第五百四十八話・騒動の後始末と料理
「アタト様、ご無事ですか」
サンテが使用人の1人を引き摺って来る。
「パメラ姫を人質にしようとしたので」
グッタリとした男はスルスルに巻き付かれていた。
サンテはその使用人を貴族の男性の隣にドサリと下ろした。
「お、そか」
おい、早くスルスルをしまえ。
パメラ姫に見せてないだろうな?。
シラッとスルスルがサンテの服の中に潜り込んでいく。
スライム型魔物のスルスルは、サンテの魔法属性が無属性であるため透明である。
見つかりにくくて羨ましい。
闇属性の僕のウゴウゴは真っ黒だ。
どこの影にでも潜むことが出来て、優秀だけどね。
僕の魔力とモリヒトの影響か、かなり移動範囲が広くなっている。
ヨシヨシ。 偉いぞ、ウゴウゴ。
襲って来た暴漢たちは全部で20人。
パメラ姫の所に5人。
女性騎士とサンテが倒した。
僕たちの居た客用応接室に入っていたのも5人。
ティモシーさんと僕で倒したが、マテオさんは隠れていた。
無理するより、身を守っていてくれた方が助かる。
キランと『異世界関係者』の所には10人ほど集まって来たので、ウゴウゴを発動させた。
先にウゴウゴをキランに預けてあったので、すぐに対応出来て良かった。
キランには『異世界関係者』の防御に徹してもらったので怪我人はいない。
「こっちは全部ウゴウゴがやったんですか?」
サンテは、折り重なって倒れている暴漢たちを指差す。
「ああ」
「やっぱり、ウゴウゴはすごいなあ」
あのな、そういうことを競ってたわけじゃないから。
僕はティファニー王女に訊ねる。
「殿下。 この者たちはどうなさいますか?」
魔力を搾り取ったので、コイツらはしばらく動けない。
「突き出すなら宮殿の国軍に、でしょうか」
高位貴族は国王の率いる軍でなければ捕えられない。
街の警備兵など平民では、逆に無礼者扱いされてしまうこともある。
「ふむ」
今、軍に動いてもらうのは拙い気がするな。
それにこの男性、確かリザーリス大使の婚約者なんだろ?。
「引き渡すのは、もう少し待ってもらえませんか?」
「わたくしは構いませんが」
ティファニー王女は頷いてくれた。
城の内部のことは外にはまだ漏れていない。
人の口に戸は立てられなくても、噂が広まるにはもう少し時間が掛かるはずだ。
一旦、捕えた者たちを牢に入れる。
さすが王族の別邸だけあって、地下に牢まで設えられていた。
準備が良いな。
僕は再び、食堂に全員を集める。
「今回、怪我人もいないようなので、しばらくの間、他言しないようにお願いします」
使用人の中に顔が見えない者がいたら、それは地下牢にいる者たちのお仲間である。
顔見知りの中に裏切り者がいるかも知れないと言うと、皆、静かになった。
もし、まだ仲間がいるとしても、2,3日は様子見で身動きが取れないだろう。
「それと、コレなんですが」
侍女にカリーの材料を書いた紙を見せる。
「街の飲食店でカリーという料理を食べて来ました。 とても美味しかったので材料の一覧をもらってきたのですが、作ってもらえますか?」
どれどれ、と調理関係の女性たちが顔を付き合わせる。
「これ、カレーよね」「間違いないわ」
ウンウンと頷き合う。
「ありがとう、アタト様。 実はカレーのレシピはだいぶ前に、ある貴族家の専属料理人に隠蔽されてしまったんです」
『異世界関係者』の料理人によると、カレーは現在は作ってはいけない料理だという。
適当に作ると「偽物を作った」と言われて迫害を受けた者もいたらしい。
隠しても、あの独特の匂いで嗅ぎ付けられるそうだ。
そのため長い間、誰も作れない状態になっている。
じゃあ、あの店はその貴族が経営する店だったのかも知れないな。
「こうして店から情報を流してくれたんだから、大手を振ってカレーが作れるよ」
『異世界関係者』の皆さんに喜んでもらえたようで、良かった良かった。
夕食はそのまま食堂で全員で摂ることになる。
「わたくしも珍しい料理が食べてみたいです!」
と、ティファニー王女とパメラ姫が希望したからだ。
『異世界』料理担当が「餃子なら冷凍してある」と言うので、餃子づくしになった。
水餃子に焼き餃子、揚げ餃子も美味い。
「美味ひいでふわ!」
パメラ姫、食べながら喋らないで。
「こういう料理は宮廷ではあまり出ませんの」
ティファニー王女も満足のようだ。
まあ、家庭料理だからね。
いくら『異世界関係者』の王女でも宮殿では出せないだろうな。
「とても美味しいかったです」
僕が真剣に褒めたら、冷凍餃子を少し譲ってもらうことが出来た。
辺境地に帰ってからの楽しみが増えて嬉しい。
深夜になり、今夜はティファニー王女と護衛父娘が部屋に来た。
「呼び付けて頂ければよろしいのに」
「いえ。 こんなにお世話になっておりますので、コレくらいは」
餃子を頬張っていた時とは打って変わり、真面目な様子である。
『どうぞ』
モリヒトが濃いめの煎茶を淹れてくれた。
本当にここは『異世界の知識』が豊富で助かるよ。
「それで、なんの御用でしょうか」
「『異世界の記憶を持つ者』の意思の確認の儀式の件です」
ティファニー王女の声は真夜中の静けさの中に響いた。
「ああ、早かったですね」
僕は頷く。
「あと三日しかない」と急かしたのは僕だけど、こんなに早く返事が来るとは思っていなかった。
護衛の爺さんが一歩前に出る。
「結論から申し上げますと、宰相閣下には承諾して頂きました」
へえ、もっと渋るかと思ったのに。
「詳しく聞かせてください」
モリヒトが椅子を勧めて王女が座ると、護衛はその後ろに立ち、僕は向かい側の椅子に腰掛ける。
「高位貴族である係官は、最初はかなり渋っておられましたが」
父親の言葉を引き継ぎ、娘のほうが続ける。
「宰相閣下が許可されたのです」
王女は、頷く。
「宰相はただ一言。 暴徒には気を付けるようにと」
そう言ったらしい。
なるほど。
宮殿内では、暴漢に襲わせるには難しい。
教会内なら、全て教会警備隊のせいに出来る。
「そういうことか」
僕は納得して頷いた。
後は、日程と警備かな。




