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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第六百十八話・闘技場の将来の話


 夕食の前に大旦那との会談に入る。


「こちらが本日、アタト様と私共で協議した結果になります」


金庫番が仮契約の書類を取り出し、大旦那の前に置いた。


署名し、魔力を注げば契約成立となる。


 見学中の大旦那は、お嬢様や少女たちに囲まれて、すこぶる機嫌が良かったらしい。


戻ってすぐに呼び出されたので不機嫌になっていた。


「ふむ。 どれどれ」


老眼用眼鏡を掛けて数字を見る。


途端に眉間に皺が寄った。




「なんだ、これは。 高過ぎるのではないか?」


建物の1日の使用料について、である。


何回かに分けて定期的に支払う土地の使用料と、1日分として払う建物使用料の金額が並んで提示されている。


金額だけを見れば桁が違う。


「こちらは一年間の土地の使用料とほぼ相殺になりますので」


妥当な金額だと文官が説明する。


「何を言う。 これだけ払うなら造ったほうが早かろう」


ほお。


あの大地の精霊が造ったものを、人間が造れるとでも?。


「いいえ、旦那様。 あのような闘技場を造るには、我々では何年もかかる上に、防御結界の魔道具や管理にも大金がかかります」


家令が必死に宥めに入る。


「じゃが、大会の度にこれだけ払うなら、その金で造れるだろう」


大旦那は家令を睨む。


「なに、一度造れば、すぐに元は取れる」


コイツはダメだな。


僕は目を閉じた。




 昨年の大会については僕がある事件を隠すために利用した。


そのため、闘技場についての費用などは請求していない。


お嬢様の次期領主のお披露目のためでもあったが、僕の好意は裏目に出たか。


 確認のために訊ねる。


「大旦那様。 今年だけ、この金額で引き受けてもらえませんか?」


大旦那がこれから自分で造るにしても、今回は絶対に間に合わない。


剣術大会の言い出しっぺは僕だし、『女性』の剣術大会は皆、楽しみにしている。


なんとか開催だけはしたい。


「まあ、もう造ってしまったのだからな。 今年の大会までは土地を貸そう。 終わったら返してもらうぞ」


なんで上から目線?。


「それまでの土地の使用料はもらい、建物の使用料は払わない。 そんなこと、出来ませんよ」


家令の声は叫びのようだった。


「相殺すればよかろう」


当日までの土地の使用料と会場の使用料を同額にしろという話らしい。


せこいな。




「分かりました、いいでしょう」


僕は仮契約書を取り下げる。


家令が血の気を失った青い顔になった。


金庫番はすでに諦めの表情だ。


「契約書は作り直します。 明日の朝、もう一度話し合いの時間を設けてくださいね」


そう言って僕は立ち上がる。


「分かった」


大旦那のドヤ顔は呆れるしかない。


やはり、この領地には縁がなかったということだ。


一応、明日の朝まで待ってみるが、最悪、闘技場は分解してオサラバだ。




 廊下に出ると、家令と金庫番の文官が追いかけて来た。


「アタト様、申し訳ありません。 朝までには必ず説得しますので」


2人は低く頭を下げる。


うん、こっちが申し訳なくなるから止めてほしい。


 僕は2人を包んで盗聴避けの結界を張る。


この館の者たちには聞かれたくない。


「正直、僕は期待していません」


大旦那は自分の考えを撤回する気はないだろう。


だから、代替え案を出す。


「あなた方さえよろしければ、この領主館を辞めて、アタト商会にいらっしゃいませんか?」


「えっ!」


僕の申し出に2人が固まる。


「あなた方は大変優秀だし、こちらの商売にも理解を示してくださっている。 僕としては、あの闘技場をこの領地から切り離して運営してもいいと思っているんです」


お嬢様が喜んでくれるなら、ここでなければならない理由はない。


アタト商会でどこか他の土地を借り、お嬢様を大会の主催者にすれば良いだけだ。


すぐ隣には、僕と仲の良い元王族の領地もあるしな。




「あの闘技場を領地の外に移すと?」


家令がゴクリと唾を呑み、目を見張る。


「ええ。 将来はアタト商会で運営してもいいかと」


まだまだ空想の話で、実際には明日の朝までにお互い、もっと考える必要はあるが。


「ではまた明日」


僕は結界を解き、唖然とする2人を廊下に残したまま立ち去った。


 部屋に戻るとキランが不機嫌に言う。


「アタト様。 あんな風に大人を揶揄からかうものではありませんよ」


そりゃ、すんませんね。


僕が本気ではないと分かったんだろう。


彼らだって忠誠心は本物だし、簡単には領主を見放したりはしない。


そんなことは分かっている。


「だが、物理的に首が飛ぶよりマシだろ」


優秀な人材が不遇な目に遭っているのを見るのは偲びない。


出来るなら報われる仕事をさせてあげたいじゃないか。


「気持ちは分かりますが」


キランも顔を顰めている。




『夕食の準備が出来ました』


モリヒトが館の厨房から料理を運んで来たようだ。


「ありがとう、皆を呼んでくれ」


僕の関係者と部屋で食事にする。


ベラとデイジー、ウィウィとバムくん、ゼイフル司書も呼んでいた。


モリヒトに給仕を任せ、キランにも座ってもらう。


次の移動の話をしながらの夕食である。


「明日の午後には出発する予定です」


皆、特に問題はないようで頷いている。


「教会の警備隊にもすぐに伝えておきます」


僕はゼイフル司書に頷き、そちらは任せた。


最初から、あまり長居はしないと伝えているので、いつでも出発出来るように準備はしているらしい。




「あの、剣術大会はいつなんですかー?」


ウィウィが訊ねる。


期待で目が輝いていた。


「さあ、分からないけど、夏くらいじゃないかな」


と、僕は答える。


決めるのは領主だ。


今はまだ春になったばかりだし、まだまだ準備には時間がかかる。


「その頃にはまた見学に来ますか?」


ウィウィは闘技場のような大規模な建物の魔道具が動くのを見たいらしい。


昨夜は寝てしまってたからな。


「いや。 あれには大きな魔道具は使われていないぞ」


「そうなんですか?」


ウィウィが目をパチクリさせた。


御手洗や店舗の水回り、炊事場などは魔道具を持ち込むことになる。


だが、大会に関してはほぼ無い。


「モリヒトの精霊魔法で結界は運用している」


大地の精霊の力は強大なのだ。



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