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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第五百七十七話・闇の中の相手


「どうした、モリヒト」


僕も訳が分からない。


年長の男性が、真っ先に扉の中に入ろうとしていた女性を引っ掴んで廊下に引き戻した。


「キャッ!」


女性は尻餅をついて座り込む。


「皆!、すぐに腕輪を起動しろ!」


そう叫ぶと、男性は扉を閉じようとしたが重い扉はなかなか閉まらない。


そのうちに、「ワッ!」と声を上げた途端に男性の姿が消える。


それを見た仲間たちは危険を感じて次々に脱出して行った。


無事かどうかは1階に戻らないと分からない。




 モリヒトは、僕を守るように扉の前に立つ。


「あなたも腕輪を起動して戻りなさい」


僕は、ガタガタと震えている女性に声を掛ける。


あとはこの女性だけだ。


「い、嫌です。 少なくとも何が居るのか、た、確かめないと」


気丈に立ち上がる。


「分かりました。 では、絶対に僕の傍を離れないようにしてください」


コクコクと頷く彼女の足は震えていた。


 モリヒトの様子を見る限り、珍しく余裕はなさそうだ。


僕は、気配が薄くなる効果付き黒狸の外套を脱いで彼女に掛ける。


少し丈が足りないが、何も無いよりはマシだろう。


その上で、彼女に防御結界を張った。




「モリヒト、入れるか?」


僕も何があったのか知りたい。


振り向いたモリヒトの顔には嫌悪が浮かんでいる。


そんなに嫌な相手なのか。


「モリヒトが嫌がる相手……」


精霊以上の存在、まさか。


僕はゆっくりと扉に向かって歩き出す。


女性が僕に引っ付いているせいで引き摺る形になっているが、それも気にならない。


 モリヒトの横を抜けて、部屋の中へ。


『アタト様!』


止めようとするモリヒトの声を無視する。


『入ってはいけません。 これは忠告です!』


「モリヒト、その女性を守れ」


命令だ。


僕は、引き止めるモリヒトの腕に女性を押し付け、中に入った。




 ここにも明かりの鉱石はあるはずなのに真っ暗闇だ。


モリヒトが女性を連れたまま僕を追って中に入り、扉を閉めた。


僕とモリヒトなら闇の中でも問題はないが、女性は声も出せずに、黙ってモリヒトにくっ付いている。


部屋の中には確かに何かの気配はあるが、じっと動かない。


 やがて、闇に真っ赤な2つの目が浮かぶ。


僕はそれに向かって片膝を折り、礼を取る。


「アタトと申します」


返答はない。


「この世界にいらっしゃる神様の1柱とお見受けいたします」


グウともグワッとも聞こえる、声のようなものがした。


僕の背後、モリヒトからも同じような声音がしたが、それが何かは分からない。


『フフフ、そうか。 の言葉は通じないか。 これで良いかな?』


僕は下げていた顔を上げ、闇に浮かぶ赤い目を見る。


重く、空気を震わせるような男性らしい声だが、男性とは限らない。




 僕とモリヒトの目には、闇の中にたいそう立派な羽を広げたからすが視える。


広い部屋いっぱいの巨体は窮屈そうだ。


「このような場所に顕現して頂きましたこと、誠に光栄でございます。 私のような者に何か御用でしょうか」


『なに、少し様子を見に来ただけよ。 大地の精霊が何やら創っていると聞いたのでな』


エテオールの教会で見た虹蛇のようなものだ。


烏のくちばしは動かない。


違うところから声を響かせている。


『それに神の御遣いとやらが、たいそうな働きをしているようであるし』


カカカッと笑い声が響く。


「とんでもございません。 弱小者にて、知れた程度でございます」


僕は、畏れ多いとさらに頭を下げた。


モリヒトは黙って様子を伺っている。




 この魔鳥姿の神らしきモノが、何がしたいのか分からない。


攻撃の気配はない。


先ほど人間の若者が消えたのは、威圧に耐えられず生命の危機を感じたために腕輪が反応したようだ。


僕は言葉を探し過ぎて無言になってしまう。


だって、神様相手に何を喋ればいいんだよ。


『恐れながら』


モリヒトが助けてくれるみたいだ。


『アタト様はまだ未熟故、私が全責任をー』


え、それは違うだろ。


「いえ、モリヒトは私の命令で動いているにすぎません。 責任は私が、えーっと、何か拙いことがございましたか?」


首を傾げてみる。


まあ、色々と思い付くけど、神の御遣いなんて名乗っていること自体が拙いに決まってるしな。


『そうか、分からぬか』


「はい」


しらばっくれてもダメだろうな。


なんといっても相手は神なんだから。




『余はお前に感謝しておるのだ』


「へ?」


部屋の闇が消えていく。


サッカーコートくらいの広さの部屋に光が溢れた。


モリヒトも呆気にとられている。


『此度のお前の働きは見事だった。 まあ、このようなモノまで創り出すとは思わなかったが。 そこは余に許可を取らなかった大地の精霊の怠りだな』


カカカと笑い声。


やはり迷宮はやり過ぎというか、話を通さなければならなかったようだ。


そこは僕も共犯なので、反省。


『しかし何故、烏の魔鳥になど』 


モリヒトが不機嫌そうに訊く。


『闇属性のそいつに合わせたつもりだが?』


魔烏とモリヒトの目が僕を見る。


 僕は咄嗟に人間の女性を探した。


属性を知られるのは拙い。


「あれ?」、いない。


『ああ。 関係のない者には外してもらった』


部屋を明るくする時に、魔烏が強制的に1階に送ったそうだ。


僕はフゥッと息を吐く。




 それなら、少し落ち着いて話がしたい。


「申し訳ございません。 実はこの場をお借りして、一つだけ伺いたいことがございまして」


実在する、この世界の神に会うことがあったら、僕は訊ねたいことがあった。


『ふむ。 一つだけなら良いぞ』


僕は呼吸を整えて、一歩、魔烏に近付く。


「僕が闇属性であることをお分かりなら、ダークエルフ族のことはどうでしょう。 行方をご存知ではありませんか?」


『ダークエルフか。 それを知ってどうするのだ』


魔烏の目が細くなる。


「僕は物心がついた時にはエルフの森に居ました。 今まで同族に出会ったことがありません」


育ててくれた老エルフの精霊魔法師が、僕のためにダークエルフ族を探す旅に出ている。


「もし居場所が分れば、爺ちゃんは戻って来てくれると思うので」


僕なんかのために苦労してほしくない。


一緒に住んで、爺孝行がしたいんだ。



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その魔鳥、三本足の鴉だったりしない?(棒
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