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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第六百十七話・交渉の席にいない者


 夜中の作業だったので、翌朝はのんびりと過ごしていた。


昼近くになってキランがコーヒーと軽食を運んで来る。


「街中では噂が飛び交って、かなり賑わっていますよ」


警備隊や領主館にも問い合わせが殺到しているらしい。


「多くは『剣術大会はいつ?』だそうです」


それについては大旦那にお任せだ。


僕は知らん。


キランのそんな話を聞きながら、甘めのコーヒーを啜る。




 街の郊外に突然、現れた闘技場。


今回は2度目とはいえ、やはり住民を驚かせてしまったようだ。


申し訳ない。


『アタト様は、思いついたらすぐ行動される方ですからね』


モリヒトは被害者ぶるけど、だいたい実行者はお前じゃないか。


『私の場合は、主の要望に応えているだけでございます』


チッ。 悔しいけど反論出来ない。




 闘技場は、基本的に剣術大会までは封鎖状態になる。


こちらとしては、日程が決まったら商会に連絡をもらい、開店準備に入る予定だ。


それまでは普通は誰も入れないが、要望があれば見学は可能とした。


開閉するための魔力は筋肉眼鏡テュコトに登録させ、管理を任せる。


いちいち僕たちが来るのも邪魔臭いし。


入れる場所を制限しておけば、ノームたちの作業の邪魔にはならないだろう。


 さっそく、お嬢様はうちの少女2人組と護衛を引き連れて見学に行ったらしい。


彼女たちが戻って来たら、次の領地への移動の相談をしなきゃならん。




 部屋で寛いでいたら、軽く扉が叩かれた。


モリヒトが頷き、キランが扉に近寄る。


「どちら様でしょうか」


「申し訳ございません、アタト様。 少しお時間を頂けませんでしょうか」


領主家の優秀な家令だった。


「構いませんよ、どうぞ」


僕が声を掛け、キランが扉を開く。


「ありがとうございます」


家令は恭しく礼を取り、金庫番の文官と共に入って来た。




 どうやら闘技場に関する取り決めをしたいらしい。


「御領主様は?」


そういう交渉は領主である大旦那の仕事だと思うんだが。


「はい、そのぉ、細かいことは私に任せると仰っておりまして」


早めに交渉したほうが良いと進言したのだが、お嬢様と一緒に見学に出掛けてしまったそうだ。


 はあ。


僕はつい、ため息が出た。


確かに金額やら期間やら、細かいところは文官でもいいだろう。


ただ、最初に「こうしよう」と交渉を始めるのは責任者ではないのか。


せめて顔ぐらい出せよ。


結局、今回は事前の話し合いだけで仮契約に留めることにした。




 食器を片付け、家令と文官の二人には食卓用テーブルの向かい側に座ってもらう。


「キラン、素案は出来てるか?」


「はい。 こちらに」


昨夜、ドワーフのお婆様からも言われていたので、キランには作成を頼んでおいた。


その書類に目を通し、家令の前に置く。


「土地の使用許可は頂きましたので、 土地の年間の使用料はこの程度の金額を支払う予定です」


しかし、建物自体はこちらの所有物である。


「大会時の使用料については、1日でこれだけ、そちらに支払っていただきます」


2日間の開催なら倍ということだ。


 家令と文官は紙を覗き込み、顔を見合わせる。


「店の売り上げに関しては、この街での調査がまだでして。 この領地では通常どのくらいを徴収されていますか?」


辺境の町では店の大きさで組合費が変わるが、他の街では売り上げに関係すると聞く。


「こちらをどうぞ」


金庫番が恐る恐る書類を差し出す。


僕はそれに目を通し、頷く。


「承知いたしました」


おおむね妥当な線である。


これで仮契約とした。




 僕は、一年分の建物と土地の使用料は、ほぼ同じになるようにした。


高いか安いかは別にして、領主としては悪い話ではないだろう。


建物があるだけでも見物人など集客に利用出来るはずだ。


 僕としても闘技場自体で儲ける気はない。


勝手に造ったものだからな。


もし、他のことで使いたいなら、その時は要相談。


内容によるが、剣術大会みたいに強固な防御結界が必要でないなら、使用料は安くしてもいいと思っている。




 こちらの利益は、食堂と土産物店の売り上げのみ。


うちの商会の場合は輸送料が掛からない分、価格は十分地元と張り合えるだろう。


農産物も、この領地で調達可能なものを使ってもいい。


『異世界関係者』の農地に関しては、農作物が出荷出来るようになるまで、まだしばらく時間がかかる。


少なくとも今年の大会には間に合わない。


現地調達で済ませよう。


「さすがアタト様ですね」


金庫番に褒められた。


いやいや、僕はこういう交渉はあんまり好きじゃない。


「大旦那様には、これからも良いお付き合いをして頂きたいですから」


エンディ領の隣で騒動なんか起こさないでね。


頼むから。




 僕は家令を睨む。


「……いくら仮とはいえ、決めた事を後になってひっくり返したりしませんよね?」


それだけは勘弁してほしい。


「私の命に換えましても、それは阻止いたします」


本当かな。


あの大旦那は、あまり信用出来ない。


こんなことで優秀な家令の首が飛ぶのを見るのは、僕は嫌だぞ。




 領主家の家令たちが退室し、僕は一息吐く。


「キラン、助かったよ」


ちゃんと書類が出来上がっていたので交渉も早かった。


「いえ、当たり前のことですから」


キランを褒めたが、あまり嬉しそうではない。


「私にはそれくらいしか出来ませんし」


なんか、昨夜もそんな事、言ってたな。


「あー。 アタト様にどんな秘密があっても、私は気にしませんってアレですか」


それはマジらしい。


何があっても変わらないとキランは言う。




「サンテは、そういう契約を交わしていると聞いています」


「僕に関することを口外しないというヤツな」


鑑定魔法が使えるサンテは、誰かの秘密をついうっかり見てしまう恐れがある。


僕が『異世界の記憶を持つ者』であることを、いつかは知るだろう。


「私はサンテみたいに才能がないのは仕方がないです」


生まれ持った才能はどうしようもない。


 サンテは無属性魔法と異常な魔力量を持つ。


平凡な人間であるキランには、最初からが悪い。


それが悔しくて、負けたくないのだと言う。


「それでも」


キランは付いてくる。



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