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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第五百二十五話・姫の幸せと少年


 部屋に戻ると、サンテがまだ起きていた。


「お帰りなさい」


「ふあー、疲かれたー」


僕は、ベッドに倒れそうになったところをモリヒトに捕獲され、着替えさせられる。


清潔の魔法が降ってきたと思ったら、ベッドに投げ込まれた。


「ありがと、おやすみ」


『おやすみなさいませ、アタト様』


それだけ言うと、モリヒトは光の玉になり消えた。


宿の周りの警戒に行ったのである。




 この部屋にベッドは2つ。


モリヒト込みの3人部屋だけど、宿の人にはベッドは子供2人で一つと話していた。


実際には、モリヒトには必要ないから僕とサンテで1つずつだ。


 僕がベッドに入ると、寝巻き姿で隣のベッドに座っていたサンテも毛布に潜り込む。


室内の温度は、モリヒトが3部屋をまとめて調整しているので寒くない。


ついでに3部屋とも防御と防音も付いている。


これが並びで部屋を取った理由だ。


まったく眷属精霊さまさまである。




「サンテ、眠れないのか?」


ゴソゴソうるさいので訊ねる。


「あ、ごめん」


「いや、謝らんでいい。 どうかしたの?」


大国に来て、多少は興奮してる気配はずっとしていたけど。


「なんていうか、王女様も大変なんだなって」


今さらか。


 サンテとパメラ姫は僕より一つ上で同じ歳。


周りから色々聞いたのかもな。


「王女様にはちゃんと両親がいて、祖父母も生きてるし、皆、すごく裕福そうなのに」


あまり幸せそうじゃないと、サンテは思ったと言う。


「今日、教会でさ。 ずっと祈ってたんだ」


パメラ姫はひとりだけ長く祈っていたらしい。


サンテが「迎えが来たから」と呼びに行くと、


「父王様の国と母上様が幸せになりますように」


と、何度も呟いていたと言う。




「王女様は母親に捨てられそうなのに、皆の幸せを祈れるんだなって」


うっ、誰だ、捨てられるなんてことをサンテに吹き込んだヤツは。


「おれ、父さんが幸せか、そうじゃないかなんて考えたことなかった」


そりゃあ、死んだことになってたからな。


「サンテと姫様じゃ立場も環境も違うんだから当たり前さ」


パメラ姫はそういう教育を受けて育っている。


自分個人より、国民の幸福を優先すること。


それが国の頂点である王族の神への祈り。


「じゃあ、王女様が王女じゃなくなったら?」


そうなるかは微妙だけど。


「もし、本当に王族でなくなれば」


兄であるエンディの場合は、まずは自領の民のために動いた。


だけど、その目の先には、高位貴族として国を支える気持ちがある。


「自分のことを祈ると同時に、また家族や国のために祈るだろうね」


基本的に祈ることに変わりはない。




 サンテは突然、ベッドの上で体を起こした。


「じゃあ、おれが祈ってやる」


いきなり祈り始めた。


「おれのロクデナシなオヤジなんかより、パーメラシア王女様が幸せになれますように」


ああ、それはいいんだが。


「なんでこっち向いて祈ってるんだ?」


「いや、あの、王女様がアタトのこと、神様の御遣い様だって言ってたから」


はあ?。


「僕に祈っても御利益ごりやくはないよ。 早く寝ろ!」


半ギレになりながら枕を投げそうになった。


ギリギリで投げるのは止めたけどな!。


「わっ、分かったよー」


御利益ごりやくって何?」と言いながら、サンテは毛布の中に潜る。


「サンテ。 明日からはパーメラシア様は愛称で呼ぶことになったから。 パメラ姫と呼ぶように」


毛布から顔を半分だけ出して「はい」とサンテが答えた。




 翌朝、僕はまだ暗いうちに起き上がる。


ティファニー王女との待ち合わせは鐘一つ。


1日の最初の鐘だ。


「モリヒト、ティモシーさんが起きたか見てきて」


隣はティモシーさんとマテオさんの部屋。


反対隣はパメラ姫と護衛の女性騎士で、キランはその続き部屋にいる。


今朝はティモシーさんが中心になり、僕は付き添いだ。


『準備していらっしゃいます」


ならいい。


まだサンテの話はしていないので、彼は連れて行かない。




 着替えて身だしなみを整える。


相手はこの国の王女だ。


護衛を引き連れている可能性もある。


いきなり捕まるとかはないと思うが、印象は大事だからな。


 薄暗い廊下に出るとティモシーさんが待っていた。


「おはようございます」


「おはよう、アタトくん。 では、行こうか」


僕は頷く。


そして、廊下の窓から外を見ながら気配を探す。


『いますね』


「ああ」


エンディ領で遭遇した、王女と護衛2人と同じ魔力の気配。


『では、行きます』


宿の人たちが動き出す前に。




 宿の傍の公園、噴水近くのベンチに空間移動した。


空気がザワリとする。


「お久しぶりです、ティファニー殿下」


「遠いところをようこそ。 騎士ティモシー、それと商人アタトくん」


僕は正式な礼を取る。


礼は、国によって多少、違うらしいが、自国で正しいとされていれば問題はないそうだ。


 ズラシアス国の唯一の王女、ティファニー姫。


そして護衛の2人は、大国の王家に長く仕える一族の父娘である。


「お呼び立ていたしまして申し訳ございません、殿下」


僕はティモシーさんに合わせて頭を下げた。


「こちらこそ、先日はそちらの国で面倒をお掛けしてしまいました」


王女も謝罪の礼を取った。


どこかの屋内にすれば良かったのにとは思うが、公園を指定したのは相手側である。




 王女にはベンチに座ってもらい、周りを結界で囲む。


認識阻害付きで、誰かいるのは分かっても印象に残らず、見落とすという感じになる。


「こちらの国で数年前に亡くなった貴族家当主なんですが」


今日の交渉はティモシーさんにお任せした。


「ああ。 新しい大使の身内だとか」


「はい」


ティモシーさんは頷く。


「我々の調べでは生きていることが分かりました」


僕は、調査した貴族の詳細を書いた紙を女性の護衛に渡す。


「会わせて頂きたいのです」


護衛の老人の眉がピクリと動く。


「会ってどうなさる。 他国の貴族など、そちらには関係なかろう」


ティモシーさんは僕の顔を見て頷く。


「我々がその方のご子息を保護しております」


妻子が我が国に亡命していることは知っているはずだ。


「連絡が取れれば、直接会ってお話ししたいことがございます」



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