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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第五百九十四話・婚姻の意思と報告


 本日は大広間にて、内輪だけの立食の宴である。


今回のズラシアス行きの関係者、使用人や護衛もいるが、皆をまとめて慰労する夕食となった。


その中で、僕は黙ってエンディを引っ張り、庭に出る。




 季節は確かに春が近付いている。


まだ少し寒いが、雪は溶け、緑の木々が顔を上げ始めていた。


「公爵家から承諾は?」


「渋々だが、ちゃんと承諾は頂いた。 父王からも話が来ていたと聞いたぞ」


ああ、ちゃんと援護は来ていたか。


エンディは王子時代に一度、クロレンシア嬢との間に婚約の話があった。


しかし、それは内々のうちに断られている。


「おめでとうございます」


改めてお祝いを。


「ありがとう、アタトのお蔭だな」


少し照れたように笑う。


素直なエンディを久しぶりに見た。




 貴族の婚姻は、決まってから実際の挙式まで一年ほど準備に時間が掛かるそうだ。


エンディとクロレンシア嬢の結婚式は次の冬になるな。


「クロレンシア嬢を連れて来ます。 ここを動かないで」


「あ、ああ、うん。 って、なんでレンシアを?」


「エンディ。 クロレンシア嬢に、ちゃんと自分から言いましたか?」


結婚したいと。


「いや……こういうことは、親から婚約が決まったと教えられるだけだと聞いた」


家と家との結び付き、政略結婚は本人の意思など無視される。


だとしても。


「本人に直接、言葉で伝えたほうが良いと思いますよ」


僕は庭に咲いていた椿のような赤い花を一つ手折る。


「クロレンシア嬢に」


それをエンディに渡す。


「ああ、うん」


花言葉なんて分からんが、大丈夫だろ。




 エンディを残して建物に戻ると、辺境伯夫人の護衛として、さり気なく傍に立っている女性騎士を見つける。


「失礼します」


僕はまず夫人に話し掛ける。


コソコソヒソヒソ。


「ええ、分かりましたわ。 大丈夫ですよ」


「ありがとうございます」


許可をもらう。


そしてクロレンシア嬢に向かう。


「クロレンシア様、お久しぶりです」


「アタト様。 ご無事の帰国、お慶び申し上げます」


はい、どうもと、お座なりの会話をして、礼を取る。




「そうだ。 先ほど、庭にチラリと不審者が入り込んでいるのが見えたようなー。 すみません、僕の見間違いかも知れませんが、一緒に来て確認してもらえませんか?」


ここは辺境伯邸なので、辺境伯に雇われている騎士のクロレンシア嬢は現在、仕事中。


「はい、分かりました」


他の護衛に一言声を掛けて、僕について来る。


「あのテラスから出たすぐの所です。 寒いのに、庭に人がいるのはおかしいでしょ?」


僕が連れ出したんだが。


「なるほど、人の気配がしますね。 分かりました。 アタト様はここにいてください。 外へは出ませんように」


「はい」


了解です。


僕は、警戒しながら庭へ出て行くクロレンシア嬢の背中を見送る。


エンディ、我が友よ。


健闘を祈る。




 少し時間は掛かったが、2人は無事に手を繋いで戻って来た。


赤い花は、クロレンシア嬢の髪にさり気なく挿されている。


そして辺境伯夫妻に婚約の報告。


ワッと周りからも祝いの声が上がり、夕食会は婚約祝いへと変わった。


ティモシーさんも嬉しそうに祝いの言葉を掛けている。


 僕は、そんな3人を離れた場所から見ているティファニー嬢に近寄る。


「良かったですね。 ティモシーさんが他の女性と婚約とならなくて」


エンディが覚悟を決めていなければ、あそこに並んでいたのはティモシーさんとクロレンシア嬢だったかも知れない。


「え、嘘ではなかったのですか?」


「嘘や冗談から本当になることもありますよ」


僕はニヤリと笑ってティファニー嬢を見る。




「確か、ティモシーさんには学生時代、憧れの女性がいたそうなんですが。 身分が違い過ぎて諦めたと聞いています」


「ま、まあ、そうなんですの」


モヤモヤした顔になるティファニー嬢。


しばらくの間、ピタリと護衛についていた男前の騎士が気にならないはずがない。


「平民出とはいえ、ティモシーさんの実力は教会警備隊でも有名だし、将来の隊長候補だとか。 今なら貴族家の令嬢でも望めば妻にー」




 そんな話をしていると、噂をすればなんとやら。


「楽しんでいらっしゃいますか?、ティファニー様」


「はい、ありがとうございます、ティモシーさん。 いつも言ってますが、今は王族ではありませんしティフと呼んでくださいませ」


僕はそっと2人の傍を離れる。


「それでは、コレからは友人のひとりとして。 ティフ、私のことはティシー、またはティムと呼んでくださいね」


「はい。 ではティシーと」


護衛の任務は一応、解かれている。


ティモシーさんはこれから、ティファニー嬢をヨシローとの関係のように、教会の監視対象ではあるが、友人として守って行くのだろう。


そのうち、籠絡されてしまえ。




「アタト様、長旅、お疲れ様でございました」


ニヤニヤしてたら辺境伯夫人に声を掛けられる。


「いえ。楽しかったです」


思わぬ収穫もあったし、取り引きも出来た。


農業指導者を含め、人員も確保出来たのも大きい。


色々と負担が多くなったのは仕方ないが、成功といえるだろう。


「冬ももう終わりです。 わたくし共はそろそろ自領に戻りますが。 失礼ですが、アタト様のご予定は?」


本来、このような場所でする話ではないが、僕が忙しくてなかなか捕まらないせいだな。


僕たちは場所を変えて話をすることにした。




 別室に移る。


僕と夫人の他はモリヒトと筋肉家令。


お茶を運んで来たメイドと一緒に辺境伯とキランも入って来た。


僕は夫妻が座るソファの向かい側の椅子に座り、後ろにはモリヒトとキランが立つ。


「キランから聞きました。 アタト様と正式に眷属契約を結んだと。 我々の使用人からアタト様の眷属が出るとは光栄の至りです」


え、いや、そんな大袈裟な。


とりあえず、キランは辺境伯家使用人から、正式に僕の家の使用人となる。


キランがメイドに頼んだのか、僕の前にはコーヒーが置かれた。


ありがたく頂く。


「それで辺境領地への帰還についてですが」


また荷物のみ、先にモリヒトに送ってもらいたいとの依頼だった。


ハイハイ。



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