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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第六百二十七話・種族の特定の瞬間


 静かな夜の部屋に、僕の声だけが響く。


「ボクは2歳くらいの時にエルフの森にある小さな村の長老に拾われました」


精霊魔法士であり、医術師でもあった彼に命を救われ、一緒に住むようになる。


「でも容姿がこれだし、どこの誰かも分からない。 事故や事件に巻き込まれたのなら、探している者たちがいるはずだ、と」


最初は好意的に協力してくれた村長や他のエルフも、他の村からそんな噂もなく、身元がはっきりしない僕を怪しみ始める。


「何か理由があって追い出されたか、捨てられた子供だということになりまして」


他のエルフの子供たちだけでなく大人からも疎まれ、長老が森の外に出ている間に村長から村を追い出された。


村長が僕を追い出した理由は、長老の後継者が僕になることを恐れたのが一番だったけど、それはここでは関係ない。




「7歳になっていましたし、モリヒトもいましたからなんとかなると従いました」


その後は人族との交流のお蔭で生きて来られたのは、僕に人間としての過去の記憶があったせいだろう。


「お前なら、どこでも生きていけるさ」


エンディがそう言って笑うと、暗い話も少しは救われる。


「辺境の町の教会で、ゼイフル司書から歴史の中で姿を消した種族のことを知り、調べ始めたんです」


その後、『町の住民が消えたのは悪魔の仕業ではないか』という話を聞いた。


「エンディの師匠だった宮廷魔導士も、ぼくの魔力を調べたところ『悪魔』に近いのでは、と言ったとか」


「うん。 これ以上、関わるなと言われたな」


利害関係の一致から付き合ってはいたが。


それには中年家令が眉を顰めた。




「あの」


首を傾げていたキランが声を出す。


「アタト様を育てていたエルフの方はどうされましたか?」


村から追い出した連中に怒っていないのかと訊く。


僕は頷いた。


「確かに怒っていた、と長老の友人エルフから聞いたよ。 だから、彼はそのまま村には戻らず、僕の家族を探す旅に出たんだ」


2歳の幼いエルフが、森の中で川の浅瀬に倒れていた。


上流を探せば、きっとすぐに手掛かりが見つかるだろう。


そう考えていたらしい。


「すぐに戻るつもりだったのに、まだ帰っていないみたいで。 今どこにいるかも分からないし、しょうがない爺さんだよ」


僕はキランを安心させるように微笑む。




 お茶で舌を湿らせ、僕は再び話し出す。


「ヘイリンドくんの話にも出てきた森の中に住んでいたのは、おそらくダークエルフ族だったのでしょう」


彼らは姿を変えることが出来た。


「人族が近付いていることに気付き、最初は人間の姿で接触し交流を深めようとしたと思います。 色々と便利なものや情報を与えて仲良くなっていきました」


争いなどない、平和な世界にするために。


 しかし、その頃、国の歴史が変わった。


「新しい国、国王から派遣された代官が軍隊と共にやって来ました。 裕福な彼らから財産や優秀な者たちを奪うために」


ヘイリンドくんも頷く。


「その辺りは、うちの一族の日記にありましたので間違いありません」


それを嫌った町の住民は大移動を決意する。


軍隊が迫っていたので、とりあえず最低限のものだけを持ち出して、消えた。


エンディも「それは王家の資料にもある」と頷く。




 ダークエルフ族であった証拠は、ヘイリンドくんの先祖の日記にある『姿が変わった』といわれる町の住民だ。


「白い髪と浅黒い肌は、長い間、地下牢に居たためではなく、魔力を遮断されていたため変化へんげの魔法が解けたのだと思います」


すぐにではなく、徐々に魔力消費を抑えながら解放されることを待ち望んでいたに違いない。


 ヘイリンドくんは「ハッ」と息を呑んだ。


「では、普通の人族の町だと思われていたのはダークエルフ族の町で、住民は皆、擬態した姿だったというわけか」


エンディはウンウンと頷く。


もしかしたら、脱出することはいつでも出来たかも知れない。


だが、捕らえられていた彼は、最後まで仲良くしていた人間たちが思い直すことを信じていたのだろう。


町の住民が全て見放すまで。




「擬態は、アタト様の姿を見て分かりました。 しかし、大勢の者が短時間で消えるなど、そんな魔法は聞いたことがありません」


中年家令が冷えた目でこちらを見ていた。


 僕はチラリとモリヒトを伺う。


闇魔法の存在はかなり脅威であり、モリヒトでも僕に教えることを急がなかった。


『大丈夫です、アタト様。 魔宝石が教えてくれますから』


それって、間違った使い方をしたら僕だけが痛い思いをするんだけど。


僕は肩で大きく息を吐く。




「光魔法は人々には大変重宝していますよね」


急に話題が変わってエンディが戸惑う。


「そうだな。 治療や浄化は他の魔法より強力で人を傷付けないのが一番の魔法だな」


そのため『神聖魔法』とも呼ばれる。


実際にはそういう魔法、魔力の名称はないので、教会が宣伝のために勝手に作ったようだ。


「では、その反対はなんでしょう?」


「そりゃあ、人を傷付けたり、苦しめたりする魔法かな」


僕はエンディの言葉に異議を唱える。


「それだと、火や水、風や土だろうと攻撃する魔法は全て悪になりますよ」


微妙な空気が室内に漂う。




「僕はゼイフル司書から、今では使われていない『失われた詠唱文』の本を見せてもらいました」


薄い本を取り出して見せる。


「今まで誰が詠唱しても発動しなかった詠唱文を集めたものだそうです」


エンディが手に取ろうとするのを制して、中年家令がその本を奪い開く。


「まさか、これはー」


「我は神の慈悲に乞い願う、この部屋を闇に沈めよ」


僕の詠唱と同時に明かりが見えなくなる。


「戻せ」


部屋に明るさが戻る。


「闇魔法、なのか」


中年家令の声が震えていた。




「今まで、この詠唱本を試した人々の中に『闇属性』の魔力を持った者がいなかったということです」


当たり前だ。


闇魔法はダークエルフ族の特性魔法である。


魔獣や魔物には闇魔法を使うものはいるが、人族には魔力消費が大きいため使いこなせない。


僕が、ダークエルフ族であることが確定した瞬間だった。



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