第五百五十三話・教会の真偽と『神眼』
あー、いやー。
コレ、魔力が繋がってるサンテの『鑑定』結果に反応するだけで、この紙自体にはあんまり意味はないんだよ。
ネタをバラせば簡単で。
サンテが相手を視て感じたことを魔道具が感知して、僕が描いた目が光る。
光の反応はサンテの思考に影響されるため、どう光ると『真』で、光らないのが『偽』とか決まっていない。
そもそも、サンテが完全に『鑑定』を使えるかというとアヤシイ。
だから、この『神眼』も完璧ではなく、「目が光る」程度の反応でしかしない。
「神様は何でもお見通しなのです」
ティモシーさんのドヤ顔がウザい。
でもサンテの才能や魔法属性がバレると困るので、そういうことにしておく。
僕は口を出さずに教会警備隊騎士の演説を拝聴することにした。
「『真偽』は人の心で変わります」
それが真実かどうか、ではなく、それを知っているかどうか。
つまりは、真偽を問われた者がソレを真実だと誤認していても真実であり、偽モノだと知っていれば嘘だとなる。
「しかし『神眼』は違います」
文字通り、『神の眼』で視た真実しか答えない。
「なるほど。 『異世界の記憶を持つ者』の意思が本当かどうか、神の声を聞く者に確認する必要がなくなるな」
ゴリグレン様が頷く。
「それでは」
顔色を悪くしたままのティファニー王女が呟く。
「神は、ズラシアスの認定が間違っていると知っておられるのですね」
それを御遣いによって気付かせようとしている。
王女はそう受け取った。
「確か、ズラシアス国の神の声を聞く才能持ちは『異世界人』だとか」
僕は疑問に思っていたことを訊ねる。
「その『異世界人』の意思は魔道具で確認されているのですよね?」
最初の認定で『異世界人』と確認され、保護されているはずである。
だが、その『真偽』が間違いであったら?。
「最初の確認だけで、その後、神の声を聞く彼の意思は魔道具では調べませんよね」
逆に、彼の方が『異世界関係者』の意思を神に訊ねて確認する立場である。
「ええ」
ティファニー王女は頷く。
だけど、それはおかしいと僕は思っている。
「自分自身を『異世界人』だと信じて疑わない者が、神の声を正しく聞けるのでしょうか?」
この世界をろくに知らない『異世界人』なのに?。
ティファニー王女は混乱し、頭を抱えてしまった。
「分からなくなって来たわ」
涙混じりの声に気の毒になってくる。
「だから神の御遣い様がコレを我々に下賜されたのです。 正しい教えに導くために」
ティモシーさんは優しい声で王女を慰めた。
ズラシアスは大国である。
それ故に神の教えを放置してきた。
一柱の神より、大量の民に支持された自分たちが正しいと思い込んでしまったのか。
「教会の教えを無下にしてきた、わたくしのせいですね」
王女は落ち込んで俯く。
ティモシーさんが王女にハンカチを差し出している。
えー、そうかなあ。
「ティファニー殿下のせいではないと思いますよ」
僕なんか子供の言葉では慰めにならないだろうけど。
「僕は人族の皆さんが大変信心深いのを見てきました」
本当に毎日、教会には多くの人が出入りし、祈っている。
「祈ることは悪いことではありませんし、神様もこんなに大勢に祈ってもらえるのですから悪い気はしないでしょう」
ただ。
「祈りが多過ぎて、すぐに対応出来ないとか、ではないでしょうかねぇ」
冗談ぽく言ってみる。
実際、僕はこの世界に来て「神は実在する」と教えられた。
元の世界でも信じていなかったわけじゃない。
だけど、姿を見ることも感じることも出来なかった。
この世界は、確かに魔法や神に近い精霊を日頃から見ていると、不思議なことに「これが神の力なんだなあ」と思うことはある。
エルフやドワーフはその恩恵をバッチリ受けているしな。
だが、その魔法や才能を、ほぼ使えない人間たちはどう思っただろうか。
祈っても見返りがない、と思ってしまうかも知れない。
まあいい。
教会に関しては午前中は打ち合わせ、午後から本番。
新しい被疑者が認定されるがどうかは不明だが、そこは『神眼』による正しい認定がなされるだろう。
そして僕は1枚の紙を王女に渡す。
「今、現在、魔獣狩りに遠征している若い『異世界関係者』の名簿です」
代表のおじさんに書いてもらった。
「もしも明日の認定で、今までの認定が正しく行われていなかったとなりましたら、彼らの再認定を行ってください」
全員を呼び戻すようにお願いする。
「それでは魔獣狩りの最前線が崩壊するのでは?」
ティモシーさんが顔を険しくする。
「代わりに軍を動かせばいいだけです。 『異世界関係者』でないとなると、彼らは一般人ですから」
「ああ、そうだね」
だから王族で軍を動かせる立場である王女に頼む。
「分かりました。 早めに手続きいたしましょう。 戻って来たらすぐに全員、教会で再確認させます」
「よろしくお願いいたします」
本物がいるかどうかは分からないが、少なくともそうではない者を救うことは出来るだろう。
思ったより話し合いが長引き、冬の日差しが傾き始める。
話し合いは終了。
僕たちは部屋に戻る。
改めて思う。
ティファニー王女の城に滞在出来たのは幸運だった。
王女と連絡が必ず取れるし、防御も強固。
しかも『異世界関係者』が多く滞在している。
短い期間だが、これなら僕がやりたかった事の大半を叶えられるだろう。
あまりにも上手くいき過ぎて怖いくらいだ。
モリヒトなら『神に祈ったからです』とか言いそう。
夕食はエテオール側だけ僕の部屋に集まり、帰国の打ち合わせをしながらになった。
側妃親子は別室で水入らずの夕食を摂っている。
明日は忙しいので、確認だけで早めに終わらせることにした。
明後日の朝には、ここから国境近くの移転魔法陣のある街へと移動する予定になっていた。
側妃の件は何とか決着したし、実家の魔道具店に関しては、国の問題が片付いてからじゃないと無理。
『異世界関係者』の件は、明日、宮殿から救出してからになる。
「そんなとこかな」
皆、頷いてくれた。




