表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

543/667

第五百四十三話・大国の政策の不備


 思ったより、大国の『異世界関係者』の保護がヤバいのは分かった。


「子孫や家族まで保護されている意味が分かりました」


つまり、世間的に憧れる『異世界関係者保護』は犯罪者の逮捕と一緒だということだ。


施設で働いていても、家には帰れない上に結果を出さなければ「役立たず」と蔑まれる。


残された家族は妬みや集りから逃げることになるので、結局は一緒に保護された方が楽になる場合もあるらしい。


「じゃあ、教会は何をしているんですか?」


ティモシーさんがちょっと怒ってる。


そうだよなあ。




 国や王族によって『異世界関係の知識』が独占され、彼らが搾取されている現状を、何故、教会は放置しているのか。


「そこはわたくしにも分かりません」


ティファニー王女は目を伏せた。


僕はチラリとモリヒトを見る。


「精霊なら、何か感じるんじゃない?。 小国エテオールと大国ズラシアスの違いが」


国土や人口ではない。


人々がここまで争い、お互いに我が儘をぶつけている。


それを放置している教会について、精霊たちはどう思っているのか。


『そうですね、一つは便利になりすぎたのでしょう』


本来ならば必要のないものが生み出された。


機械、道具、食料などに『異世界の知識』が入り込んでいる。


『異世界の魔力を持たない者たちが、普段の生活をより安全に、楽にしようとした結果です』


ふうん、そういう認識なんだ。




 例えば、小麦挽きは人力、または水力により石臼を使って行われていた。


それが彼らからもたらされた器具により、魔石を動力とするものに置き換わる。


それで何が変わったのか。


大きな違いは魔石の消費量である。


「一つお聞きしますが、『異世界関係者』の皆さん。 若者はいないのですか?」


心当たりがある者はハッとして目を逸らす。


僕はティファニー王女の顔をじっと見た。


「あの、彼らは、遠方に。 魔獣の被害に遭っている方々からの要請で、助けに行きました」


「ええ、それは大切な仕事ですね」


だけど。


「便利な道具は魔石という動力が必要不可欠。 もしかしたら、魔石の供給不足が深刻なのではないですか?」


「はあ?」「えっ」


ズラシアス側は顔を顰め、エテオール側は顔を見合わせる。


だから若者たちは魔石集めという、危ない魔獣狩りに駆り出されているのではないか。




 こちらに来た時に見た『移動魔法陣』の建物群。


あれ全てに魔法陣が設置されているなら、莫大な量の魔力、そして、魔素を取り込んで魔力を生み出す魔石が必要になるはずだ。


「1人の人間が保有する魔力には限界があります。 空になれば、また十分に使えるようになるまで時間がかかる」


魔石なら、勝手にそこら辺から魔素を集めて来て魔力を作ってくれる。


だが、人間と同じで、年が経てば劣化する。


大きな魔道具を動かすためには、たくさんの人員、または常に新しい魔石が必要になるのだ。


「『異世界関係』の若者たちにどんな才能があるのか知りませんが、彼らを狩りの最前線に使っているのではないですか?」


確かに過去には『勇者』や『英雄』と呼ばれた戦いに特化した『異世界人』が居た。


魔力を効率よく使う『賢者』や強力な魔法を使う『大魔法使い』も『異世界の記憶を持つ者』には居た。


そういった『異世界関係者』の話は、各国に共通の資料として教会に納められている。


しかし、彼らは晩年どんな扱いを受けたか。


「彼らの力を過信して他国を侵略したり、強くなり過ぎた彼らを処刑した逸話。 あなた方は忘れたのですか?」


ティモシーさんの怒りは、この国の王女に向けられていた。


「わたくしも、この政策は間違っているのでは、と何度も思いました。 ですが、これを今、変えることが出来ないのです」


国民が不便な生活に戻ることも、『異世界関係者』の優遇措置を止めることも。


「どうして?」


僕は首を傾げる。


「間違っているなら直さないといけないよね」


「ですが、民から不満の声が」


「現状でも不満なんでしょ?」


貴族の屋敷を襲うくらいに。


王女は黙り込む。


人間の欲には限りがないと、僕はため息を吐く。




「あのさ。 いきなり止めなくてもいいんですよ」


少しずつ、段階を踏んで、意識を変えて行く必要があるだろう。


そこは国の偉い人たちが考えることだから、僕は手を出すつもりはない。


「僕たちに手伝えることがあるとすれば」


まず、『異世界人』と『異世界の記憶を持つ者』たちの確認の場を教会に戻すこと、かな。


「何故ですか?」


王女が訊いてくる。


「教会が抑止力になることが必要だからです」


王族と官僚で決められた『異世界関係者』が本物かどうかの見極めは、民衆には分からない。


「また近いうちに認定があるそうですが、どこでですか?。 そこには何人ほどいますか?」


「宮殿の一室です。 立ち会いはわたくしと宰相と、係官が2名ほど。 そして神の声を聞くという『異世界人』の青年です」


なるほど、それは誤魔化し放題だな。


「王女にお願いがあります。 僕たちが滞在中にその認定を見学したいと言ってる。 そのため、早急に教会広間で行うと公布してください」


王女は目を瞬く。


「あ、あの、打診ではなく公布ですの?」


僕は頷く。


「官僚側に打診すると共に、王女として教会から公布してもらうのです」


エテオールが弱いなら、エルフ族の代表という僕たちの我が儘だということにしてもいい。


精霊という、神に近い種族がいるこちらの方が神職より立場は上だ。


「わ、分かりました。 すぐに手配いいたします」


ズラシアス側がバタバタと動き出す。




 その間、エテオール側はこの城に滞在させてもらうことにした。


宿はちょっと危ないと思うのでね。


「ゴリグレン家にいるパトリシア様なら大丈夫だろう」


初恋を拗らせた高位貴族が全力で守るだろうし。


 問題はパメラ姫の祖父母の魔道具商会である。


後で様子を見に行くか。


「お祖父様の店が危ないんですの?」


「魔道具があっても使えない不満が溜まってきているのですよ」


それを煽っている連中は間違いなく反王女派だ。


王女派の商店や貴族が危ない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ