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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第五百八十話・探索隊の話と助言


 マテオさんとは商会の話をする。


「頼んだ食材は入手出来そうですか?」


「ええ。 今のところはね」


含みのある言い方だ。


「何か問題が?」


フゥッとマテオさんはため息を吐く。


「アタトくんが『異世界関係者』をエテオールに連れて行ってしまったので、作っている作物が採れなくなるって話です」


ああ、それなら。


「大丈夫です。 亡命希望者には辺境地で農地を宛行あてがい、引き続き作業をしていただくことになりましたので」


春になる前に、モリヒトが王女の城の庭と空白地帯の土地を入れ替える予定である。


マテオさんには安心して、この国にある在庫を買い漁ってもらいたい。




「売り渋って高値を付けるようなものは放置でいいです。 売れなくて困るのはズラシアスの店の方ですから」


『異世界関係者』が減るということは、その食材を買う者も減る。


その食材を一番多く使うのが彼らだからだ。


「せいぜい腐らないうちに売り捌けるといいですね」


僕は気にしない。


エテオールでは、すぐに売り物にはならなくても、数年、いや、2,3年もすれば採算は取れるようになるだろう。


「なるほど。 では、うちの商会もアタト商会から仕入れるとしましょう」


お互いにニヤリと笑って商談は成立する、


「そろそろ国へ帰るんでしょ?。 ちょっと買い物に行って来ます」


マテオさんは早速、交渉に向かうようだ。


「はい、行ってらっしゃい」


僕は、宿の玄関までついて行き、マテオさんと別れた。




 モリヒトを連れて、そのまま公園に向かう。


入り口横に迷宮対策本部と看板が出ていた。


王子も王女も宮殿に戻ったようで、現在は国軍の指揮官などの控室になっている。


 その辺にいた警備の兵士を捕まえて、探索隊の天幕を教えてもらう。


「あれか」


封鎖されている公園の隅。


大小2つの天幕がある。


どうやら男女で分けたっぽいな。


入り口に立つ警備兵に繋ぎをお願いして待つ。


大きい方の天幕から隊長が出て来た。


「おお、アタト殿。 先ほどは押し掛けてしまい、申し訳ない」


「いえ、こちらこそ。 準備が間に合わなくて失礼しました」


邪魔なヤツがいたからー、とは言えない。




「こちらへ」


中に入ると、男性ばかり5人が寝泊まりしている。


こちらの世界の天幕は、キャンプ用テントではなく、モンゴルなどの住居用ゲルというものに近い。


設置は大変そうに見えるが、これも軍隊用魔道具の一種らしい。


パッと一瞬で作れる魔法バンザイ魔道具だ。


「お邪魔いたします」


「どうぞどうぞ」


昨夜一緒に迷宮に潜った仲なので、隊員たちには気軽に話し掛けられた。


隊員以外にも若い兵士の世話係がいて、簡易テーブルに案内され、お茶を出してくれる。


「皆さん、昨夜はありがとうございました」


改めて礼を言う。


「お休みのところ申し訳ありませんが、少しお話を聞かせていただきたく思いまして」


モリヒトに用意してもらった手土産の煎餅を出す。


彼らも好きなようで、次々と手が伸びた。


小さい方の天幕から女性もやって来て、話に混ざる。




 腕輪の使用感や、1階に飛ばされる時に不快感はなかったかを訊ねる。


「腕輪は締め付ける感じはあるけど、これがあるならって安心感はありました」


「気付いたら1階でした。 飛ばされた時は一瞬だったので、特に不快感はありません」


僕は年長の男性にも訊ねる。


自分で腕輪を操作した者たちと違い、この人は魔道具の危険察知により強制的に飛ばされた。


「はい。 死んだと思ったら生きていたので、本当に助かりました!。 ありがとうございます」


「いえいえ。 皆さん、ご無事で良かった。 作った甲斐があったというものです」


隊長は少し戸惑いながら僕に訊ねる。


「あの。 これ、本当にアタト殿が作ったので?」


軍の魔道具師に頼まれたかな?。


「私ひとりではありません。 材料が魔獣素材で特殊な加工が必要なので、そこはドワーフの職人の手が入っています」


「ドワーフ!。 アタトさんがエルフなのは聞いていましたが、ドワーフもいるんですね」


女性が目を輝かせた。


「すみません。 ズラシアスでは他種族は滅多にお目にかかれませんので」


隊長が代わりに謝罪する。


「いいえ、驚くのは当然です。 エテオールでもドワーフ族がいる地域は限られていますから」


きっとズラシアスでもどこかにいるような気はするけどな。




 僕はお世話になったお礼に一つ助言をする。


「皆さんは神が実在し、見守ってくださっていることはご存知だと思いますが」


この世界は王侯貴族は自分の館で、平民は教会で、熱心に神に祈る。


内容は「少しでも自分の生活が良くなるように」というのが多いらしいが、その祈りのお蔭でいつか良いことがあると信じられていた。


「それと同じように、精霊や妖精、他種族も、思ったより皆さんの身近にいますよ」


「どうやったら逢えますか!」


女性が身を乗り出し、年長の男性に押さえられている。


「皆さんは、体内に魔素を魔力に変換する機能をお持ちです。 出来るだけ清浄な魔素を取り込み、体内の魔力を清らかに保つ努力をすることです」


そうすれば、清浄な魔力を好む精霊などは機会さえあれば寄って来る。


イブさんのように。


「つ、つまり?」


皆、首を傾げる。


「例えば教会に行けば清浄な魔素に触れることが出来ます。 清廉な神官様の教えをよく守り、身も心も逞しく鍛えることで、自然と体内魔力も美しくなるかと」


日々の怒りや悲しみや、黒い思いは清浄な祈りで浄化してしまえばいい。


何故か皆さん、ポカンとしている。


「……神の御遣い様みたいだ」


誰かが呟いた。


あ。 僕、やらかした?。




「あははは。 そんなことを教会の偉い神官様から聞いたことがあるので、受け売りですが」


笑って誤魔化す。


危ない危ない。


ここにいる連中は僕が神の御遣い役をやってることを知らないんだった。


「でも、真理ですね。 望みを叶えてほしかったら、まず自分が清廉でなければ」


隊長がウンウンと頷く。


「そうですよね。 仲良くしたかったら、相手が好みそうな自分にならなきゃ、です!」


お、案外受け入れてもらえたみたいだ。



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― 新着の感想 ―
問題は国の中央の神殿は権力争い等々で清浄じゃない事が有るって事だよな~(某国を思い出しながら
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