表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

613/667

第六百十三話・お嬢様の縁談と褒賞


 軽く湯浴みをして、僕とモリヒトとキランで朝食のために食堂に向かう。


大旦那に呼ばれたのでな。


他の者たちは使用人さんたちに混ざって食事を摂るそうだ。


ウィウィは起こしてやれよ。




 僕は、朝から肉をムシャムシャ食べながら、褒賞の話に食いつかれている。


脳筋って、褒賞金より二つ名とか好きそうだから、女性でも名誉称号の話は喜ぶとは思ったけど。


「ふむ。 それでは希望者が殺到するのではないか?」


大旦那は朝からノリノリだ。


 お嬢様から聞いたらしく、最初から話題は剣術大会である。


「その場合は予選を何回かに分けて行います」


今から早めに募集をして、夏の本大会前に勝ち抜き戦でもやればいい。


 赤毛のお嬢様の後ろに立つ眼鏡の脳筋文官が真面目な顔で呟く。


「観客も集まりそうですね」


あーあ、それが隠れた目的なのに、言っちゃった。




 この世界は割と男性比率が高い。


つまり、相対的に女性が少ないのである。


目立った活躍をしている女性はいるのだが、どうしても珍しいとなってしまう。


女性の大会と聞いただけで人は集まる。


湖の『修練場』みたいなものだ。


あれも「女性の神官見習いのため」というが、実際には、女性たちを見に来る観光客狙いだった。


あっちは「修行を体験するための宿」という提案をして来たが、どうなることやら。


「では、エルフ殿が『女性』に限定した意味はなんだね」


大旦那が胡乱な目を僕に向ける。


僕が人間の女性に対して、何故、そこまで執着するのかって?。


「そうですね」


食事を終え、お茶の時間になる。


「一つは、お嬢様のためにクロレンシア嬢を連れ出すことです」


女性のための剣術大会といえば、エンディや側近たちも観戦程度なら反対は出来まい。


そして、集客以外の、もう一つの意味は。




「婚活ですかね」


大旦那も筋肉眼鏡も、目をパチクリする。


「どういう意味です?」


お嬢様も首を傾げた。


「昨日、お嬢様が仰っていました。 騎士なのに、勝手に婚姻の相手を決められるのは納得いかないと」


クロレンシア嬢は元近衞騎士であり、公爵令嬢である。


幼い頃から婚約者の話題で右往左往してきた。


王族に近い血筋の高位貴族である。


一番年齢が近いエンディに決まりかけたが、平民出の側妃の子であること、自身の素行がよろしくないことを理由に父親である公爵が断った。


そして、つい1年ほど前。


第一王子が側妃にと申し込み、公爵も頷きかけたのを、僕がクロレンシア嬢の気持ちを汲んで破談に持ち込んだのだ。


その辺りは公表されていないが。


 やはり元の世界の結婚観というか、恋愛事情を知っていると、どうしてもモヤモヤする。


特に女性は、親や権力者に決められがちだ。


それが悪いとは言わないし、この世界のあるべき姿なら仕方がない。




 ま、僕の悪い癖だと思う。


自分が関わってしまった人たちくらいは、なんとか幸せになってもらいたい。


さすがに結婚した後のゴタゴタまでは御免被る。


自分たちで何とかできるものは自分たちでやれ。


彼女たちが出来ない部分に手を貸す。


それだけだ。




「例えば、お嬢様は来年成人されますが、婚約者はお決まりですか?」


「ま、まだ早いだろ!」


大旦那が慌てている。


しかし、次期領主である未婚女性には縁談が殺到しているはずだ。


「領主教育も淑女教育も足りない、赤毛の未成年の娘。 その上、母親は平民で貴族の後妻」


筋肉眼鏡が渋い顔をした。


文官である彼のところにはワンサカ届いているだろう。


碌でもない貴族からの縁談が。


「簡単に領地を乗っ取れると判断されていると思いますよ」


高位貴族でなくても、次男以下の男子が食い付きそうな縁談である。


未成年者が相手だからと、その相手さえもまだ子供かも知れない。


そうなると、必ず親や口出ししてくる縁者が増えていく。


 それでなくても、この領地は問題を起こして領主が二転三転している。


「むう」


しっかりしてくださいよ、大旦那。




 お嬢様は、まだ首を傾げていた。


「その問題と『女性』剣術大会がどう繋がるのでしょう?」


「女性にも選ぶ権利がある、ということを示したいんです」


僕の言葉にお嬢様は顔を顰めた。


「強ければいいと?」


「強さは魅力の一つです。 今回のような機会があれば、それを広く示すことが出来る」


「気に入らない縁談を断るために?」


「男性ってのは、自分よりも強い女性を敬遠しがちなんです」


特に下心のあるやからはね。


「全員ではないでしょう?」


「勿論です。 でも強いということは、そんな連中から脱落者が出るということです」


僕はニコリと微笑む。




 仕方ないな。


僕の書いた筋書きを披露しよう。


「まず、優勝はメリイジーナ様です」


間違いなく。


「そして彼女には、大旦那様から『何でも一つ望みを叶える』と仰って頂きます」


実はこの辺りは紆余曲折があって、昨日までは交渉に交渉を重ねて最後に言わせる気だった。


でも、今朝ほどメリーから聞いたので、そのまま使う。


「その望みとはなんだね?」


大旦那も早いー。


「『お嬢様の結婚相手は私が選びます』と」


「えっ」「そんな!」


驚いた皆の顔が面白い。


「あははは、そんなわけないでしょう」


僕はそう言いながら、次もたいして変わらない内容を告げる。


「『お嬢様の結婚相手はお嬢様自身に選ばせて上げてください』ですかね」


大旦那や他の側近に意見を訊くのは良いとしても、答えは自分で決める。


それだけ。




「そんなことで良いのか?」


大旦那はそれは当たり前のことだとぬかした。


「へえ?。 では、その相手が平民出で他にも女性がいる、かなり年上のハゲでも?」


求婚者にそんなヤツはいないだろうが。


あー、なくはないか。


「そんな者は認められん!」


そういうとこですよ。


「僕はね、本人同士がそれで良ければいいと思っています」


大事なのは自分で決めること。


納得し、覚悟を決めた姿は美しい。


家族のため、国や民のためだけではなく。


ひとりの人間のために。


「人生は長いです」


エルフに比べたら短いけど。


「せめて結婚する時ぐらい、お嬢様には幸せだと心から笑ってほしいんです」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ