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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第五百六十七話・側妃の見送りと農場


 翌朝、朝食後に一行を見送る。


「お荷物は急ぐ物はそちらに、急がない物はお預かりしておき、後日別にお届けいたします」


キランとモリヒトで移動中に使用するものだけを別にして馬車に積み込んだ。


残りの荷物はモリヒトが保管庫に預かり、一行がエテオールの王宮に到着する日を見計らって移動結界で送付することにした。


 とにかくゴリグレン家からの貢ぎ物は、あまりにも多過ぎて確認だけでも大変だった。


あれはエテオールでも持て余しそうである。


「ありがとうございます、アタト様。 それでは

またお会いしましょう」


側妃様に別れの挨拶をして見送ったあと、僕はこのまま城で待機である。


キランとティモシーさんが国境の街まで同行し、帰国を確認して戻って来る予定。


昨夜、サンテがパメラ姫に呼び出されていたことは知らないふりをしておく。


何を言われているかは想像がつくからな。




 たまに、向こうに居るアダムとは連絡を取っている。


モリヒトと精霊同士の会話は魔力を使わないとかで、人族の警戒網には引っかからない。


『早く帰って来てくださいよー』


ガビーやイブさんが煩いらしい。


リザーリス大使を呼べたのもアダムのお蔭だが、もう少し静かに出来ないもんか。


日程が伸びたと連絡したら『ギャーギャー』と、さらに煩くなった。


面倒臭いヤツだな。




『異世界関係者』もかなりの数が移動したので、城の中は静かだ。


残っているのは、この国での生活が決まっている数名だが、彼らは近日中に身元引き受け人が来る。


それまではお世話になったティファニー王女の役に立ちたいと働いていた。


侍女をしていたおばさんも残っているが、


「王女殿下ではなくなっても、私はティファニー様のお役に立ちたいのです」


と、あくまでもティファニー様個人との同行を希望している。


そういう使用人が何人かいるそうだ。


人望があって羨ましい。




 マテオさんは王女に頼み込んで護衛の女性を貸してもらい、朝から2人で市場調査に出て行った。


王女は慌ただしく城内の片付けや、使用人たちの働き口の斡旋に奔走している。


倒れなきゃいいけど。


『キランに薬草茶を差し入れさせておきました』


お、気が利くね。


 僕は宮殿からの呼び出し待ちなので、のんびりと過ごしている。


部屋には僕とサンテ親子、そしてタカシくんがいた。


窓の外、雪の中に埋もれた広い畑を眺めながら、ウスラート氏はため息を吐く。


「勿体無い。 これだけの土地を放棄するしかないとは」


「誰かが後を継いでくれるのでは?」


と、僕が訊ねると彼は渋い顔をした。


「そうだといいんですが……」


ウスラート氏の農場も、引き継いだ貴族の手によって数年の間にすっかり廃れてしまっていたという。


『異世界関係者』に頼り切りだったのに、それを否定し、やり方を変えたせいだった。


 それに、ここは広大な土地だ。


「管理するとなれば、それ相応の貴族が担当するしかありませんが、そう簡単には決まりませんよ」


農場で利用していた大規模な農機具も、『異世界関係者』がいなければ動かせる者もいない。


当分は放置されるだろうと言う。


かなり優秀な者が担当したとしても、一度放置された農地は、すぐに元通りにはならないのだ。




 僕は眷属精霊の意見を聞いてみたくなった。


「モリヒトはどう思う?」


『そうですね。 私なら土の入れ替えを行います』


どこか所有者のいない土地と入れ替えれば良いと言い出す。


あー、それは良案だけど。


長い年月を掛けて作られた肥沃な土。


それを黙って他の土地と入れ替えるのは、さすがに。


「バレたら拙いだろ」


『バレなければよいのでは?』


おいおい。 精霊様の言葉とは思えないんだが。




「あ、あのー」


僕たちの会話を聞いていたウスラート氏が恐る恐る訊ねる。


「本当にそんなことが可能なのですか?」


農地の土だけの移動か?。


「勿論、出来るよ」


モリヒトは大地の精霊だからな。


「そ、それなら、私共が移住する土地に欲しいです!。 必ず、良い農場にいたします」


僕とモリヒトは顔を見合わせる。


「アタト様、例の土地に使えませんか?」


サンテがコソッと耳打ちしてくる。


辺境地の、国境の壁の向こう。


魔素が無いため放置された土地があった。


今はモリヒトが実験場として使っている。




 確かに僕も考えていた。


ウスラート氏を隠す場所として、あそこなら誰も来ないし、どの国にも属していない。


「だけど、農地以外なんにもないぞ。 そんな所で生活したいか?」


「そーですねー」


サンテも唸る。


「そんな土地があるのですか?」


逆にウスラート氏は目を輝かせた。


 あ、この人、もしかしたら農業バカなのか。


失礼。 農業については有能だが、それ以外が全てダメな人なんじゃないかな。


だから暴動の標的にされたんじゃなかろうか。


当主として、継承の箱を開けられなかった意味が分かった気がする。


ウスラート氏自身ではなく、おそらく先代か誰かが彼に子供が生まれた時点で早々に継承の箱の権利を移していたのだろう。


不幸中の幸いだったな。




「もし、そんな場所があり、土を入れ替えて頂けるのなら、私は仲間と共にそこに住みたいです」


あそこはライスを作るために作った農地だ。


ウスラート氏と『異世界関係者』たちで働いてもらうとしたら。


「悪くは無いが」


周りの国からの反応が怖いなあ。




「すごい!。 それなら俺たちの国が作れそうだ!」


タカシくんが叫んだ。


「は?」


『異世界関係者』だけの国だって?。


何を言ってるんだと呆れつつ、心のどこかで僕は何かを期待し始めていた。


 自治領とかならいけるか。


代表は誰にしよう。


アタト商会はどこまで担うのか。


またドワーフのお婆様から苦情が来そうだな。


うー。


頭の中がグルグルのゴチャゴチャになる。


「一旦、保留で」


『承知いたしました』


まずはズラシアスの問題を片付けてからだ。




 その日の夕方、国王からの使者が来た。


「明日の昼食をご一緒にどうか」


儀礼的な言葉をすっ飛ばせば、そういう内容である。


「喜んで伺います」


返事を持たせて使者を返す。


さて、準備をしようか。



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