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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第六百十二話・久しぶりの大旦那と苦情


 応接用の部屋には、僕とモリヒトだけが残った。


領主側は大旦那とお嬢様、文官と護衛を兼ねている筋肉眼鏡と優秀な家令。


辺境伯夫人の実家であるこの領地は、夫人の父親である大旦那が領主として治めている。


 そして、その隣りがエンディ領。


前領主が不始末で処分され、新たに臣籍降下しんせきこうかしたエンディに与えられた領地だ。


あの頃、好き勝手していた隣領のせいで、この領地にも少なからず影響が及んでいた。


まあ、この大旦那にも責任はあったがな。


「今回、僕は隣国ズラシアスからの戻りで、こちらの様子を見に来ただけなのですが」


僕は前回の剣術大会の後、今後も大会を続けたいなら守ってほしい条件を出した。


それがちゃんと履行されているかの確認に来ただけだ。


「それについては大丈夫です」


監視役のお嬢様が頷く。


ならば、今年も剣術大会に協力してもいいかな。




 それで、次期領主のお嬢様は何を嘆いていたのかな?。


「あ、その」


今さら恥ずかしそうに赤くなられても困るんだが。


「ふふふ。 クロレンシア嬢のことじゃよ」


代わりに大旦那が答える。


「クロレンシア嬢が今年は剣術大会には出ないと言ってきたから、機嫌が悪いんじゃ」


ああ。 それはエンディとの縁談がまとまったからだな。


 貴族の結婚は、なんやかんやで式の準備に1年近くかかるらしい。


しかもクロレンシア嬢の嫁ぎ先は元王族の領主様だし、呑気に他領の大会に出ている暇はないだろう。


「ええ、そうです。 しかもその縁談、アタト様が絡んでいらっしゃると伺いました!」


うっ、もう情報が入ってたのか。


しかし、何故、お嬢様は怒ってるんだ?。


「公爵令嬢と元王子です、なかなか良い縁組だと思いますが?」


「それはー」


何が悪いというのか。




 お嬢様が口を噤んでしまったので、その日はそこまでとなった。


僕たちは部屋に案内され、すぐに夕食、就寝となる。


先に部屋に案内されていたキランたちは男女で2部屋に分かれていた。


バムくんが、夕食時に少女たちの部屋に居たウィウィを男性部屋に引きずって行く。


そりゃ、領主館の使用人たちにしたらウィウィは女性枠だよな。


ちゃんと説明しなかったこちらも悪い。


「キラン」


「申し訳ありません、すぐにお伝えしてまいります」


かなり驚かれたみたいだが。




 皆が寝静まった頃、僕は3階にあるお嬢様の部屋を訪ねる。


勿論、部屋の扉からではなく窓から入った。


「こんばんは」


どうせ眠れない様子だった。


ずっと何か言いたそうだったからね。


「いらっしゃると思っていました」


今も僕の前で頬を膨らませている。




「だって、クロレンシア様は好きな男性がいらしたのに。 いくら貴族令嬢でもクロレンシア様は騎士です、政略結婚は酷いです」


ん?、貴族令嬢だから政略結婚なのは良くて、騎士がするのはヒドイの?。


お嬢様、なんか色々拗らせてるな。


「お嬢様は好きな男性でもいらっしゃるのですか?」


確かもう14歳。


来年には成人と同時に領主になる予定だ。


お嬢様が領主になれば大旦那は再び隠居だが、彼女が若過ぎるので影響力は残る。


そうなれば、結婚相手は大旦那が選ぶことになるよな。


知り合いの色恋が気になるのは、自分に関係してくる可能性があるからだろう。


「私のことは関係ありませんっ」


プンッと膨れて僕を威嚇する。


 あー、ズラシアスでよく見たな。


パーメラシア王女もよくこんな風に頬を膨らませていたっけ。


まるで幼子だ。




「そうですね。 では、僕から一つ提案を」


この領地の名物にするために僕が始めた剣術大会。


前回と同じなら、今年も夏の盛りに行われる。


今のところは開催予定のようで、そろそろ準備を始める気だったらしい。


それで、お嬢様の剣術の師匠であるクロレンシア嬢に、真っ先に出場を打診したのだろう。


断られたようだが。


 今回は趣向を凝らそうと思う。


「女性騎士や剣士だけを募集するのです」


「ス、ステキ」


お嬢様がもう夢見心地になっていた。


早いわー。




「前回は色々と不穏な者を炙り出すため、出場者に推薦人など条件を付けましたが、今回は女性であればヨシとします」


年齢、身分を問わない。


但し、剣術大会なので前回同様、魔法や魔道具は禁止。


純粋な剣術のみで優劣を決める。


剣術の才能がある者は限られているので、おそらくそんなに多くないとは思う。


だが、そこがいい。


「そして、クロレンシア嬢を婚約祝いとして招待するのです」


絶対気になってやって来る。


お嬢様はウンウンと何度も頷き、


「話をしてきますわ!」


と、部屋を飛び出して行ってしまった。


だからー、早いって。




 翌朝、庭に出た。


朝食前に体を解すのにちょうど良い広場がある。


「おはようございます、アタト様」


「『様』はなしで。 お久しぶり、メリー」


クロレンシア嬢の弟子のひとりで、今年13歳になるメリイジーナ。


現在はお嬢様付きの護衛をしている。


天才少女剣士メリー。


粗忽なところはあるが、僕では勝てない。


十中八九、次の剣術大会の優勝者だ。




 2人で並んで柔軟体操や素振りをする。


そのうちにキランやバムくんが参加し、ベラとデイジーが見学に来た。


ウィウィは朝は弱いらしい。


 さて、そろそろ切り上げるか。


「そうだ、メリー。 一つ訊きたいことがあるんだが」


息を整えながら訊ねる。


「なあに?」


「もし剣術大会で優秀したら、メリーなら何が欲しい?」


褒賞は金でも良いし、どこかに仕官でも良い。


騎士ではない者には『準騎士』とか、名誉称号でも良いと思う。


「そうね、私なら」


汗を大判の布で拭きながらメリーは考える。


「願いを一つだけ叶えてもらうとか、かな?」


すぐには思い付かないけどコレというものが決まったら、一回だけ願いを叶えてもらえる権利。


「ふうん」


願い事かー。


何か書面にして契約書にすればいいか。


 


 隣に居たキランがゼェゼェ言いながら、手を上げた。


「それって、ハアハア、誰に、対する、願いで、す?」


声には出ないが「まさか、アタト様にではないですよね?」と、キランがメリーを睨む。


「テヘッ」


少女剣士は「バレた」と舌を出した。



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― 新着の感想 ―
領での大会なんだから領or領主に可能なモンしろやw アタトに打診・交渉くらいまでしか出来んやろ 「学生時代から思いあってたけど気付かんとすれ違いまくってるから 後押しどころか後ろから蹴っ飛ばして関係…
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