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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第五百三十六話・銅板栞の使い方は


「ご機嫌いかがですか、ティファニー王女殿下」


僕たちが居る部屋に入って来たのは、あまり上品とは言えない三十代くらいの男性だった。


着ているものは上等かも知れないが、男性としては華美だし、平凡な容姿に似合っていない。


王族の別邸に先触れから僅かの時間で押し掛けて来るのもかなり失礼なことだと思うが、先客がいることも承知で部屋に入って来ることもおかしい。


なんなんだ、コイツは。


「エテオールからのお客人と聞きましたが。 おやおや、騎士様と子供ですか」


僕たちが平民だから、自分は無礼ではないと言いたいのか?。




 僕は立ち上がり、子供らしくニコッと笑う。


「すみません、リザーリス大使のお身内の方だとか。 僕は先日、エテオール王宮で開かれた大使のお茶会に参加させていただきました」


キチンと挨拶し、婚約者の知り合いだと教える。


「ほお、彼女は元気だったかい?。 しばらく会っていないからねぇ」


婚約者といっても、貴族の場合はほとんどが政略結婚だ。


会えないからといっても別に寂しいということではない。


しかも、本人たちは成人しているのに、未だに婚姻に達していないのはどちらかに問題があるせいだろう。


まあ、この人たちの場合は女性側の家族に問題があるわけだが、それだけかな?。




 僕がジロジロ見ていても気にした様子がないのは、あちらもモリヒトをジトッとした目で見ていたからである。


モリヒトが不機嫌になるからやめてくれ。


「どうかされましたか?」


「いえいえ、殿下がご無事であれば、それで良いのです」


ティファニー王女が声を掛けると、男性はようやく椅子に座った。


 この男性は、王女の事業について色々と補助をする立場にある、いわゆる王族派の貴族。


特に役職に就いているわけではないらしい。


今日は、王女のところに見知らぬ客が来たと知って偵察に来たのだろう。


やはりこの城も監視されているんだな。




「私はティファニー殿下とは留学時に知り合いました。 仕事でこちらの国に来ましたので、ご挨拶に伺った次第です」


ティモシーさんが自己紹介がてら、ここに来た事情を説明する。


「僕はリザーリス大使から大国のお話を聞き、一度でいいから行ってみたかったのです。 騎士様が警護の仕事で隣国に行くと聞いたので、我が儘を言って連れて来て頂きました!」


金持ちの無邪気な子供を装う。


普段と違い過ぎるって?。


おい、王女も護衛たちも引くんじゃねえよ。




 すぐに帰ると言いながら、男性は腰を上げる様子がなく、ダラダラとおしゃべりを続ける。


相変わらずモリヒトに興味があるようだ。


「最近のエテオールはどうですか」


などと話を振るが、モリヒトは当然無表情で僕の後ろに立っているだけだ。


「そういえば、神の御神託があったとか?」


今度は、教会警備隊騎士のティモシーさんに訊ねる。


「神の巫女や御遣いが現れたと聞きましたが、本当ですかー?」


イラッとする話し方はわざとなのかね。


「はい。 大変、光栄なことです」


「しかし、おかしいですなあ。 神の遣いなら、まず我が国に姿を現すのが当たり前だと思いませんか。 何故、エテオールなんて小国に」


僕たちから何か情報を引き出そうとしているのか、わざと怒らせて暴言を吐いたら追い出す気なのか。


明らかに、こちらの失敗を待っている様子だ。


高位貴族らしいけど小者臭がするなあ。




 僕は銅板栞を一つ取り出した。


「あのー、よろしければコレを」


男性の前に置く。


「うん?、なんだね」


「僕が働いている商会でしか作っていない『神の御遣い様』の姿を映した銅板栞です。 遅くなりましたがお土産に、どうぞお持ちください」


大使にお世話になったから、と言うと男性は頷いて手に取った。


「ほお。 なかなか美しいですな。 では、ありがたく頂こう」


ようやく収穫があったという顔をして、サッサと懐にしまい込む。


「では」と、男性が立ち上がった。


「長居をしてはご迷惑になりますから、これで失礼いたします」


王女は立ち上がりもせずに退室する男性を見送った。




 男性が城を出て行くと、皆がフウッと息を吐く。


「アタトくん、よかったのか?。 あんな貴重な物を渡してしまって」


ティモシーさんは御遣いの絵が販売禁止であることを知っている。


「ええ、大丈夫ですよ。 アレはガビー作ですからね」


僕とモリヒトなら、簡単に魔力を辿ることが出来る。


僕は王女にも渡していないから、ガビーの作品なんて、この国にはアレしかない。


「アレがどこに渡るのか、少し楽しみなんです」


と、ニヤリと笑う。


王女反対派にでも渡れば、あの男性が本当はどちら側なのかハッキリする。


なんだか王女も嬉しそうに笑った気がした。




 夕食の時間になった。


この城にいる『異世界の記憶を持つ者』、または『異世界人』と判定された人たちを紹介して頂いた。


大人ばかり20人。


全員が判定された人ではなく、親戚や親兄弟が判定を受けた時に、一緒にこちらに来たという人もいるそうだ。


「その方々に師事して、技術や知識を受け継いでいる方もいますの」


なるほどね、多過ぎると思った。


 大食堂で一緒に食事を摂る。


「美味しいですね。 これはいつ頃から、この国で作られているのですか?」


「この味、なんの香辛料を使ってます?」


とにかく質問攻めにする。


陶器や漆器まであるなんて羨ましい!。




「よろしければ、こちらにお泊まりになりませんか」


代表の高齢男性から話を持ち掛けられた。


「えっ」


「こちらの世界で、こんなに話が合う人に初めて会いました。 良かったら明日、我々の事業で作っているものを見て頂きたい」


僕は王女と、ティモシーさんを見る。


「こちらは構いませんよ」


「アタトくんさえよければ」


二人の許可が出たので、僕とモリヒトはお泊まり決定である。


「嬉しいです。 是非、色々と見せてください!」


ティモシーさんは宿に戻り、側妃やゴリグレン様に連絡してもらうことになった。


そして、僕は王女に商人をこの城に呼ぶ許可をもらう。


ティモシーさんに頼んで、マテオさんにも来てもらうことにした。



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