都までが遠い。


ここまで来れば急がないので、のんびりと進む。


「そういえば、エンディ様にアタト様の絵を見せて頂きましたよ」


馬車の中で、ゼイフル司書が僕を見てニヤニヤしながら言う。


「絵ですか?」


「ええ。 婚約祝いに贈られたとか?。 あれはガビーさんの作品でしたか、良い出来でした」


あー、御遣い姿のアレか。


ガビーにしては珍しい絵画の力作だ。


「エンディ様は、新しい教会に飾りたいと言ってましたよ」


ピキッと体が固まる。


「アレを?」


「はい。 ドワーフの地下祭壇に掲げると」


やられた!。


僕は顔が赤くなるのを感じる。


完全にエンディの意趣返しだ。




 落ち込んだまま辺境伯領都邸に到着。


「いつもご迷惑をお掛けしております」


「いえ、とんでもございません。 こちらこそ、お世話になっております 」


筋肉家令が出て来たので、軽く挨拶を交わす。


家令だけでなく、武人である辺境伯の使用人たちは揃って良い体格をしている。


その中に、先日世話をしたベラとデイジーという2人の少女たちが細々とと働いているのを、遠くからコッソリと眺めた。


がんばれー。




 僕たちは今日はこちらに泊めてもらい、明日には辺境の町、そして我が家へと帰る。


「わたくしもお供させてくださいませ」


元ズラシアス国の王女、ティファニー嬢がニッコリと笑う。


そうだった。


ここに預けていたんだっけ。


「どうしてもヨシローに会わせろと」


護衛兼世話係りのティモシーさんが困った顔をしている。


「わ、わたくしはタカシに『異世界人仲間』に会わせてあげたくて、ですわ!」


ティファニー嬢とティモシーさん、前より仲良さげだなー。


あー、『異世界人』とその関係者も引き取らないとなあ。


僕は痴話喧嘩している2人をボンヤリと眺めていた。




「どうされました?」


別棟の部屋で寝る支度をしながら、キランに声を掛けられた。


少し疲れてるのかもな。


「なんでもないよ。 明日からの予定を頼む」


「はい」


辺境伯領都から、ティファニー嬢とズラシアスから来た『異世界関係者』と一緒に辺境の町バイットに向かう。


護衛はティモシーさんと領兵の精鋭兵。


領都からは約3日で到着予定である。


「結局、何人連れて行くことになった?」


元王女と『異世界人』は、僕がこの国での身元保証人的な立場になる。


あとの異世界関係者については、アタト商会預かりとなった。


労働者として、国が受け入れたことになっている。


「侍女2名、魔道具や機械の製造に2名。 あとは農業希望者が6名います」


名簿を渡されたが、ぶっちゃけ顔と名前が一致していないので分からん。




 翌朝、辺境伯家から馬車を2台と護衛を騎馬で数名借り、出発する。


「またいつでもお立ち寄りください」


筋肉家令がキッチリとした礼を取る。


「ありがとうございます」


いつも疑問に思うんだけど。


この辺境伯家の僕に対する甘さはなんなんだろうなー。


馬車に乗り込みながら改めて館を振り返ると、本邸の屋根の近くの窓で家妖精が手を振っているのが見えた。


僕はそれに手を振り返す。


元気そうで良かった。


「何かありまして?」


ティファニー嬢も、馬車の窓から辺境伯領都邸の建物を見上げる。


「いえ、なんでもありませんよ」


馬車が動き出す。




 3日目の昼には懐かしい海が見えて来た。


「こんな近くで、海を見るのは初めてですわ」


ティファニー嬢が騒ぐので、


「じゃあ、この辺りで休憩にしましょうか」


と、馬車を停めた。


 ズラシアスから来た者たちは、国土が広過ぎて海を見たことがなかったらしい。


エテオール国に来てからも国境の町と王都しか見てないからな。


王都から辺境伯領都までは、モリヒトの魔法で移動しているし。


「あの、行ってみても?」


ティファニー嬢、僕に上目遣いしなくてもいいよ。


「ティモシーさん。 ティフ嬢が波打ち際に行きたいらしいです!」


馬の世話をしていたティモシーさんを呼ぶ。


「海だ!、懐かしいぃー」


走り出そうとするタカシの襟首を、モリヒトが掴んで止める。


「な、なんだよぉ」


僕はニヤリと口元を歪めてタカシの目線を誘導。


その先には、美男美女が波と戯れている。


「チッ」


コラコラ、ハシタナイゾ。




「キラン」


「はい」


弓を持つキランを久しぶりに見たな。


護衛のうち、遠距離攻撃出来る者だけが駆け出す。


「な、なに?」


タカシや、ズラシアスの者たちを堤防用として少し高くなっている場所に連れて行く。


「あれは?」


「魔魚の群れですよ。 春の風物詩ですね」


この時期、魔魚は産卵するために浅瀬に集まって来る。


 キランや辺境伯領兵たちの攻撃が始まった。


「近寄らせない程度にしてくださいねー」


漁師さんの邪魔をしないようにと声を掛けておく。


美男美女は波打ち際で抱き合い、魔魚の討伐を見学していた。


「チッ」


コラコラ。



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