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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第五百七十三話・魔狼の群れと魔物


 魔狼は狼が魔獣化したものだ。


数が多いので、どうやら群れごと呑み込まれていたらしいな。


体格はあまり大きくない。


痩せ細っていたのがくっきり分かる。


「ウゴウゴ。 僕が戦っている間に、この部屋の魔素を全部取り込んでくれ」


『ワカッター』


懐から飛び出し、邪魔にならない部屋の隅に移動して行った。


ガウッガウッ グルルゥ


唸り声が反響して煩い。




 飛びかかって来るものから切り付けた。


傷が浅いのか、血を滴らせたまま立ち上がり、また襲って来る。


闇の触手は、動き回るものを捉えるのは苦手だ。


攻撃が来るのを見計らって反撃を当てるしかない。


 僕自身は防御結界のお蔭で傷一つ無いが、広い室内を駆け回る魔狼に手こずっていた。


何匹かは倒せたが、まだ残っている。


「しょうがないなぁ。 もう一度、沼に沈んでもらうか」


ここは地下1階なので元々暗い。


足元から闇を広げ、室内全てを支配下に置く。


キャウンッ ワオーン


一匹残らず闇の沼に沈める。


50階層の下、廃棄物を溜める場所に落とし終わると、すぐに闇を消した。


お互いに機動力を得意とするから、僕は魔狼との相性が悪い。


逃げ回るのに必死でなかなか攻撃出来なかった。


「ふう。 僕もまだまだ未熟だな」


今後の課題である。




 あの魔狼たちは、モリヒトが調整する前に沼地からこちらに来たのだろう。


今は10階層ごとに区切られ、他の区域へ移動することは出来ない。


1階も魔素を抑えておけば、もう魔獣が上がって来ることはなくなる。


『ご無事ですか、アタト様』


「ああ」


散らばっていた屍体や血の跡は瞬く間に消えて行く。


僕は双剣の血糊を振り落とし、鞘に収めた。


「大丈夫か?。 魔獣はもう残っていないだろうな」


モリヒトと一緒に、第一王子と護衛の兵士たちも入って来る。


何もいない室内を見まわして安堵の息を吐く。


「ええ。 魔狼の群れでしたが、ご覧の通りです。 倒した分の素材や魔石が落ちていますから気をつけてください。 今、回収しますね」


「ふむ。 それくらいは手伝おう」


魔狼の魔石はそれほど大きくはないが、首都の真ん中で、しかも一度の戦闘で手に入る分には十分な数だった。




「ヒィッ!」


回収作業をしていた兵士が叫んだ。


「何か黒いものがー」


「ま、魔物です!」


あ、ウゴウゴを忘れてた。


剣を抜いた兵士たちの間を縫って、壁際に居たウゴウゴを見つける。


「心配いりません。 これは僕の友達です」


抱き上げて、真っ黒でツヤツヤとした表面を撫でてやる。


「ほお、魔物が友達か。 見せてもらっても?」


王子が興味深そうに覗き込む。


「見るのは構いませんが、触れるのはやめたほうがよろしいかと。 コイツは魔力を吸いますので」


兵士たちは驚いて後退りした。


慣れているものには何もしないが、ウゴウゴだって知らない人は警戒する。


「魔力を?」


「はい。 今は、この空間に下から上がって来て増え過ぎた魔素を吸収してもらっていました」


王子は平気そうにウゴウゴを見ている。




 第一王子より、全員、退避の命令が下る。


魔素をたっぷり取り込んだウゴウゴは、嬉しそうに僕の腕の中で揺れている。


「この魔物は、主に魔力異常の子供の治療に使われているんです」


王子と並んで歩きながら、無害であることを強調する。


「魔物を治療に使うのか?。 それは危険ではないのか」


と、王子はたいそう驚いた。


勿論、普通の人には危険だが。


「魔力が安定しない子供の身近に常に置き、急激に魔力が増えて暴走しそうになったら吸収させるのです」


この世界は、魔力の暴走が乳幼児の死亡原因になることが多い。


「興味深いな。 もっと詳しいことを教えて頂きたい」


「あー、それはまたいずれ。 僕は、近日中には国に帰らないといけませんから」


いつまでも商会を留守には出来ない。


「ふむ、それもそうか」


しつこく勧誘しないのは脳筋らしくて好感が持てる。




 さて、夜も明けたし、腹も減った。


「まだ完成ではありませんが、今回はここまでにします」


また今夜にでも作業に来るので、門扉はしっかり閉めておいてもらう。


迷宮内から兵士たちを全員追い出した上で、モリヒトは念の為、入り口周辺に結界を張った。


「分かった。 ゆっくり休んでくれ」


魔狼の素材に関しては回収し、魔石は見本として王子に渡す。


普通の魔獣狩りで得られる魔石と違いがあるのか、調べる必要もあるだろうし。


「もらっても良いのか?」


「ええ。 この迷宮の最初の魔石です。 記念に贈らせていただきます」


「感謝する」


お互いに礼を取り、僕とモリヒトは宿の部屋へ移動結界で戻った。



 ◇ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◇



「どうだ?」


「間違いなく、ごく普通の魔石です」


「そうか。 神の御遣い様には感謝しなければならんな」


「失礼ながら。 殿下は、あのエルフを脅威とは思われないのですか?」


「脅威?。 あの方が我が国に害を為すと言うのか?」


「私共は警戒すべき者だと認識しております」


「ブワッハッハ」


「殿下?」


「考えてもみろ。 たった一晩で迷宮を創れる者が、我が国ごときを本気で滅ぼすつもりなら、それこそあっという間だ」


「そ、それは」


「精霊の力を侮ってはならん」


「はっ」


「あの方は国盗りなど興味がないのだ。 それより『異世界』の食事や魔道具に興味を示されている。 我らはそちらで恩返ししよう」


「承知いたしました!」



 ◇ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◇



 ふう、よく寝た。


昼過ぎに目が覚める。


最近、ちょっと働き過ぎだったし、昨夜は思いっ切り体を動かせた。


スッキリしてるのは、そのお蔭かな。


『アタト様、おはようございます』


「おはよう、モリヒト。 昨夜はお疲れ様」


朝の恒例行事を一通り終えて、モリヒトから朝食兼昼食をもらう。




「あれから、公園のほうはどうだ?」


『特に目立った動きは今のところありません』


そっか。


「今日は脱出の御守りの実験がしたいけど、誰かいる?」


『サンテかキランを呼びましょうか?』


あの2人はまだ王女の城にいる。


ふむ。


確か、魔獣狩りから戻った『異世界関係者』がいたはず。


実験に協力してくれないかなあー。



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― 新着の感想 ―
怒らせればモリヒトの暴走止めないからな~ 下手に敵対すると国が生き物(人間含む)の居ない荒野になるよな
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