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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第五百三十八話・異世界の知識と魔道具


 そこには様々な道具が置いてあった。


「ここでは食品を冷凍保存したり、粉末にしたりする作業をしとる」


エテオール国より冬が長い大国ズラシアス。


広大な国内のどこかで毎年、水害や旱魃かんばつ飢饉ききんが起きている。


少しでも役立てようと食料品の保存に力を入れているそうだ。


「一般に普及しているものもあるぞ」


高齢の男性が見せてくれたのは、小麦から小麦粉を作る器具だ。


石臼を人力ではなく、似たような器具を動かして小麦を挽いている。


「器具というより所々に魔石を嵌め込んだ魔道具じゃな」


「動力は魔力ということですか」


「うむ。 そうなる」


「へえ、すごいやー」


僕は素直に感心する。




 小さな魔道具は個人的に作ったことはあるが、これは衣装用タンスほどの大きさ。


1人で作るのは無理だな。


他にも果物を乾燥させてドライフルーツにする器具や、かつぶし粉の製造機もある。


「これは知ってます!」


かつぶし粉にはずいぶん助けられているからな。


やはり何種類かの魚を混ぜて乾燥し、それっぽい味にしているという話だった。


「こちらには、その魚はいないらしくてねぇ」


だろうな。


魚や獣もほとんどが魔力を持っている世界。


全く同じ生物などいない。




 それは人間でも同じこと。


「皆さんは魔力をお持ちのようですが、『異世界人』ではないのですね」


『異世界人』は、体内に魔素を取り込んで魔力を作り出す器官が無いため、魔力を持たない。


「ええ、ここにいるのは皆、この世界で生まれた者たちです」


『異世界の記憶を持つ者』または、その子孫や家族で、僕と同じように、体はこの世界の仕様になっている。


「『異世界人』は確か、ひとりだけいたような」


遠慮がちな声がした。


「そうなんですね。 エテオール国にもひとりいますよ。 とても面白い男性で友人になりました」


僕が楽しそうに話すと、皆が顔を見合わせる。 




「宮殿に残った者の中に『自分は異世界人だ』と主張している若者がひとりいるのだが、あまり皆とは馴染めなくてな」


自称『異世界人』か。


まあ、この人たちには本物かどうかを確かめることは出来ないからねぇ。


 その若者は、自分は特別だと態度や言葉に出る人だったらしい。


「そうそう。 神様に会ったとか、声が聞こえるとか。 なんだか嘘くさいけど宰相様は信じてるみたいだしねえ」


ん?、神の声って。


「そういう才能がある方なんですか?」


アリーヤさんの世話をしていた高位神官さんも、神の声を聞く人だった。


「わしらにはよう分からんが、宮殿に囲われていた時に、そのような話は聞いたことがある」


『異世界人』は、元の世界の姿のままこちらに来ている。


もしかしたら、その時に神に出会っているのかも知れない。


あ、でもヨシローからはそういう話は聞いたことないな。


ヨシローの場合は忘れてるだけかも知れないが。




 作業場から倉庫に移る。


「あ、ライスですね」


米の入った袋を見つけた。


「本当によく知ってるな、坊ちゃんは」


「うちの商会で仕入れさせてもらってますから」


マテオさんが胸を張る。


「そういえば、麦から造る酒はあるのに、このライスからは酒は造らないのですか?」


僕の言葉にモリヒトがピクッと反応する。


「酒は国の許可がいるんじゃ」


ここにはないらしい。


「それって、許可があれば造れるということですか?」


僕はモリヒトの代わりに訊ねる。


「うむ、資料は残っておるよ。 時間は掛かるだろうが出来ないことはないかな」


モリヒトの目が輝く。


どんだけ楽しみなんだよ。


 発酵の技術は継承されているそうだが、あまりそういったことには国が興味を示さず、予算が降りないという。


「申し訳ありません、わたくしの力不足ですわ」


王女の権限でも無理だという。




 残念だが仕方がない。


今、この国では『異世界の記憶を持つ者』や『異世界人』に対する優遇措置について、国民の反発が大きいらしいからな。


「でも、ここは安全そうですね」


王女の別邸の城。


敷地も広いし、魔力による防御も張り巡らされている。


「どうだかなあ」


高齢の男性が唸る。


 農業支援してくれていた王女派貴族家が数年前、襲撃され、当主が処刑された事件があった。


「あれから協力してくれる貴族も減って、わしらが作った物の売れ行きも芳しくない」


国の役人が安く買い叩いていくそうだ。


「勿体無い!、うちで買いますよ」


マテオさんはそう言ってくれるが、国外に出すには関税が掛かる。


「何をするにも許可が必要な上に、世間の噂が壁になって国も渋る一方じゃ」


そっか。


アタト商会で支援したくても、国外だから難しそうだな。




「皆さん、昼食の用意が出来ましたよ」


侍女が呼びに来た。


皆、ぞろぞろと城の中心の建物に戻る。


「ティファニー殿下、お手紙が来ております」


侍女が手紙を渡しながら、僕たちをチラリと見た。


「エテオール国の王女様から面会したいと」


パメラ姫か。


僕がこっちに泊まったからだな。


「すみません、殿下。 今回、僕はパーメラシア王女の同行者として、こちらに来ているので」


あまり離れているのも拙い。


「ティファニー殿下のお邪魔になるようでしたら、僕から面会は取り下げるように伝えますよ」


「あら、私は構いません。 エンデリゲン様の妹殿下でいらっしゃるのでしょう?。 是非、お会いしたく思いますわ」


さようですか。




 そんなわけで、午後からパメラ姫がやって来た。


「ひとりだけ『異世界』の美味しい料理を食べるなんてズルいわ」


何か勘違いしてるな。


「こちらは商売ですよ」


僕もマテオさんも商会を代表して、何か取り引き出来るものがないかを見に来てるんだが。


「アタト様がいないから昨夜は大変でした」


キランがため息を吐く。


なんで?。


どうやらティモシーさんが、僕が珍しい『異世界料理』を食べていたと話したようで。


「ゴリグレン家や御祖父母様の家で頂いたのではないですか?」


パメラ姫は頬を膨らませる。


「高級な料理なのかも知れないけど、エテオールの王宮と変わらない料理ばかりよ」


はあ。


パメラ姫に気を使って好きなものを出しているんだろうに。



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