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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第五百九十二話・女性の縁談を考える


「アタト……」


僕は無表情でエンディを見る。


この若者は分かっていない。


「人間は、いつ死ぬか分からないんです」


「あ、ああ」


「あなたが王族から抜けて、ただの貴族になった時、僕は一歩進んだと思っていました」


領主になって安定した収入も約束されたのに、まだ何を迷っているのか。


僕には分からない。




 エンディは僕から目を逸らした。


「それは、その」


「覚えていますか?。 クロレンシア嬢は父親と決別してまで騎士として生きようとした」


あの時、公爵邸で僕はクロレンシア嬢の覚悟を見ている。


あの真っ直ぐな気持ちを、健気で美しいと思った。


だから、エンディの伴侶は彼女しかいないと思っている。


「もう一度、言います。 人はいつ死ぬか。 気持ちが変わってしまうか。 誰かに拐われてしまうか。 分からないんですよ」


クロレンシア嬢が王太子の側妃になることを阻止したのは、なんのためだったのか。


「……」


エンディは黙り込む。




「あなたにその気がないなら、僕が彼女に他の男性を伴侶に勧めます」


「えっ」


と、その場にいた全員が思わず声を漏らす。


「そんな都合よく釣り合う男がいるとは思わないけど」


エンディの反論に被せ気味に答える。


「騎士ティモシーさんです」


ティファニー嬢も驚いた表情になった。


「なるほど。 教会警備隊の騎士か。 平民出だが優秀だし、腕も立つ。 彼は確か将来の隊長候補だ」


「『歌姫』の実弟であったな。 ならば義理の兄は領主貴族だ。 決して釣り合わない相手ではない」


国王と、ご隠居は乗ってくれた。




「エンディ様なら、これからいくらでも他の貴族令嬢から縁談がございましょう。 愛情など不要な政略結婚なら、お好きなだけ迷えばよろしい」


僕は笑って、立ち上がる。


 これでもまだ決心がつかないなら、もう口出しはしないよ。


ただ僕は、クロレンシア嬢だけじゃない。


エンディにも幸せになってもらいたいと本気で願っている。


年寄りの余計なお節介ですまんな。


「では、失礼します。 これから教会本部にも報告に行かねばなりませんので」


国王とご隠居に対して礼を取る。


モリヒトがティファニー嬢を促し、僕たちは部屋を出た。


後はどうとでもしてくれ。




 管理部の文官からティファニー嬢とタカシの扱いについて説明を受ける。


ヨシローと同じで教会が管理者となり、僕が身元引受責任者。


何かあれば呼び出しが来る。


「これからよろしくお願いいたします」


美しいティファニー嬢の礼に文官たちが見惚れていた。


 ようやく王宮を出る。


馬車の中でティファニー嬢が訊ねた。


「あれで良かったのですか?」


彼女は、僕がエンディを怒らせたのではと心配している。


「大丈夫ですよ、あれくらいは」


僕とエンディは、お互いに利用し合っている仲だ。


こんなことで嫌われたとしても、また利害のために手を組むことになるさ。


「必要があれば連絡が来ますから」


それでいい。




 先ほどの茶番は、エンディに縁談を勧めている父親の国王に、僕の姿勢を見せる必要があったからだ。


僕がクロレンシア嬢を推していることを知れば、他の令嬢を宛てがうようなことはしないだろう。


どうせ政略結婚なら、国王から公爵に打診してくれればいいのに。


絶対、その方が早い。


「でも、ティモシーさんは縁談を受けるでしょうか」


「あれは嘘です」


「えっ」


キョトンとするティファニー嬢に苦笑する。


ごめん。 間に受けちゃったか。


「僕みたいな子供に縁談をまとめる力はありませんよー」


「でも御遣い様ならー」


「神は、そんなことを望んでおられません」


ちょっとイタズラっぽく睨んでおいた。




 僕は、ティモシーさんは学生の頃、クロレンシア嬢を好ましく思っていたんじゃないかと思っている。


エンディと3人で、よく訓練していたそうだし。


だけど、彼女はエンディ一筋。


どうせ身分違いだからと、ティモシーさんはサッサと諦めたんだろう。


そして、その頃には留学してきた他国の美しい王女様に興味は移っていた、はずだ。




 うーん、若いっていいよね。


感情に真っ直ぐでさ。


年齢を重ねるほど考え過ぎて、素直になれなくなってしまう。


「ティファニー様も良い方が見つかるといいですね」


ニッコリと笑って彼女を見る。


「わっ、わたくしなんてっ」


ティファニー嬢は赤くなって、慌てている。


「今まで出来なかったことをやってみたいんでしょう?」


恋愛も楽しんだらいいと思うよ。


「そ、そうですわね」


やれやれ、照れてしまった。


可愛い人だ。




 教会に到着。


受付でヤマ神官に面会を申し込む。


しばらくしてティモシーさんが姿を見せた。


「こちらへどうぞ」


「珍しいですね。 ティモシーさんが案内してくださるなんて」


「あはは」


久しぶりのエテオール。


「アタトくん、お帰りなさい」


久しぶりのヤマ神官。


「お蔭様で無事に戻りました」


そして、何故か教会の中庭の聖域にいる。


「お帰り、アタトー」


エルフの巫女ソフィと、虹色の眷属精霊セスシャノ。


ヤマ神官は、僕が来たら知らせるように言われていたようだ。




 初対面であるティファニー嬢と『異世界人』タカシを紹介する。


ティファニー嬢は美しい女性エルフに見惚れ、タカシは筋肉質のエルフの姿をした精霊を見てびびっていた。


ソフィは、気に食わない者は聖域には入れないので、2人が入れたということは大丈夫なのだろう。


「僕が不在の間は何もなかったですか?」


休憩用のテーブルの椅子に座り、お茶を啜りながら訊ねる。


中庭には光が溢れ、廊下の窓から見ている参拝者たちも穏やかな表情を浮かべていた。


だいぶ巫女たちの存在に慣れたようだな。


「何もなくて退屈だったわ」


イヤイヤ、そこは平和で良かったというべきでしょう。


『なかなかに忙しかったぞ』


どうやら、王族が何人か巫女に接触しようとやって来たらしい。


セスシャノは虹蛇の姿になって威嚇しまくっていたそうで。


ヤマ神官がこっそり教えてくれた。




「虹蛇って?」


おや、タカシくんは興味があるようだ。


セスシャノは立ち上がり、中庭にある池に向かう。


虹色の鱗の大蛇にタカシが腰を抜かした。



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