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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第五百五十一話・青年騎士の疑惑について


 その後も『異世界関係者』から話を聞くことが出来た。


もれなく全員、話をしてくれたのには驚いたよ。


御守り目当てというより、やはり彼らは語りたかったんじゃないだろうか。


僕に話したところで何か変わるわけでもなく、顔も知らない他国にいる『異世界人』の土産話なんて、どこまで本当か分からないのに。


それでも、自分が覚えている間に誰かに聞いて欲しかったのかも知れない。


「皆さん、ありがとうございました」


改めて礼を言うと、皆、照れ臭そうに笑っている。




「いやいや、大した話も出来なくてすまんな」


頭を掻く代表のおじさんに改めて礼を取る。


「そんなことないです。 とても良い話が聞けました」


そして、「新しい土地」に移動する件については、ほとんどの人が乗り気だった。


この国を離れることに関して、誰も嫌だとは思っていない。


「優遇措置なんて言葉を使っちゃいるが、実質、ただの隔離だからな」


金や名誉を賜ったとしても使う暇もない。


家族に送ろうとしても、すでに連絡も取れない状態。


こんなことが嬉しい者はいないだろう。


国に対する感謝など、ないようだ。




 僕とサンテは、おじさんたちと遅くなった昼食を取った後、自室に戻る。


「アタト様、サンテ」


キランが待っていた。


「どうした?」


「ゴリグレン様と側妃様が、お話があるそうで」


まあ、そりゃあ、あるだろうさ。


「分かった。 着替えてから行くと伝えておいてくれ」


今からなら午後のお茶の時間だな。


モリヒトにケーキでも出してもらうか。




 ちょうどティファニー王女も戻って来て、庭でのお茶会になった。


王女、ゴリグレン様、側妃の囲むテーブルに座らされる。


なんだか居心地が悪い。


ティモシーさんはティファニー王女の後ろに護衛として立つ。


僕の後ろには当然、モリヒトがいて、その隣にサンテがいた。


 冬の庭は寒いはずなのに、防御結界のお蔭で暖かい。


足元に温風を感じるのは『異世界関係者』の魔道具だろう。


低く畑に積もった雪はキラキラと輝いていた。


ついでに、モリヒトのケーキを見るティファニー王女の目もキラキラしていたので、後で文句を言いそうなパメラ姫の部屋にも届けさせる。




「それでは、明日の午後に『異世界の記憶を持つ者』の儀式があるのだね?」


「はい」


ゴリグレン様の質問に、王女の傍に控えたティモシーさんが答える。


魔道具を使い、本物の『異世界の記憶を持つ者』であることを確認する儀式だ。


エテオールなら、ついでに本人がどの程度の保護を求めているのかも確認するのだが、この国では関係がない。


『異世界の記憶を持つ者』であることさえ分かれば、その時点で隔離が決定するからだ。


「今回の被疑者が誰か、ゴリグレン殿はご存知でいらっしゃいますか?」


「いや、私は聞いておらぬが」


ゴリグレン様はあまり興味がなさそうだ。




 被疑者、ねえ。


まるで犯罪者のように言われているが、要は『異世界の記憶を持つ者』では、と疑われている者のことだ。


「アタト様は以前、彼らのことを逃がすことは容易いと仰っていましたね」


おや。 王女は覚えていたようだ。


「ええ。 多少、乱暴にはなりますけど」


「……今回、疑われて捕らわれているのは顔見知りの近衞騎士なのです」




 若いが、国王付きの近衞騎士隊の中でも実力がありる青年。


ただ、惜しいことに平民出であり、後ろ盾はリザーリス大使の婚約者のいる高位貴族家である。


「確か、『異世界関係者』の若者は魔獣狩りの最前線にいるとか」


僕の言葉に王女は頷く。


「今、この国では魔石が不足しています。 特に首都の貴族家で」


地方へいくと魔石はそれほど不足していない。


では何故、首都で不足するのかといえば『異世界関係』の魔道具の量の違いだ。


便利な魔道具の多くはかなり高価なため、主に首都の裕福な貴族家で使用されている。


それに必要な魔石を供給するのは、魔獣狩りの最前線。


そして、魔石を集めるために駆り出される戦力は『異世界関係者』だけとは限らない。


ティファニー王女は、悔しそうに膝の上の手をグッと握り込んだ。




 ゴリグレン様はなんだか唸っている。


「これはどういうことなのですか、殿下」


今頃になって、おかしいと気付いたらしい。


彼はある意味、怠惰な高位貴族だった。


下々のことは自分たちには関係がないと高を括っていたのだ。


 しかし、ここに来て近衞騎士が『異世界関係者』だとする疑惑。


「そんなことはあり得ません」


騎士になるには厳しい鍛錬と試験がある。


子供ならまだしも、成人、しかも近衞騎士にまでなった者が、今さら『異世界関係者』だと判明することなどあるはずがない。


「何でも、常人ではない恐ろしいほどの強さが『異世界人』ではないかと疑われたそうです」


今まで『異世界関係者』であることを隠していたのではないかという疑惑。


情報を持って来た王女の護衛の話では、騎士の後ろ盾である例の高位貴族が言い出したのだという。


「そんなことが罷り通れば、これからは何でもありになるぞ」


ゴリグレン様は呆れたように呟く。


平民出だけでなく、下位貴族、いや、どんな者でも国から疑惑をかけられることになる。




 カチャンと音を立てて、カップをテーブルに戻す。


「その騎士様は絶対に『あり得ない』ということで、間違いないですか?」


僕の声に一瞬、皆がポカンとする。


そして、僕は確認するように王女をじっと見た。


「勿論です」


王女もゴリグレン様もウンウンと頷く。


「分かりました」


僕はテーブルの顔ぶれを見回す。


「では、これから話すことは、他には漏らさぬようにお願いします」


たとえ、全てが終わった後でも、ここにいる者だけの秘密にしてもらいたい。


モリヒトが魔法契約書をテーブルに置き、全員に見せる。


「話しをする前に署名をお願いします」


違反者には、自身に多少の不幸が降りかかる内容になっている。


訝しげに僕を横目で見ながら、それでも皆、名前を書き魔力を付与する。


藁にも縋りたいという心境なのだろう。


「ありがとうございます。 では作戦の説明をいたします」



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