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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第六百三十一話・鉱山の中に眠る


 早く終わったので、僕は一旦引き上げる。


「ちょっと鉱山詰め所に顔を出して来るよ」


「では馬車を」


キランが慌てて着いてこようとするのを止める。


「いやいいよ。 魔法で移動する」


近場なら僕の練習にもなるんでね。


 キランには引き続き、魚醤の販売店との交渉を頼む。


昨夜のお婆様との交渉もキランに任せてみたが、お婆様はキランだと叱れないみたいで。


「悪いのはキランくんではないですから」


とか言って、淡々と話を進めていた。


なんなの。 僕は怒られ役なのかな。


『キランを叱っても、アタト様が変わらないと仕事は増え続けますから』


ぐう。


すまんこって。




 山に向かう前に教会跡地に寄る。


「モリヒト、地下になんかありそうか?」


『そうですね。 埋まった通路があるようです』


「通路?」


ああ、3つの建物を繋ぐ廊下か。


でもなんで地盤の悪い地下に?。


地面を見ていたモリヒトが顔を上げる。


『建物を繋ぐのではなく、細い通路が建物の裏手に続いていたようです』


そう言って指を差す。


敷地の外、裏通りへと続く通路。


古くて既に朽ち落ちているそうだが、なんだか嫌な予感がした。




 僕とモリヒトは領地の山奥にある鉱山に飛ぶ。


入り口には、モリヒトが作った石の扉が付いているのでそれを目印にした。


その横の二階建ての詰め所に入る。


「こんにちは、ドワーフの兄貴はいますかー」


ロタ氏兄はそういう愛称で呼ばれているらしい。


「おう、来たか」


大柄なロタ氏兄が出て来た。


「見せたいものってなんです?」


「ちと待ってくれ」


もうすぐ坑夫たちが上がって来る。


その後にしようと言う。




 軽い食事を摂りながら2階の窓から扉を眺めていると、仕事を終えた坑夫たちが出て来た。


その中には、ジャラジャラと鎖を引きずった囚人たちもいる。


僕があまりここに来たくない理由。


それが、彼らだ。


あの中には僕が捕まえて、ここに連れて来た奴もいるからな。


やっぱりちょっと気不味きまずい。




 坑夫たちの宿舎に火が点り、五月蝿い食事が始まった。


「よし、じゃ行くか」


ロタ氏兄が誰かを呼ぶ。


小柄な男性ドワーフがやって来た。


「ソイツを発見した爺さんだ」


かなり年嵩なのか、髪や髭がかなり白く、腰も曲がっている。


「この辺りに長く住んでいたドワーフらしくてな」


ロタ氏兄が紹介してくれた。


「えっ、昔の鉱山が稼働していた頃からですか?」


老ドワーフは頷く。


まさか、閉山した後もここにいたのか。


長命種族ではあるが、その中でも高齢だということだ。


 何故か、その老ドワーフは僕をじっと見ている。


「何ですか?」


顔に何かついてる?。


「いや」と小さな声で呟き、ついて来いと手招きする。


僕たちは詰め所を出ると扉を潜った。




 かなり深い場所まで来たが。


「あれ?、行き止まりだ」


坑道の先がない。


ロタ氏兄を見上げると、大丈夫だと頷く。


 老ドワーフが岩壁に触れると、壁が動いた。


穴が現れる。


老ドワーフは、その奥の穴へと入って行く。


「実は、この先はかなり狭くてな」


体の大きなロタ氏兄では通れないらしい。


子供なら通れるから、僕が来るのを待っていたと言う。


いつからだよ、気の長い。




 穴に入ると、老ドワーフは少し先で待っていた。


僕の後ろからは光の玉になったモリヒトがついて来る。


老ドワーフが再び歩き出し、僕はそれを追って行く。


かなり狭く、僕でもやっと通れるくらいだ。


老ドワーフは小柄で痩せているせいか、苦労せずに移動している。


時々、振り返っては僕を見た。


なんなんだよ、いったい。




 モリヒトの光が揺れる。


いきなり穴の幅が広くなった。


「ここからは街が近い」


老ドワーフの小さな声。


僕たちがずっと歩いて来た穴は、山を下り、街の方に向かっていたらしい。


 やがて、広い場所に出た。


モリヒトがエルフの姿になり、光の魔法で闇を照らす。


「なんだ、ここ」


朽ちかけた祭壇があった。


「地下に教会?」


壁や天井、床も一部は崩れているが、確かに教会の礼拝堂のような雰囲気がある。


街中にあった小規模の教会よりも広い。


いや……。


それ以上に嫌な空気がヒシヒシと伝わってくる。


「お爺さん。 ここは昔の教会ですか?」


背中を向けていた老ドワーフが振り向く。


「闇の教会じゃ」


え?、ちょっと待て。


分からないから僕を連れて来たんじゃないのか。





「闇の?」


「そうじゃ、闇の教会。 お主らダークエルフを祀った場所じゃよ」


は?、そんなバカな。


「ここの領主一族は『悪魔』を怖れていたんでしょ?」


ダークエルフの容姿を『悪魔』と認識していたのに、何故、祀る?。


「怖れたからこそ、祟られないように祀ったんじゃ」




 老ドワーフが語り始める。


この街は鉱山が主な収入源だった。


「当時、まだ人間たちはドワーフ族と人族を見分けられなかった」


その頃から、老ドワーフは坑夫として働いていたという。


領主はさらに鉱山を広げるため、特に狭い坑道に入れる子供を必要としていた。


彼は、教会の施設にいる子供たちに目を付け、密かに拐い始める。


「ワシは許せなかった。 だから、仲間たちと鉱床を隠したんじゃ」


そのため、鉱石の産出量は段々と減っていった。




 子供が消える。


そんなことがあれば、誰も教会には近寄らなくなる。


教会の人間が減るのは当たり前だった。


「そんなある日、森の中に町があると噂が広がり、そこから商人が来るようになってな」


人間の姿はしていたが、同じ妖精種であるドワーフには分かる。


あれはダークエルフ族だと。


上手く交流している間は、ドワーフたちも口を出すことはしなかった。




 細るばかりの鉱山に焦った領主が目を付けたのは、その森の中の裕福な町だ。


「突然、出入りしておったダークエルフの商人が領主館の地下に囚われたと聞いた」


老ドワーフは「ワシらのせいかも知れぬ」と俯く。


ああ、そういうことか。


「いえ。 ドワーフの皆さんのせいではありません。 悪いのは、すべて当時の領主です」


僕は微笑む。


老ドワーフは痩せた体を震わせて涙ぐんだ。


 その後、ダークエルフ族は完全に姿を消した。


それまで平和だった辺境地の生態系は変わっていった。



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