第五百二十二話・首都での予定と商家
馬車には僕とサンテ、モリヒトにマテオさん、キランにパーメラシア王女。
護衛に、騎乗したティモシーさんと女性騎士が1人付く。
御者と馬車と護衛用馬2頭は借り物である。
商家のある中央街には夕方到着予定なので、昼は御者のおじさんに紹介してもらった飲食店に向かう。
「少しお高いですが」
小さな声で言われたが、王女様もいるし、個室のある店といえばそうなるよね。
「構いません」
大国の料理はパンが主食ではあるが、パスタやうどん、ライスなど、『異世界』発祥と思われるものが普通に出て来る。
これなら、国に帰ったら『大国風』料理として出せるんじゃないか?。
同じ料理でも『異世界の記憶を持つ者』からの搾取とは言われないはずー。
そんなことを考えていたら、王女が食事をしながら訊いてくる。
「アタト様たちはこれからどうするの?」
「パーメラシア様をご祖父母様のところに送らせていただいたら、教会に向かいます」
宿は中央街で適当にとる予定だ。
「勿論、わたくしも一緒よね?」
は?、そんなわけない。
「パーメラシア様はご祖父母様と過ごされるのでは?」
「嫌よ。 初めて会う人たちで、しかも平民なんて」
おいおい、自分の母親も平民だって忘れたのか。
「アタト様は伯父様から、わたくしと一緒にいるように頼まれたでしょ?」
それはそうだが。
「一緒にいても面白いことなんてありませんよ」
「えー」
正直、邪魔。
これからこの国の王女に会うというのに。
ん?。 王女かー。
何かに使えるかもな。
だけど、今のところはまず。
「分かりました。 とりあえず、ご実家の商家に参りましょう」
どんな商売をしているのか気になる。
行動に関しては、その後で決めよう。
食事を済ませて出発。
日が暮れる前に中央街の老舗商会の前に到着した。
「本当にここですか?」
「ええ、そうなんですが」
案内役の御者のおじさんも苦笑いである。
はっきり言って、客が少ない。
「魔道具店かー」
大通りに面しているので、道にはそれなりに人が歩いている。
しかし、店の前には立ち止まる人さえいない。
「以前はそれなりに繁盛していたんですがねぇ」
正面に馬車を停めるのは拙いかと思ったが。
「このまま表玄関に付けてくれ」
「は、はあ」
御者のおじさんが頷き、商会からも人が出て来る。
ちゃんと王女が到着することは知らせてあるからな。
「殿下、ちょっと」
僕は王女の隣に移動し、そっと小声で打ち合わせをする。
「モリヒト」
『ええ、分かりました』
少し嫌そうに返事をし、モリヒトは姿を変えた。
サンテが降り、次いで降りたキランが店の正面に立ち、
「エテオール王国、パーメラシア王女のおなりです」
と、迎えに出た従業員に伝える。
「えっ」と周りから声が聞こえた。
モリヒトが降りて、パーメラシア王女に手を差し出す。
「ありがとう、ございます」
王女は少し緊張しているが、打ち合わせ通り微笑んでモリヒトの手を取る。
「見ろよ、エルフだ」「まあ、ステキ」「何故ここに」
コソコソ、ザワザワ。
ウザいけど、まあ、今回は我慢だ。
僕は、その後ろからそっと降りる。
建物の中に入ると老夫妻が待っていた。
「遠いところへようこそ。スピトル商会のスピトルでございます」
「パーメラシアです」
商会の長らしい高齢男性から名乗りを受け、お互いに礼を取る。
その後ろから老婦人が待ち切れずに声を掛けて来た。
「貴女があのパトリシアの娘?。 まあ、なんて可愛らしいのかしら」
駆け寄ろうとする老婦人を、女性騎士が間に入って止めた。
「失礼ながら、こちらは王族であらせられます。 許可なく触れることはご遠慮ください」
「ま、まあ!。 小国のくせに生意気なことを」
おやおや。 顔が真っ赤だ。
どんなに国の大きさが違っても王族は王族なんだがな。
「すみませーん。 ここではお客様の目がありますので、場所を変えませんか」
マテオさんが明るい声で提案する。
「おお、失礼いたしました。 どうぞ、奥へ」
会長自ら奥へと案内してくれた。
大きなガラス窓の廊下は、店舗から住居へと続いているようだ。
窓から見える広い庭は手入れが行き届いていないのが分かる。
まあ、冬は雪が積もるから放置で良いのだろう。
来客用の部屋に入り、ソファに王女を座らせ、後は椅子の後ろに立つ。
さらに護衛騎士は入り口の扉の横だ。
向かいの椅子に老夫妻が座る。
高齢のメイドがお茶を運んで来た。
奥方はご機嫌斜めだが、誰も宥めようとしない。
この状態が日常だということだろう。
「失礼だが、エルフ様はどうしてこちらに?」
会長がモリヒトの顔を伺いながら訊ねる。
『我が主人の命により、パーメラシア殿下の護衛として付き添っております』
「主人、それはエテオール国王陛下かね?」
『いえ。 お答え出来ません』
モリヒトには僕の名前を出さないように言ってある。
「モリヒト様はエテオール国に滞在されている神の御遣い様の眷属精霊なのよ。 とってもすごい方なの!」
王女様、やめてくれ。
「ほお」
老商会長は信じたわけではなさそうだが、孫娘の元気そうな言動に優しく目を細めた。
僕はコホンと空咳を一つ。
「スピトル会長様。 私から説明させてください」
「君は誰かね」
僕は王女の椅子の隣に立つ。
「失礼いたしました。 エテオール国で商会に所属しております、アタトと申します。 王族の皆様にご贔屓頂いておりまして、今回、商売の勉強のため、パーメラシア王女様の同行を許可されました」
「ほお、若いのに熱心なことだ」
「ありがとうございます」
僕は丁寧に礼をとる。
そして、全員を簡単に紹介し、
昨日、ゴリグレン様の屋敷に側妃を送り届けたことを話す。
「滞在中、ゴリグレン様のご好意で、パーメラシア様と一緒に首都を観光させて頂くことになりました」
「それは良い。 首都は広い。 多くのことを学べるだろう」
「はい。 私共も楽しみにしております」
「ねえ、今日はこちらに泊まるでしょう?。 夕食の準備もしてあるのよ」
奥方が会話に入ってきた。
チラリと王女を見ると、首を小さく横に振る。
ダメらしい。




