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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第五百二十九話・側妃の思いと市場


 宿を出る前に僕はサンテを呼んだ。


「悪いけど、しばらくパメラ姫に着いててくれ。 よく『視て』怪しい奴がいたらスルスルを使ってもいい」


そっと近付いて魔力を抜くだけで相手は行動不能になる。


サンテは黙って頷き、パメラ姫のところへ行った。


女性騎士と話をし交代する。


せっかく大国に来たのだから、いくら護衛でも気晴らしくらいは必要だ。




 歩いて移動中、僕はこっそり女性騎士に訊ねる。


「あなたから見てパトリシア様にその気はあったんでしょうか」


彼女は少し狼狽えながら答える。


「そ、そうですね。 私にはなんとも申し上げられませんが。 あのままエテオールにおられるよりは」


幸せそうだと言う。


へえ、そうなんだ。


エンディに言わせると王宮は魔宮らしいからな。


正妃ならまだしも、平民出の側妃には辛かろう。




 しかし、他国であっても王族に認められるのは嬉しいことだったに違いない。


たとえ、それが外見だけだと言われても。


ゴリグレン様は当時はまだ若造だし、高齢の高位貴族家の当主には逆らえない。


ご両親も、まだ若い仲睦まじい二人を見て心穏やかとはいかなかっただろう。


平民とはいえ、国から預かった娘を嫁にとは言い出せないしな。


 それを見ていたパトリシア様はどう思ったのか。


僕には女心は理解出来ないが、確認しなければなんとも言えないなあ。




 エテオール国の王都の市場より、ずっと賑やかな広場に出た。


屋台やテント張りの店も多いし、とにかく人が多い。


「わあっ!」


パメラ姫がはしゃぐ。


「モリヒト、頼む」


『はい』


パメラ姫に目印の魔力と体型に密着した結界を張っておく。


「サンテ、絶対見失うなよ」


「はい。 お任せください」


ピッタリと張り付く。


 モリヒトは人間の姿のままだが、この国でもその容姿と高身長は目立つ。


皆にも「はぐれたらモリヒトを目印にしてくれ」と言っておく。


見失っても、誰かに「あの美青年はどっちに行った?」と聞けば良い。


モリヒトは迷惑そうだが大丈夫。


イケる、はず。




 僕は疑問に思っていたことをマテオさんに訊ねる。


「そういえば、パトリシア様のご両親の店。 どうしてあのザマなの?」


一等地にある老舗魔道具店。


なのに、客の出入りが少なかった。


情報を仕入れて来たマテオさんが、周りを気にしながら答える。


「どうやら魔石の入手自体が減っているようで」


ああ。


エテオールでも以前、問題になっていた。


魔道具は有るのに燃料である魔石の流通の乏しさ。


魔獣から魔石を取り出しても、素早く加工して魔道具に設置しないと上手く作動せずに、すぐに燃料切れになる。


活力のある魔石でなければ、魔素を吸収して魔力に変換するという循環が出来ないからだ。


辺境地で僕が魔獣狩りを始め、新鮮な魔石が多く流通するようになって、魔道具製作も盛んになった。




「大国なら魔獣も狩人も多いだろうに」


魔石くらい簡単に仕入れられそうなものだ。


「ところが。 『異世界の記憶を持つ者』がほぼ独占していて、市場には僅かしか出回らないらしいです」


なんだと?。


「それは反発を買うな。 だけど、それならあの店だけが不景気な理由にはならないだろ」


「あの店、というか、ゴリグレン家は親王女派なんですよ」


今までは高位貴族と縁のある店ということで有名だったが。


「老舗ですからね。 長く取り引きしていた相手もいたはずですが、皆、巻き込まれたくないみたいで」


最近は王女派ということで、取引先から手を引かれてしまったという。


マテオさんがヤレヤレという顔で、大袈裟にため息を吐いた。




 僕たちは人混みを縫うように歩く。


パメラ姫が駆け出しそうになるのを、サンテが手を掴んで阻止している。


文句を言いながらもパメラ姫はサンテを拒絶はしない。


大人相手と違って、我が儘を言いにくいのだ。


女性騎士やマテオさんたちも皆、同じようにニタニタしながら、いや、微笑ましく眺めていた。


 果物の店では、パメラ姫たちが果汁のジュースを飲んでいる間に、僕は珍しい果物を試食。


パン屋で昼食用の野菜やハムを挟んだパンを買い、小麦の種類を訊ねる。


たまに見たこともない物があって楽しい。




 広場のような場所に出ると、


「ここで昼食にしましょう」


と、マテオさんはテーブルを確保する。


サンテがパメラ姫をエスコートして座らせた。


僕はモリヒトに頼んで、このテーブル周辺に認識阻害の結界を張ってもらう。


「キラン」


「はい」


「僕たちは少し離れる。 近付いて来る者に対して交渉を頼む」


言葉は同じでも少し抑揚が異なるため、他国人だと丸分かりらしい。


キランなら誤魔化せる。


「承知いたしました」


大国だろうと、人出が多い場所は治安が良いとはいえない。


こちらは慣れない他国人だしな。


「すみません、ティモシーさん」


僕は姫や女性騎士と共に、しばらくここで待っていてくれるようにお願いする。


「分かりました」


これで守りは大丈夫だろう。




 僕は姫たちの休憩中にマテオさんを連れて交渉に向かう。


フッフッフ、気になるモノがあったんだよ。


「こんにちは、おじさん。 これ、なあに?」


子供っぽく訊いてみる。


「いらっしゃい、坊ちゃん」


身なりの良い子供を見てヨダレを垂らしそうに顔を歪める店主。


「これは『ライス』に似てるが『モチ』というのさ」


餅米キター!。


 話を聞くと、この国で生産しているのに調理方法も食べ方も普通のライスと同じだ。


「ライスより白くて粘り気が強いから、ライスより腹持ちが良いよ」


うん、知ってる。


赤飯や混ぜご飯に適しているからな。


だが、何より餅にすればいいのに何故しない?。


『異世界の記憶を持つ者』から、ちゃんと習っていないのかな。


中途半端な伝わり方だ。




 しかし、あまり人気がないようだ。


「白いからって濁ってるわけじゃないんだがねえ」


それが不人気の原因か。


「マテオさん、これ、出来るだけ安く買ってください。 大量に持ち帰りたいです」


一度、購入すれば、次回は彼の商会から仕入れられる。


「お任せください」


ニヤリと笑う腹黒商人に後はお任せした。


早くモチ食いてえ!。



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