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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第六百二十一話・孫の責任と領地


 丸投げの手続きが終了し、僕とモリヒトは馬車を追いかける。


天幕を出ると、お嬢様が見送りに出て来た。


「やはり私では力になれませんのね」


お嬢様は、実の娘ではないから自分では大旦那を説得出来なかったと肩を落とす。


「お嬢様。 それは少し違いますよ」


お嬢様は娘というより、孫なのだ。


「孫、ですか?」


首を傾げる彼女に僕は頷く。


年寄りというのは孫には甘いものである。


「親になると実子には育てる義務があって、可愛がるばかりではなく、厳しく躾ける必要があるでしょう?」


「はい、まあ」


「でも孫になると、自分には教育をする責任などないと思ってしまうんです」


そして、躾をするのは親の責任なので、自分は孫に対して責任のない愚痴ばかりを溢すようになる。


何故、出来ない。


何故、分からない。


親は何をしていたのだ。


「教える気がありませんね」


そういうことだ。


「自分は孫を甘やかせ、懐いてもらって味方に付けようとします。 年寄りには優しくしなきゃいけないとか言うんですよ、下手な大人より強い権力を持つ老人がね」


厳しく叱ったりするのは親の仕事だから、自分には関係ないとばかりに。


たまには、親が不甲斐ないからと鍛えようとするだろうが、それもまた孫可愛さであり、責任はない。


そしてまた、愚痴に戻る。




 この世界では少し違うかも知れないが、爺さんなんて、その程度だろ。


「お嬢様は大旦那の養女になられましたが、年齢的には孫ですからね」


そういう目で見られていると思ってくれ。


「そうですね。 私、お義祖父じい様と呼んでいますが、お義父とう様と呼んだことはありませんでした」


無意識に、彼女は孫の立場のほうが可愛がられると理解していたのだ。


意見を述べたいのなら父親と呼ぶべきだったかもな。


人の気配がない闘技場の裏まで移動する。


「ありがとうございました」


深く礼を取るお嬢様と隊長、筋肉眼鏡に見送られ、僕はモリヒトの移動結界に包まれた。




 しばらく、モリヒトと2人だけで移動する。


娘に意見されたら大旦那は変わるだろうか。


僕は、子供や孫がいれば変わるだろうか。


『アタト様には、すでに子供はおりますよ』


ああ。 サンテとハナに関しては保護者という立場にある。


実質的な養子縁組だ。


僕はエルフ族であり、人族の法的なことに当てはまるかは微妙だし、まだ子供。


成人したら、また考えよう。


「でも、元の世界からしたら、サンテたちも僕にとっては孫の年齢なんだよなあ」


可愛くてしかたない。


『だから甘いんですね』


「そーだねー」とモリヒトの正論から目を逸らした。




 街道の側で休憩している一行を発見する。


「お待たせ」


声を掛けながら近付く。


「あ、アタト様だー」「お帰りなさい!」「お疲れ様でした」


盛大に歓迎してくれて、ありがとう。


「すみません、これしかなくて」


人数の割に小さな焚き火で暖を取り、お茶を淹れている。


あー、いつも僕やモリヒトが魔法でやっちまうからか。


それであんなに歓迎されたんだな。


「キラン、後で土魔法の練習しような」


「はい」


僕との眷属契約があるので、多少の魔法は使えるはずだ。


但し、要練習。


そうなると、一般的な魔力量しかないキランには魔力を増幅させる魔道具も必要になるな。


辺境地に戻ったら色々やることが増えた。




 沿道に荒れ地が続いているが、大旦那の領地は既に抜けていて、今はエンディ領だ。


本日宿泊予定の町が見えてくる。


エンディ領は狭いので、領都にはあと1日くらいで到着予定。


「領境で、エンディ様宛に到着の前触れは出してあります」


「ありがとう、キラン」


そう言って労うと、キランはホッとした顔になった。


 僕とモリヒトがいない状態。


普通なら年長であるゼイフル司書にお願いするところだが、今回はキランに任せた。


やっと肩の荷が降ろせたかな。




 馬車の中ではゼイフル司書に闘技場の存続の話をする。


「なるほど。 辺境伯ご夫妻にお任せするのは良い案ですね」


やはり教会内部でも、大旦那に対する評判はあまりよろしくないようだ。


「不祥事が続けば、領民の不満が高まりますからな」


むう。


せっかくの闘技場がすぐに更地になっていたら、領民から暴動を起こされた可能性もある。


そういうとこ、大旦那は分かっていなさそう。




 小さな町に到着。


久しぶりに庶民的な雰囲気の宿に入る。


「アタト様。 領主様より館までご案内するように仰せつかっております」


身なりの良い若い兵士が綺麗な礼で出迎えた。


こいつは、まあ、僕たちが余計な所に行かないように見張る監視役だろ。


お役目、ご苦労さん。




 エンディ家の使用人は元近衞騎士をはじめ、王宮で働いていた者が多い。


王子時代に面倒を見ていた人たちを引っこ抜いて来たのだ。


王宮では緊縮財政のため、少しでも人員を減らしたいので、引き抜きは歓迎される。


勿論、希望者のみだ。


王都から離れたくない者もいるだろうしな。


「私は家族ごと引越して来ました。 費用は全て王宮持ちですし、エンデリゲン様なら理不尽な命令もなさいませんから」


この若者は、年老いた祖父母や両親、兄妹まで一緒に移動して来たそうだ。


「エンディ領は活気がありますし、王都並に働く場所も多いです。 ドワーフの工房街やアタト食堂も魅力ですよ」


嬉しいことを言ってくれる。




 エンディの遣いである若者も交えて、一緒に夕食にする。


ここにも大旦那の領地から新鮮な野菜が入荷していた。


領境でまだ未開発、食材の入手は可能。


本気で闘技場を移せそうだ。


エンディに会ったら提案してみよう。




 夜明け前、少し周りを歩いてみた。


「どう思う?、モリヒト」


『闘技場の移設には問題ありませんが』


すでに整備されている街の郊外と違って未開の土地に移すには、かなりの道路や水、その他の施設が必要になる


「キラン、見積もりを作れるか?」


「やってみます」


メモ紙を片手に、モリヒトにくっ付いて調べ始める。


とりあえずの範囲を出し、現状を確認。


後はエンディ領のドワーフたちにも協力してもらえばいい。


魔道具関係は、エンディ家の優秀な家令に相談だな。



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