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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第五百五十四話・失敗の想定と侵入


 もう一つ、大事な話がある。


「キラン」


「はい」


「僕に何かがあって合流が遅れたとしても、側妃親子だけは出国させろ」


侍従と侍女、女性近衞騎士2名を連れて逃げろと伝えておく。


移転魔法陣にさえ乗せてしまえば自国には行ける。




 キランは眉間に皺を寄せたまま食事の手を止めた。


「何かある予定なんですか?」


「おそらく、僕は『異世界関係者』のほうに付き添うことになる」


だから、側妃親子まで手が回らない気がする。


護衛の女性近衞騎士が2人付いているから大丈夫だとは思うが、キランにも警戒を頼む。


「サンテも『異世界関係者』側について来てもらうからな」


その中にサンテの父親が含まれているのを知っているので、キランも頷く。


「おそらくですが、国境の移動魔法陣の施設まではゴリグレン家から護衛が付いてくると思います」


女性近衞騎士の1人が教えてくれた。


それはありがたい。




「いつになく弱気ですね」


キランは訝しがる。


「まさか。 まだ他に何かやらかす予定でもあるんですか?」


「あー、いや」と僕は頭を掻く。


「相手は宰相とその側近だろ?。 むしろ無事に帰れる気がしない」


そう言ったらティモシーさんがスープに咽せた。


「な、なぜ、そんなことを。 あれだけしっかり計画を立てているのに」


布で口元を拭いながらティモシーさんは慌てている。


モリヒトは無表情のままだが、ボソリと呟く。


『アタト様ですから』

 

え?、どういう意味よ、ソレ。




 とにかく、何かあった場合を想定しておく必要はあるだろう。


ここは他国だし、相手は国家権力のお偉いさんなんだから。


「他人なんて、思うように動かなくて当たり前でしょう?」


「まあそうですが」


ティモシーさんは不思議そうに僕を見る。


「僕だって失敗することはありますよ」


サンテ、キラン、顔を見合わせて笑うな。


こちらの動きをどんなに調整していても、相手の出方は予想し切れない。


念には念を入れるのは必要だろ。




 いや、何を言っても言い訳だ。


ハッキリ言って、僕は今、滅茶苦茶緊張している。


頭の中をグルグルと同じ言葉が回っているんだ。


上手くいくだろうか。 上手くいくはずだ。 上手くいってくれ。


朝の神社参拝は、いつになく真剣に祈った。




 明け方近く、僕はモリヒトとサンテを連れて宮殿内へと飛ぶ。


『こちらです』


モリヒトの案内で地下を歩く。


こんなに大きく煌びやかな宮殿は初めてだが、それ以上に広くて暗い地下は初めてだ。


人影が全くない。


警備巡回や夜警は配置されていないようだ。


 暗視を持つ僕とモリヒトには無意味だが、明かりの無い廊下が続く。


「暗いのは防犯用でもあるのかね」


『はい。 罠はありますので、ご注意ください』


おや、そうなのか。


『明かりが点くと発動する罠ですね』


「それは厄介だな」


でも何だか面白そうな罠だな。


何属性の魔法だろう?。 後で調べたい。


先頭のモリヒトと僕に挟まれて、サンテは無言のままスルスルに引っ張られて歩いている。




 やがて廊下が急に広くなり、人の気配と扉が見えた。


廊下の突き当たりに厳重そうな扉があり、その向こうに人の気配がある。


だが、眠っているためか身動き一つしない。


 僕たちはまず、扉の中に移動した。


しかし、参ったな。


暗いままでは顔の確認も、話も出来ん。


せっかくサンテも連れて来たというのに。


『一旦、ここにいる全員を移動させましょう』


モリヒトが提案する。


そうか。


関係者以外は、またここに戻しゃいいか。


「では、ここにいる全員を城の倉庫へ移送しろ。 城の地下牢の20人と首謀者の貴族をここに入れてくれ」


『承知いたしました』


僕たちだけなら気付かれないが、これだけの人数の移動はどうしても宮殿の結界の一部を壊すことになる。


どうしても気付かれるので、手早く済ませなければならない。




 僕はサンテの背中に触れた。


震えているのが分かる。


「大丈夫だ。 ここは夜だから暗いだけで、空気や明かり取りの窓もある」


僕が見る限り、何か作業をさせているようで台や道具が散乱していた。


かなりの広さがあるから暗いのは夜だけで、昼間はそれなりの施設なんだと思うよ。


僕はサンテの背中を「心配ない」と撫でる。


非人道的な場所に違いはないが、ちゃんと配慮されている形跡はあった。


『では、いきます』


目を閉じる。


足元が消える感覚、雑多な人々の気配を飲み込んでモリヒトの移動用結界に包まれて飛んだ。




 目の前が明るくなる。


「アタト様」


ティモシーさんの声がして目を開く。


城の倉庫に到着したようだ。


「おおっ」


『異世界関係者』のおじさんたちの声がする。


駆け寄ろうとする彼らを止める。


「すみません、まず確認します」


真っ暗な場所から全員拐って来たため、誰が誰か分からない。


他国の者である僕には分別なんて出来ないからな。


 まず叩き起こす。


「全員、起きろ」


軽く衝撃波を浴びせると、何人かが振動で目を覚ます。


僕たちに気付くと周りを起こし始める。


「おい、おい!。 皆、起きろ!。 なんか分からんが外に出たみたいだぞ」


「あー?」「嘘だろ」「ふあっ」


ひとりふたりと動き出す。


キョロキョロとしているが、今はまだ透明な結界の箱の中である。




「あ、あの、ここは?」


中年の男性が他の者たちを守るように一歩前に出た。


汚れた金髪に睨み付ける青い目。


僕はモリヒトに頷き、サンテの変化へんげを解く。


「あ」


男性の目が見開かれた。


サンテが結界の箱に近付き、じっとその男性を見る。


「あんたがウスラート?」


世間的には数年前に処刑された貴族家の名前である。


「あ、ああ」


「そう」


サンテは目を逸らさない。




「ウスラートさん、申し訳ないが。 あんたの周りにいる連中を二つに分けて欲しい」


出していい奴と出しちゃいけないやつに。


それはこの倉庫にいる関係者にも伝えている。


知り合いがいれば申告してほしいと。


「ここにいる者は私と何年も一緒に過ごした者たちだ。 全員を救ってほしい」


ほお。


「分かった。 全員に治療と食事をお願いします」


モリヒトが結界を解き、僕はサンテを見る。


これでいいか?。


サンテは頷いた。



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