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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第五百五十九話・大国の王家の事情


 ティファニー王女一行の到着が知らされる。


この部屋は彼女たちに明け渡すため、僕たちは退室することにした。


ゴリグレン様は司祭としての引き継ぎのため、どこかに連れ去られて行く。


いってらっしゃい。


 僕たちは一応、王女に挨拶に向かう。


ティファニー王女の傍にはティモシーさんがいた。


護衛の父娘が面白くなさそうな顔をしているから、あれからずっと一緒なんだろう。


「失礼いたします。 こちらの準備は完了いたしました」


見物人の中、僕はフードを深く被ったまま、恭しく礼をとる。


「ご苦労様でした」


王女は緊張してる声だなあ。


大丈夫なのか?、ちょっと心配になる。




 控え室に入り、座ってもらう。


王女の顔色を見たモリヒトが薬草茶を淹れ、テーブルに置く。


「そういえば、ゴリグレン様の話では陛下が宰相閣下と一緒にこちらにいらっしゃるそうですよ」


「えっ、父上様が?」


「はい」と、僕は頷く。


宮殿での騒動の影響が思ったより大きく、陛下の耳に入ったためだ。


「ほお、それで陛下自ら動かれたと?。 それは珍しいことですな」


護衛の爺さんに言わせると、陛下はあまり自分では動かず、宰相や他の側近たちに任せることが多いそうだ。


まあ、実の娘に『異世界関係』を全て丸投げしている時点で、そういう人なんだろうと予想はしていた。


「よほど部下を信頼されているのでしょうね」


僕がそう言うと、護衛の父娘は微妙な顔をする。


何か言いたげな護衛娘に話を促す。


「陛下は、国政にはあまり関心がないようです」


は?。 これだけ熱心に『異世界関係者』を集めておいて何言ってんの。


「陛下がお好きなのは魔獣や魔物の類いでな」


付き合いの長い爺さんの話では、子供の頃から魔獣の本や絵画、素材を集めることに執心していたそうだ。




 王女も頷く。


「父王様は『異世界関係者』でも特に戦闘能力の高い者を優遇し、魔獣討伐や生捕りに力を注いでおられます」


それで仕方なく王女が申し出て、その他の『異世界関係者』の保護に乗り出した。


なんじゃそりゃ。


経済効果は娘に任せて、自分は趣味の方を優先していたわけか。


「ですから、今回もこちらに来るのは認定予定の『異世界の記憶を持つ者』が騎士様だからでしょう」


認定されれば、魔獣狩りの最前線に行くことになる。


その騎士を激励し、魔獣狩りを頑張ってもらうつもりなのだろう、と王女は言う。




 国王が絡んでくるとなると、闇が深そうだな。


おそらく、鑑定結果が違うとなれば、宰相は国王のためにやったことだと言い出す。


その国王が目の前にいる。


認定されなくても、王族の護衛である近衞騎士を最前線に送るのはあり得るのだろうか。


「普通、そこまでやるか?」


「やりかねませんな」


爺さんはシラッと言うけど、国はそれを許すのか?。


もう『異世界』認定自体、意味がなくなるじゃないか。


本当に滅茶苦茶だな、この国は。




 もうすぐ午後一番の鐘が鳴る。


ようやく宮殿からの馬車が到着したという知らせがきた。


「参りましょう」


ティモシーさんが王女をエスコートしつ、陛下の出迎えに向かった。


いいのか、あれ。


教会に国境は関係ないとはいえ、相手は一国の王女様だし、専用の護衛もいるんだが。


「ティファニー様もお年頃だからなあ」


護衛を娘に任せ、爺さんはため息を吐く。


爺さんは僕たちと共に部屋に残った。




「第一王子も第二王子も優秀な方々なのだ」


長年、王族に仕える護衛の一族である爺さんも愚痴りたいらしい。


「陛下は後継の王太子を決めないまま、すでに孫も2人おられる」


「後継争いでもあるんですか?」


「いいや。 王子同士というか、お子様方は3人とも仲は良い。 王妃様がしっかり教育されているのでな」


長子の王子が王太子になることには問題がない。


ただ、国王は自分のやりたいことが出来なくなることを危惧しているそうだ。


父親を反面教師としている王子たちは優秀で、反対されるのは目に見えている。


だからって後継指名しないのは、何かあった時に国政の停滞を招くだろうに。




「ティファニー殿下のことも気にされているが、なかなか相手が決まらないのは、流石に甘やかし過ぎだろうな」


「僕は陛下が娘を溺愛していて、嫁に出さないのかと思っていました」


「そんなことはない」と首を横に振りながら、爺さんも思うところはあるようだ。


「優秀な兄弟を見て育ったせいかも知れませんな」


理想が高くなってしまったと?。


いやいや、王家や貴族の婚姻は基本的に政略結婚じゃないですか。  


王女自身が選べるわけではない。


 それでも、相手国にすれば大国の姫である。


金が無いとは言えず、それ相当の暮らしが必要だし、援助してもらうことになれば一生、国ごと頭は上がらない。


婿は優秀な兄弟と比べられることになる。


周辺国からは「喜んで」嫁に貰いたいという者がいないらしい。




 国内の高位貴族にしても、王女は『異世界関係者』の管理を任されているので、その仕事は国内にいる限りついて回る。


下手をすれば婚家の事業になるだろう。


そんな資金のある貴族がいるはずもなく、今ではその事業自体が反感を買っているのだ。


王女自身は美人だし、気立ても良い。


惚れた者がいても不思議ではないが、嫁にもらうには手を出しづらい。


国王から打診があっても尻込みする家ばかりだという。


「このままでは王女の悪評ばかりが広まり、貰い手がなくなるのぉ」


爺さんの心配は尽きないようだ。


「国王も国民も、本人も納得出来る相手ですかー」


難しいなあ。




 扉が叩かれる。


「王女殿下がアタト様をお呼びです」


神官が呼びに来た。


「はい、ただいま参ります」


さて、サッサと済ませよう。


 僕はフードを深く被り、モリヒトとサンテを連れて舞台へと上がる。


観客数もいっぱい、廊下の窓にも立ち見が並んでいた。


国王と宰相の前に進み出る。


「初めてお目にかかります。 エテオールから参りました」


深く礼を取り、そしてゆっくりとフードをはずす。


シャランと耳飾りが揺れる。


「エルフ族のアタトと申します」


モリヒトもエルフの姿に変わる。



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