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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第五百七十一話・迷宮の底の闇


 夕食を終えて宿に戻ると、公園の周りは兵士だらけだった。


「すごい人数だな」


警ら隊の爺さんたちの姿も見える。


宿に入ると、そこもまた大勢の人々が居た。


「何が起こるか分からないのに。 いや、何があるか分からないから集まってきたのか」


人間の好奇心は厄介だな。




 僕たちは一旦、装備を整えるために部屋へ入る。


まずはモリヒトが地下の魔素溜まりに空間を開けるために姿を光の玉に変えて、消えた。


場所を確認して、戻って来る。


後は僕を連れて再びそこへ飛ぶのだが、その前に。


何か居れば戦闘になるから武器や防具は必須だ。


「フル装備は久しぶりだなあ」


『訓練ばかりで、最近は実戦がありませんでしたから』


魔獣の革鎧と襟に黒狸の毛皮が付いたマント、長めの蛇革ブーツには防御魔法を掛けておく。


腰は愛剣の双剣、懐にはウゴウゴ。


装備完了。


 モリヒトの姿も戦闘用装備になっているが、剣ではなく長い杖を持っていた。


「それ、初めて見たかも」


僕が指差すとモリヒトはニヤリと笑う。


『地形を変える魔法を長時間使いますから、私も本気装備ですよ』


わー、モリヒトの本気かー。


ちょっと怖いかも。




 部屋の窓から、公園の入り口近くに立つ第一王子の姿が見えた。


大きな天幕を張っているから、あそこで待機するのだろう。


「挨拶ぐらいして行くか」


『はい』


次の瞬間には王子の天幕の中だった。


僕たちが武装しているせいか、護衛に立っていた兵士がギョッとする。


だが、王子は鷹揚に手招きした。


「そろそろ来ると思っていたよ、アタト殿。 これからかな」


「はい。 ご挨拶と最終的な打ち合わせに参りました」


「ふむ」


なんのために公園を封鎖しているのか、知らない兵士たちもいるのだろう。


王子は人払いした。




 僕たちは、このまま地下の魔素溜まりへ飛ぶ。


何かが地上に漏れ出てしまったら対応をお願いする。


「何があるか分かりませんから、出来るだけ兵士以外は遠ざけてください」


「分かった分かった」と脳筋王子は頷いた。


「危険だと言ってるのだが、首都の住民は魔獣を見たことのない者たちが多くてな」


まるで危機感がない、と王子は苦笑する。


僕たちが地下に潜ったら、公園の周囲を結界の魔道具で囲うそうだ。


「中は見えぬようになるし、こんな時間だ。 見物人は減るだろう」


「そうだと良いのですが」


僕としては、本当は黙って静かにやりたかった。


気が付いたら出来上がってたー、が理想だったんだが、ここは他国だしな。


絶対に安全とは言えない以上、ある程度は任せるしかない。




 もう一度、確認しよう。


「殿下、本当によろしいのですね?」


僕は首都のど真ん中に迷宮を創ることになる。


人々の生活に必要な魔石の供給のためとはいえ、危険度が増すことは間違いがない。


「うむ。 我々は安穏とした生活に慣れ過ぎた。 これも『神の試練』だと理解している」


『異世界関係者』の力や知識で発展した街。


住民たちや一部貴族たちは、何の罪もない『異世界関係者』を迫害していた。


試練か。


本当にこれから始まるんだろうな。


「ふふふ、あははは」


僕はつい笑ってしまった。


神が実在する世界らしい言葉だ。


「失礼しました」


僕は、肩を揺らしながら王子を見上げる。


「この国に幸あらんことを」


ニコリと微笑む。


本来なら、欲しいものを手に入れるためには危険が付きものだと、この世界の人々は知っているのだ。




 では、始めるか。


「行こうか、モリヒト」


『はい。 アタト様』


僕たちの姿は地上から消える。


 真っ暗な闇の中。


モリヒトの結界に包まれているのが分かる。


「我は神の慈悲に乞い願う、力を納め我を解放せよ」


耳元でシャランと耳飾りが鳴る。




 降下が止まった。


「モリヒト。 ここは迷宮にすると地下何階になる?」


『50階程度かと』


かなり深い。


だが、ここからでも地上に影響が出たくらいの魔素溜まりがあった。


僕たちは魔素溜まりの上に浮かぶ結界の箱の中にいる。


モリヒトは打ち合わせ通り、地下2階から下への階段、通路、部屋を作成し始めた。


地下1階については、地上と連結するため最後にする。




 しかし、このままでは迷宮にはならない。


不足しているものがあるからだ。


「魔獣や魔物の元になるヤツらがいないな」


『はい。 どこかから引っ張って来る必要がありますね』


「どこがいいと思う?」


『現在、魔獣狩りが行われている土地から運びましょうか?』


今、戦っている魔獣と同程度の相手ならば、迷宮に入る者たちも戦い易い。


うーん。 でもそれをやると、その土地の魔獣が極端に減って地域産業が細る。


「エテオールとズラシアスの間の空白地帯に魔獣や魔物はいなかった?」


どこからも文句が出ない場所だと、そこくらいしか思い当たらない。


モリヒトが実験場にしている地帯は徐々に魔素が増え始めているが、他の場所は荒れ地のままなのだ。


『魔獣に必要な餌が全く無いのでいませんよ』


あー、そうだった。


迷い込んだら餓死するしかないって聞いたな。


「じゃあ、その空白地帯に隣接している森からにするか」


『それは良いお考えです、アタト様』


あ?。 今、なんかモリヒトが悪い顔になった。




『アタト様の闇魔法で穴をつくり、繋げましょう』


ん?、どーゆーことかな。


『私が空白地帯の周囲に泥沼を作り、アタト様はそこに闇魔法で穴を開けるのです』


底なし沼にするんだと。


『そして、その沼に入った獣は穴を通って、この魔素溜まりに落ちます』


そして魔獣化し、迷宮の素材となる。


『魔力の強さに応じて生息出来る階層を固定すれば、いきなり強い魔獣が浅い階層に出ることはありません』


 モリヒトによれば、沼に落ちたあらゆる生物が魔素溜まりに落ちるように僕が闇の回廊を繋ぐ。


濃い魔素に耐えられない弱い個体はすぐに浅い階層に飛ばされて行くらしい。


「迷宮が魔獣だらけになるんじゃない?」


『大丈夫ですよ。 数が増えれば共喰いしますから。 それに沼に落ちるのは生物ばかりではないでしょうし』


ああ、植物も増え過ぎたら沼に沈むのか。


それなら迷い込んだ人間とか。


あ、考えちゃダメだ。



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水の階層作って魔魚引き込んでもいいな(棒
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