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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第五百二十六話・二つの国の王女


「分かりました。 後日、お返事いたします」


そう言ってティファニー王女と護衛は姿を消した。


そういえば、移動魔法を多用する人たちだったな。


うちの国に来ていた時は、おそらく協力者がいた。


高価な魔道具を持ち込むのは大変だし、長距離移動にはかなりの魔力を消費する。


それが使えるのは、さすが大国だと思った。


「自国なら使い放題かよ」


さらに自国でなら、彼らは魔道具をふんだんに使えるんだろう。


何せ、王族だし、緊急で使うことはありそうだからな。


何はともあれ、後は連絡待ちである。


僕たちの滞在期間も伝えてあるので、それまでになんとかしたい。




 部屋に戻る。


「アタト様、お帰りなさい」


サンテに軽く頷き、モリヒトに目覚まし用のコーヒーを頼む。


さっきまでの緊張が解けると一気に眠気が来た。


「朝食はまだだったか?」


「はい。 パーメラシア様がまだ起きていらっしゃらないので」


あー、昨夜の様子ではあまり眠れていないだろう。


仕方ない。




 大国ズラシアスと小国エテオール。


国の規模、面積、人口、全てにおいてかなり違う。


同じなのは王政だってことくらいだ。


この世界にいくつの国があるのかは知らないが、ほとんどは王という君主が治めている。


そして、その君主は世襲だ。


ズラシアス国は継承争いもなく、長子が王太子に決まっているし、予備に弟もいる。


ティファニー王女は兄と弟のいる3人兄弟の真ん中なのだ。


しかしながら、王女の嫁ぎ先はまだ決まっていない。


弱小国であるエテオールにまで縁談が来るくらいだから、相当扱いに困っているのかも知れない。




 聞いた話では昔、エテオールは小国なのに他国の陰謀により王族が極端に減ってしまった時期がある。


それから側妃を奨励し、子孫を増やすことが王族の使命になったという。


今は、逆に増え過ぎて緊縮に向かっているがな。


どこも色々と難しいらしい。




 今日はパメラ姫の起床を待って、皆で食堂に集まることになっていた。


コーヒーで目を覚ましていたら、キランが呼びに来る。


「おはようございます、パメラ様」


「おはよう、アタト、さん?」


「アタトで結構ですよ」


「さん」なんていらん。


一緒に食堂へ向かう。


 パメラ姫から要望があり、今朝は皆で揃っての朝食である。


「広い場所で賑やかに食べたいの」


と、いうことらしい。


おそらく王宮じゃ全員集まることなんてない。


あそこには王妃や側妃ごとに派閥がある。


未だに第一王子と第二王子は競い合い、第三王子だったエンディはサッサと王宮から逃げた。


他は何をしているか、僕には分からないが。


「王子が4人、王女が7人か」


多過ぎだろ。




「何かあったんですか?」


サンテがテーブルの上を片付けながら僕を見ている。


「いや、パメラ様は王家の末っ子だから十一番目だなあって」


楽しそうに食後のお茶を飲むパメラ姫を横目で見る。


「それは賑やかですね」


わちゃわちゃとした光景を想像したのか、サンテが微笑む。


彼女はマテオさんが話す今日の予定を夢中で聞いていて、こちらを見ていない。


「いがみ合っていなければな」


僕がそう言えばサンテの笑顔が消えた。


「王太子は未だに見栄や猜疑心から他の王族を廃しようとしているらしいね」


教会で白いエルフを虜にしようとした姿勢を見れば、予想は確信になる。


「あんなに権力やお金があっても?」


サンテは信じられないという顔だ。


「人間の欲望には限りがないのさ」


自分に自信がない。 いつ誰に蹴落とされるか分からないという疑心暗鬼。


もっと資金があれば、もっと人脈があれば。


そのために目障りな兄弟姉妹を蹴落とす。




「まあ、パメラ姫の場合は大丈夫だと思うよ」


他家に嫁ぐことになるはずだから、このままおとなしくしていれば良い。


「まだ子供ですよ?」


パメラ姫と同じ歳のサンテが顔を顰めた。


「高位の女性は、だいたい成人と同時に嫁がれますよ」


口を挟んできたのはティモシーさんだ。


この世界の成人は15歳。


後5年くらいである。


「男性の場合はもう少し先になりますが、それでも相手は子供のうちに決まっています」


派閥同士の繋がりや、資金援助、血筋の保持など理由は諸々だが、全部大人の都合。


要するに世間知らずのうちに囲ってしまえってことだ。




「パメラ姫も決まった方がいらっしゃるのですか?」


何故か、サンテは姫の相手が気になるようだ。


「いいえ」


ティモシーさんは少し周りを気にして、声を潜めた。


「エンデリゲン王子もそうでしたが、母親が平民出ということで、なかなか決まらないようです」


王族を受け入れるにはそれ相応の家柄だったり、姫に贅沢させるだけの資産が求められる。


しかし、そこまでの貴族家が何故、平民の血を受け入れなければならないのか、と反発もあるわけだ。




 6人いる姉たちはすでに国内の有力な高位貴族に嫁いでいる。


彼女たちには名家出身の母親がいるから、すんなりと相手は決まっていた。


今の王族で未成年者はパメラ姫ひとりだ。


王宮では婚約者候補を選定中らしい。


「しかし、側妃様がご実家に戻られるとなると話は違ってくるでしょうね」


ティモシーさんは腕を組む。


「どうなるの?」


サンテは相変わらず興味津々だ。


「断定は出来ませんが、もしかしたら、側妃様と一緒にこの国に住むことになるかも知れませんね」


「えっ。 一緒に帰らない、の、ですか?」


サンテは言葉を詰まらせる。




「いや、今回は帰るだろう」


僕にはパメラ姫を無事に送り届ける任務がある。


エンディと約束したからな。


僕の言葉にティモシーさんも頷く。


「そうですね。 側妃様がご実家に戻ることが決まったとしても、一度帰国して王宮に届け出る必要がありますから」


王族や貴族は勝手に居住を変えられない。


王宮の貴族管理部に届け、国王の承認を得る必要がある。


「そ、そうですかー」


ん?。 サンテがなんかホッとした顔をしている。


「なんだ?」


僕は首を傾げて訊ねる。


「な、なんでもないです!」


慌ててキランを手伝いに行った。


「なんですかね、アレは」


ティモシーさんはクスクスと笑っている。



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