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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第五百三十七話・異世界の知識の継承


 翌日、朝食を食べていたらマテオさんがやって来た。


早過ぎ。


「いやあ、『異世界』関係者から作ったものを直接見せてもらえると聞いたら居ても立っても居られなくて」


昨夜、ティモシーさんから聞いた時は、すぐにでも来ようとして止められたそうだ。


「だから、陽が昇ってすぐに宿を出たよ」


あはは、僕より商売熱心だ。


「よろしければ、こちらで朝食をご用意いたしましょうか?」


侍女が申し出てくれた。


「ありがとうございます!。 実は空腹で困っていたところです」


良かったな、マテオさん。




 この侍女のおばさんも『異世界の記憶を持つ者』の子孫だった。


食事をしながら話を聞く。


「我が家は平民でしたが、お茶に関してだけは異様に厳しくって。 どうやら何代か前の先祖が『異世界の記憶持ち』だったようです」


それを伝統として伝えているうちに、あの家には『異世界の記憶を持つ者』がいると噂になり、国から役人が来たそうだ。


「我が家の知識がお役に立つならとお引き受けいたしましたが、私に出来ることといえば、こうして美味しいお茶をお淹れするぐらいで」


なんの事業に結び付くわけでもなく、宮殿で王女の侍女として働くようになった。


「最初は皆さん、優しくしてくださいましたが。 段々とお茶ぐらい誰でも淹れられる、と嫌がらせされるようになりました」


そんな風に集められた『異世界の記憶を持つ者』や、その子孫の多くは大した能力もないため、役立たずとされ孤立していく。




「ティファニー殿下がこの城に移られて、私共もこちらで働くようになったお蔭で、好奇の目に晒されることもなく過ごしております」


侍女はニコリと笑う。


僕がお茶の話をして『異世界の記憶を持つ者』だということを暴いたために、過去の辛い記憶を思い出してしまったそうだ。


「そうですか。 それは失礼いたしました。 でもお茶は大変美味しいです」


僕は微笑む侍女の顔をじっと見る。


「あのう、実家のご家族はどうされていますか?」


侍女は目を逸らした。


「さあ、分かりません」


少女の頃に別れたままだという。


「我が家は決して裕福ではありませんでした。 一番若い私が代表して国に仕えることになりまして」


国に出仕する場合、年齢が若いほど支度金は高くなる。


その金を持って、一家は姿を消したそうだ。


「何かと優遇されますし金もあるとなると、周りから妬みやたかりが酷くなりまして。 どこか知らない土地で暮らすと手紙をもらいまして、それ切りです」


それを聞いて、ティファニー王女の顔が曇る。




 王族としては、『異世界の知識』で国を豊かにし、国民は便利になる。


知識を持つ者たちは尊敬され、裕福になれば国に感謝するだろう。


それは表向き、とても良い案に思える。


 しかし、実際には国の役に立つ技術などほんの一握り。


多くは平民なので、宮殿に集められても窮屈な思いをするだけだ。


その上、貴族や高官からは役立たずだと責められる。


家族も同様、持ち慣れない大金などすぐに無くなってしまう。


こうなると誰も幸せになれない。




「わたくしはどうすれば良いのでしょうか」


王女は俯く。


僕はデザートに出て来た果物を齧る。


美味しい、これはリンゴだな。


「そんなの簡単ですよ。 『異世界』関係者を国で雇わなければいい」


シャクシャク。 ここには果樹園もあるのかな。


「そ、そんな」


王女は首を横に振る。


「『異世界の記憶を持つ者』の保護は、昔から国をあげての事業なのですよ」


食ってかかる王女に、僕は微笑む。


「教会の教えに基づき、保護はするが、最低限の生活支援のみにすることです」


後は自分で稼げばいい。




「知識や技術を売り込むのはいいですが、それを過剰に取り込めばどうなるか。 それは歴史が物語っていますよね」


平和なものならいい。


しかし、知識の中には危険なものだってあるのだ。


「その知識の奪い合いで国同士の争いにー」


青くなる王女に僕は頷く。


「そして『異世界人』の奪い合いは本人を助長させ、いつか破滅します」


教会には、その実例が数多く記憶されている。


それは大国でも分かっていて、何故、わざと無視しているのか。


それとも、大国だから教会の教えなど無視して構わないということか。




 僕は『異世界の知識』なんて、普通に生活している人たちにはあまり恩恵はないんじゃないかと思っている。


異世界を知る僕たちには懐かしい、有意義なものでも、この世界の人たちに必要かといえば微妙だ。


多少の不便さ、珍しい味。


その程度で十分だ。


 だって、この世界には魔法がある。


僕にはそっちの方がよほど研究価値がありそうに思える。


その中で必要があれば知識を使えばいい。




「アタト様。 そんなこと言っても、いきなり彼らを国が放り出したり出来ないでしょう」


マテオさんが言う。


「出来なくはないよ」


と、僕が返す。


「えっ!」


部屋にいた全員が驚いた。


 王女が立ち上がり、


「そのお話、詳しくお聞きしたいですわ!」


と、大声を出す。


まあまあ慌てないで。




「その前に、皆さんのご自慢の作品を見せて頂けませんか?」


『異世界の知識』により、この世界で生み出され、利用されているものはどれくらいあるのか。


僕はそれが知りたい。


「分かりました。 では、ご案内いたします」


王女自ら案内してくれるらしい。


こんなのを宮殿にいる側近や近衞騎士なんかに見られたら、また無礼だの不敬だの言われるんだろうな。


「ここにいる『異世界の記憶を持つ』皆さんは、ほぼ平民です。 彼らの言動に不満を持つような者は従者でも連れて来ていませんわ」


王女なりに気を使っているんだろう。


だけど、反面、昨日の高位貴族のような勘違いヤローも来る。


王女まで侮るのは、さすがに国に対する非礼だと思うけど。




「やあ、昨日の坊ちゃん」


「おはようございます、皆さん。 今日はよろしくお願いします」


僕はペコリと頭を下げた。


「私は隣国の商人でマテオといいます。 皆さんにお会い出来るのを、とても楽しみにしていました!」


僕とモリヒト、マテオさんの3人は敷地内にある作業場に入った。



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