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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第五百三十話・姫の従者の条件


 僕はホクホク顔で皆の所に戻る。


モリヒトがコーヒーを淹れてくれて、キランが買ってきたパンを僕の前に置いた。


「ありがとう」


清潔の魔法を発動し、身綺麗にしてから頂く。


「サンテ、次、行きますわよ!」


食事を終えたパメラ姫が立ち上がる。


「あ、はい。 すみません、アタト様、行ってきます」


「なるべく僕たちの近くにいてくれ」


僕がそう言うとサンテは頷いて、パメラ姫について行った。




 僕は異国のパンをじっくりと噛み締める。


うん、パン自体に味があって実に美味しい。


何が練り込まれているんだろう。

 

マテオさんも向かいに座って同じ物を食べ始める。


「これ、美味いですね」


ウンウンと僕は頷き、店で教えてもらったが聞いたことのない麦の名前を思い出す。


こちらの世界固有なのか、元の世界とは似たような作物でも名前が違うものなのか。


実物を見ないと分からないな。


「アタトくん、ちょっといいかな」


ティモシーさんが隣に座る。


女性騎士の方は、パメラ姫たちを少し離れたところで見守っていた。


「はい。 何でしょう」


周りにたくさんの人はいるが、結界のお蔭で誰もこちらを気にしていない。




「先ほど危ないことがあった」


どうやらパメラ姫を拐おうとした者がいたらしい。


「人混みに紛れて姫の腕を掴んだ奴がいたんだが」


おそらく裕福そうな子供を狙う地元の犯罪組織の下っ端だろう。


すぐに気付いたサンテが犯人に掴み掛かると、突然相手は倒れて動かなくなった。


慌てて仲間が引きずって逃げて行ったらしい。


本当にあっという間の出来事で、周りにいた人たちも何があったのか分からないうちに終わったようだ。




 それを見たティモシーさんは疑問を持ったと言う。


「サンテくんに何か持たせてるのかい?」


護身用の魔道具でも持っているのかと訊かれた。


「ああ、僕のウゴウゴと同じヤツを持たせていますよ」


魔道具じゃないけど護身にもなる。


名前を呼ばれたスライム型魔物が、黒い触手を僕の胸元からチラリと覗かせた。


「これが。 あー、そうか」


サンテは魔力異常のため、魔力を吸う魔物を服の中に仕込んでいる。


それは辺境地ならほとんどの人が知っていた。




 ティモシーさんは苦笑する。


「アタトくんが任せているから大丈夫だとは思っていたけど、なるほどね」


「そういうことか」と何度も頷く。


僕たちの声が聞こえたのか、キランの顔が険しくなった。


「サンテはまだ子供ですよ?」


キランは、サンテに危ないことを任せるのには否定的だ。


「僕も子供ですが?」


中身はジイサンだけどな。


「エルフ族とは比べられませんから」


キランはムッとした顔で反論する。




 いやだから、キランはどうしてそんなにサンテに強く当たるの?。


「アタト様が書道の弟子のサンテを可愛がっているのは分かりますけど、髪や目の色を変えてまで連れて来る意味はあったんですか?」


変装に関しては、大使の探している子供だからだと話はしてある。


それなら大国に入ること自体が危険ではないか、とキランは思っていた。


「私は、サンテのためにアタト様が危ない目に遭うのではと心配しているんです」


どうやらキランは最初から、サンテを同行させることが気に入らなかったみたいだな。


だから辺境伯に頼み込んでついて来たのか。




「フフフ」とティモシーさんが笑う。


「キランはアタトくんのことが本当に好きなんだねえ」


知り合ったのも自分の方が早いのに、サンテが頼りにされるのを悔しいと思っているのだろう、とティモシーさんがこっそりと僕に言う。


え?、そうなのか。


キランは、自分の方が年上で仕事も出来る。


少々、戦闘は苦手だけど、それはサンテも変わらないはずだと訴え、自分だけで良かったのではないか、と言う。


「だから、サンテを連れて来たのは何か意味があったんですか?」


キランはよほど自信があるみたいだ。




 でも、キランもティモシーさんも知らないことがある。


それを話す良い機会かも知れない。


内緒話は人混みの中の方が良いらしいからな。


「んー、国に帰っても誰にも話さないと約束してくれますか?」


でも念の為、結界に盗聴防止を上書きする。


もしパメラ姫たちが戻って来て、聞かれたら困るし。


「私は聞いてもいいんですか?」


ちょっとふざけてマテオさんが訊ねてくる。


「一応、旅の仲間ですし、聞きたければ」


「そうですか。 仲間外れは嫌ですねー」


笑って頷く。


ティモシーさん、キラン、マテオさんか。


まあ、いいだろう。




「早い話。 僕はサンテの才能を利用しているんです」


本人には誰にも伝えないように魔法契約を掛けているので、安心して傍に置いておける。


「サンテくんは才能も、魔法属性も不明だと聞いているが」


ティモシーさんは首を傾げる。


最初、サンテの魔力開放をヤマ神官にお願いしたが、はっきりと特定は出来なかった。


僕は3人の前に魔法契約書を出現させる。


「ここにいる仲間以外には話さないという契約です。 もし違反すれば少し不運になります」


「不運?」


マテオさんが笑う。


「ええ、契約書が破棄されない限り、永遠に少しだけ不運が続きますよ」


人生において「幸か不幸か」という場面は何度か訪れる。


たいした問題ではなくても、それが全て不幸に傾いたら。


「それは嫌ですねー」


今なら仲間から外れても構わないが、3人はそのまま契約書に魔力を注いだ。


もう戻れない。




「ティモシーさん、教会で必要な魔法は何ですか?」


この世界の教会は全て同じ神を信仰している。


「回復や治癒、浄化などの光魔法だ」


全員が頷く。


「では、教会警備隊でも使っている魔道具は?」


警備隊の仕事は神職者の警護や信者の安全、仲裁など依頼があれば駆け付ける。


彼らは光魔法は持たないが、魔道具を所持していた。


「ああ、真贋の魔道具ですね」


商人のマテオさんが答える。


揉め事が起こった時、店が受け取った金や品物が本物かどうか、警備隊を呼んで確認のために使ってもらうことが多い。


「それが何の魔法か、ご存知ですか?」


3人は顔を見合わせた。


「光魔法ではない、ということか」



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