第五百二十七話・大国の商店街に行く
馬車で商店街まで移動する。
警護にティモシーさんと女性騎士が騎乗してついて来た。
「まずは高級店が並ぶ商店街をご覧頂きます」
「はいっ」
マテオさんの話にパメラ姫は目を輝かせる。
「殿下は街でお買い物とか、されたことは?」
フルフルと小さな頭を横に振る。
「商人たちが品物を持って城に来るのよ」
「では、ご自分でお店に行ったことはないのですね」
ウンウンと頷く。
それは仕方ない。
辺境伯邸でも商人を呼んでいた。
だけど、それだと商人に都合の良い物しか見られないんだよな。
これから行く商店街は、通り沿いにいくつか店が並んでいるそうだ。
エテオール国では、高級な店舗は並んでいない。
工房街とか平民相手の店は固まっているのだが、老舗ほど場所に拘るのか、バラバラな場所にある。
不便だよな。
「欲しいものがございましたら声を掛けてくださいね。 店と交渉させて頂きますので」
ほお?。 まさかマテオさん、それって。
「勿論、お代のほうは気にされなくて結構でございます」
帰国後に、どデカい見返りを要求されるのだろう。
フッフッフ、お主もワルよのぉ。
「ありがとうございます。 でも、お買い物は母上様と相談して決めたいと思います!」
おー、姫さん、偉いな。
流されないところは、やはり普通の令嬢とは違う。
とりあえず、見て回る。
ティモシーさんとモリヒトで外を警戒してもらい、女性騎士にはパメラ姫に張り付いていてもらう。
僕とマテオさんは姫と一緒に店内で商品を見て周り、店員の説明を受ける。
キランとサンテは御者さんと馬車と馬の管理だ。
さすがに宝石店や女性用の服地の店は時間が掛かった。
これはもうしょうがない。
昼食は商店街にある高級店で取った。
午後からは護衛や馬車待機を交代しながら、夕方まで何軒かハシゴする。
「欲しい」という言葉を発しないのは、さすがだが、子供らしくないのは少々気になるな。
「パメラ姫様、こちらをどうぞ」
菓子店ではマテオさんが可愛らしい瓶入りの飴玉を買って渡していた。
「ありがとう!」
パメラ姫が嬉しそうで何よりだ。
しかし、夕方が近くなればなるほどパメラ姫の元気がしぼんでいく。
あの祖父母の所に行かないといけないからか。
段々と足が遅くなり、その店舗が見えてくると目を逸らした。
モリヒトの気配がピクッとする。
『アタト様』
声を掛けられて僕は辺りを見回す。
明らかに昨日より人の出入りが多い。
その中に、兵士らしい者がかなり混ざっていた。
「ゴリグレン家か?」
『そのようです』
ということは。
「パメラ姫様、お母上様がいらしているようですよ」
「えっ」
驚いた顔で僕を見るので頷き返す。
詠唱し、僕は容姿をエルフに戻した。
「行きましょう」
一行が気持ちを引き締める。
人々の騒めきの中、ティモシーさんを先頭に立ち、店に入って行く。
パメラ姫はさっきより少し明るい顔で続いた。
「お帰りなさいませ、パーメラシア王女殿下」
昨日とは打って変わってキチンとした態度で迎えられた。
「旦那様と奥様が奥でお待ちです」
こちらへどうぞ、と案内される。
昨日は旦那さんが自分で案内してたぞ。
こいつら、その時は何してたんだろうな。
今回は夕食のご招待のため、パメラ姫と僕とモリヒト、護衛のティモシーさん以外は宿に戻ることになっている。
「殿下のお帰りはこちらで馬車を手配いいたしますので、ご安心ください」
ということなので、皆とはそこで別れた。
奥の部屋に通される。
「パーメラシア、お帰りなさい」
「母上様!」
と、駆け寄ろうとしたパメラ姫が立ち止まる。
「ゴリグレン様」
慌てて礼を取る。
「パーメラシア殿下、街の様子はいかがでしたかな?。 エルフ殿、護衛、感謝する」
中年というにはまだ早い男性が頭を下げた。
いやいや、あなたは頭を下げていい身分じゃないだろ。
上品な物腰というか、気弱な印象を受ける。
「ゴリグレン閣下。 労いの言葉、ありがとうございます」
そんなやり取りの中、食事の準備が出来たと老メイドが呼びに来て移動した。
ウキウキした顔の会長夫人が出迎える。
「ようこそ、皆様」
そこそこ広い食堂は年季を感じさせる。
ん?、ゴリグレン様も席に着くのか?。
「エルフ殿」
「はい」
「申し訳ないが、我々だけで少し話をさせていただきたい」
どうやら僕たちは別室らしい。
「承知いたしました」
僕はティモシーさんにパメラ姫を頼む。
席は一応ティモシーさんの分も用意されているようだし、側妃の侍従と侍女が付いているので大丈夫だと思うが念の為。
僕はモリヒトを伴って部屋を出る。
ゴリグレン家の護衛が付いた部屋に案内された。
そこには、専用の料理人も待機していた。
「座ってくれ」
軽めの料理が目の前に出される。
まあ、この状態じゃ、何を食べても味はしないだろうな。
だいたい、高位貴族が平民の家で食事などあり得ない。
「実はな。 本日、パトリシアと共に国王陛下にお会いして参った」
ああ、側妃が隣国の王族としてのご挨拶か。
「昨日、預かったエテオールからの手紙をご覧頂き、パトリシアをこちらの国で受け入れる手続きに入った」
そんな話を僕が聞いて良いの?。
「……パトリシア妃は、このままエテオール国を離れるつもりなのでしょうか?」
「それなんだが」
ゴリグレン様は難しい顔をする。
「パトリシアがこの国に残るか、一旦、エテオールに戻るかは、娘のパーメラシア次第だと言っておる」
うん、そうだろうな。
娘が帰りたいなら一緒に帰って、後日、また来れば良い。
「しかし、今は拙いのだ」
「もしかしてティファニー王女殿下の件ですか?」
ゴリグレン様は僕の言葉に驚きながらも頷いた。
「反王女派の動きが怪しい」
近いうちに反乱が起き、他国との行き来が難しくなるかも知れない。
一度、国を出たら戻れなくなる恐れがあると言う。
「なので、今はパトリシアを出国させずに我が家で保護したい」
その気持ちは分からなくはないが、正直、僕にはなんの関係もないな。
「パトリシア様はそれで構わないと思います」
問題はパメラ姫である。




