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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第五十五話・王子の周りを観察


 話し合いの日になった。


結局、トスの魔力制御は間に合わず、ガビーとお留守番である。


タヌ子はワルワさんに頼まれていたので、検診に連れて行く。


 忘れないうちに、トスの手紙も干し魚と一緒にワルワさんに託す。


しかし、ワルワさんが僕を「エルフではなく魔物が変身している姿だ」と王子に説明したと聞いた時は笑った。


腹の底から笑ってしまった。


「それでいいです。 僕がエルフの村を追い出されたのは、そういうことなんでしょう。 あははは!」


きっと僕はエルフではないんだ。


何だか納得したよ。




 昼食の忙しい時間帯が終わったころを見計らい、喫茶店は閉店の看板を出す。


その後は従業員も最低限にして、人の目を避けるため、窓にカーテンをお願いしてある。


「行きますか」


『はい』


僕とモリヒトは、今回は午前中に町に到着し、軽く打ち合わせを済ませてからやって来た。


裏口から入り、ティモシーさんと合流。

 

声を潜めて会話をする。


「ご領主は?」


立ち会いをお願いしていた。


「実は体調を崩されたそうで、代わりにケイトリン嬢が」


ティモシーさんが顎でクイッと指し示す。


いつもの中二階のテーブルに領主の娘と、何故かヨシローが座っている。


 王子たちは遅れて来るはずだ。


それが普通らしい。


まあ、いくら私的な会合とはいえ、相手は王族。


王族より遅く来た、なんてことになると不敬罪だと罰せられるかも知れない。


だからこそ、身分の高い者ほど遅れて来るという話だ。




「こんにちは、お久しぶりです」


フードを被った僕たちは令嬢に挨拶をする。


「アタト様、ごきげんよう」


ケイトリン嬢は慌てて立ち上がって礼を取る。


僕は、そのケイトリン嬢の隣にティモシーさんを座らせた。


その上でヨシローに話し掛ける。


「少しよろしいですか?」


「あ、うん」


僕はヨシローを連れて一階に下りる。


店員がお茶を淹れる場所まで移動した。




 一階にはテーブルが10席ほどあり、王子の護衛らしい風体の男たちが既に座っていた。


「ヨシローさんは、こちらで接客していてくれませんか?」


「へ?、いや、俺はティモシーの友人としてー」


僕はわざと店内を見回す。


「王都から王子の取り巻きも来ます。


商人や貴族もいるでしょう。


ヨシローさんには、ここで情報収集をお願いしたいのです」


王都から来る客に対して田舎育ちの店員では分が悪い。


下手すると、こちらの情報が流出するおそれがあった。


出来るなら少しでも阻止したい。


 エルフである僕は多少、可愛らしい顔をしている自覚はある。


上目遣いというのを一度やってみたかった。


他からは見えない位置で、フードから少しだけ顔を出して見上げる。


「え、あ、アタトくん?。 わ、わか、分かったから」


顔を赤くしたヨシローがカクカクと頷いた。




 視線を感じる。


「モリヒト」


『はい』


僕もモリヒトも、そちらを見ない。


 すぐに店の外に大勢の気配がした。


どうやら王子様御一行のお出ましだな。


扉を開けたのは従者か。


数名の取り巻きと共に、派手な服装の若者が入って来た。 既に中に居た男たちと顔を見合わせて頷く。


誰も一見して分かるような、兵士らしい装備は身に付けていない。


ふむ。 一応、仰々しくならないように気は使っているのか。


残念ながら、あまりその気遣いは成功していないようだ。


胡散臭い者たちが増えただけに見えて、僕はため息を吐く。




「殿下、お久しぶりでございます」


ティモシーさんが立ち上がり、迎えに出る。


僕は全体の様子を見るため中二階の壁際に寄り、気配を消す。


「久しいな。 もっとも、我は五日前にはこの町に着いていたが」


濃い金髪に赤に近い茶色の目をした、顔まで派手な若者がティモシーさんに嫌味ったらしく応えた。


背丈はティモシーさんよりやや低め、筋肉質な身体付きをしている。


どうやらアレがエリなんとか王子か。


「エンデリゲン殿下、教会警備隊が忙しいのはご存知でしょう?。


やっと手が空きましたので、今日は騎士学校時代の友人として、ここにお招きいたしました」


「そうか。 まあいい。 我はお前に会いたかったぞ」

 

「はっ、ありがたく存じます」


ようやく挨拶が終わり、席へと案内して、ケイトリン嬢の同席の許可をお願いする。

 

立ち上がっていたケイトリン嬢が美しい仕草で挨拶し、同席を許された。




 そして、ティモシーさんが僕たちを呼ぶ。


「この町で友人になりましたアタトくんとモリヒトさんです。


是非、殿下にご紹介したいと思いまして」


店員が大きめのティーポットと人数分の茶器のセットを運んで来て下がる。


後は王子の従者が淹れるのだろう。


 ティモシーさん、ケイトリン嬢、向かいの席に王子。


王子の椅子の後ろに、従者らしき若者と護衛らしき壮年の男性が立った。


ローブ姿の僕たちに威圧を向けている。


まあ、当然だね。


 後の同行者は階下に設けられた席に座り、ヨシローが接客していた。


誰でも皆友達のヨシローだから多少馴れ馴れしいだろうが、異世界人であることは知られているから、無体なことはされないはずだ。


ヨシローから情報を得ようとしても、基本的にこちらの世界のことに疎いから、どこまで正確か判別出来ないだろうな。


一階のテーブル席に並んだ顔が困っている。


 商人ぽい者は、おそらく魔道具店の脳筋店主の身内だろう。


顔が良く似ていた。


貴族ぽい若者も何人かいるが、彼らは王子の取り巻きだな。


あまり頭が良さそうには見えない。


大丈夫か?、この国は。 心配になるぞ。




「これで全員揃いましたか?」


僕はティモシーさんを見上げて訊ねる。


「ああ、そうだね」


ティモシーさんが頷くと、モリヒトが小さく呟いて結界魔法を発動した。


 完全に視界を遮るものではなく、ぼんやりと内外の動きが分かる半透明ぽい壁になっている。


その状態になって初めて、僕とモリヒトは足元まであるフード付きローブを脱ぐ。


「初めまして、殿下。 アタトです。 これは私の眷属精霊のモリヒト。


エルフに見えますが精霊が変身している姿です」


僕は王子の顔を見てニコリと笑い、モリヒトは無表情のまま立っていた。



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